ー密 会ー溺れる前に抱き止めて 【最後にSS】

光月海愛(こうつきみあ)

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frustration 挫折と屈辱

相性

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    駅近くのカフェで待っていると、本当に三十分ほどで、葉築さんがやって来た。

    キョロキョロと中を見回し、店内の端っこの席にいる私に気が付いてくれた。

  「何飲んでるの?」

    二人掛け用の小さな座席なので、彼が座るとやけに顔が近くなる。

 「アイスティー」

 「寒くないの?」

 「ううん、歩いたら喉渇いちゃって」

 「確かに、俺も喉渇いた」

 「なんか飲む?、あ、それともビール飲むまで我慢する?」

   会社を出て、これから二人の時間だと思うと、自然と敬語ではなくなるから不思議だ。

  「いや。今日は飲まない。アルコールのせいにしたくないんだよね、やってる事の」

  「……」

    確かに、アルコール入るとかなり強引になるもんね。

    葉築さんはメニューを眺めて、そしてそれを直ぐに元の場所へ置いた。

  「ここで飯済ませちゃう? 」

  「あー、うん……」

  「そんで、そのまま……俺ん家くる?」

  「え」


    まさかの二回目で、部屋へのお誘い。




  「……葉築さんの部屋に?」

   確かに度々ホテルなんて行ってたら、本命がいるのに、お金だってバカにならないけど……とはいえ、リスクがーー。

     戸惑う私の目を見つめて、葉築さんは直ぐに察したようだ。

   「彼女が来ないか心配してる?」

   「……うん」

   「電車で一時間半以上かかるから、絶対に週明けとかには来ないよ」

   「会社の人には?」

   「見られない。東京の新居は、まだ誰にも教えてない」

    そっか。
    むしろ、この辺でウロウロしてる方がリスク高いんだ。

    コクンと、私が頷くと、

  「決まり。……ここ、珈琲しか頼んだ事ないんだけど、何がオススメ?」

     再びメニューを手に取って、楽しそうに、男性にしては軽すぎるディナーを選んでいた。

   「レタスサンドとか、ベーグルサンド、あとケーキも美味しいよ」

  「OLのランチって感じだな。ま、たまにはいいかも」

    そして、二人分にしては多すぎる量の注文をしてから、それが来て完食するまで、ずっと仕事や会社の人の話をしていた。


   「荒城さんと立道くんはお似合いだと思うんだよね、外見重視のとことか。身勝手なとことか」

    人を見る価値観とか、私に似ているな、とも思った。

   「あの口うるさい小村さんは、ちょっとふざけすぎる室岡支店長の嫁になれば、上手くいくと思うんだよなぁ」

   「うん、わかる」

     短期間で、こんなに話せるようになった同僚も、今までいなかった。




  
   そして。

    ーーー体の相性だって……。


  「俺、彼女とはあんまりしないんだよ。こういう事……」


    仕事出来る人特有イメージの、無機質な感じの部屋とは違う、それなりに生活感のある部屋で、葉築さんは、今日も私の動きを制限する。


  「……どうして? 大事な人だから?」

  「もう、そういうの通り越した……」

  「マンネリってこと?」

   「かもな。で、鷲塚さんはどうなの? 」

  「……え」

  「八年も付き合った彼氏と、どんなセックスしてんの?」

    今夜、私の手首を固定するのは、彼の部屋に有ったタオル。

   ほどくことが可能なのも、この前と同じ。


 「……フツーよ」

 「だからフツーはそれぞれ違うじゃん、どんな場所でどんな体位でヤるのか、正常位ばっか? それとも騎乗位?それとも、……こんな背面?」

    今日は背後から、冷たい手と言葉で攻めてくる。

  「言わないの? 」

    答えない選択を許さない彼の愛撫は、まるで犯罪者。

    それでも、信よりも的確な指先で、下着の中を溢れさせる。


  「……ホテルか私の部屋で、ただ、……挿れるだけ」


    ーーどんなに相性良くても……。


     長い年月を経てツマラナイ性生活に変わってしまった信との日常が、余計に、葉築さんとの浮気に私を、のめり込ませていた。


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