ー密 会ー溺れる前に抱き止めて 【最後にSS】

光月海愛(こうつきみあ)

文字の大きさ
上 下
24 / 134
afterimage 残像

エレベーター

しおりを挟む
    葉築さんが指指したのは、道を挟んだ真向かいにあるコンビニだった。

 「いいですね、でも怒られないかな?」

 「誰に?そんなヤツいる?」

  「小村さんとか」

  「なんでそこで経理が出てくんの? 会社の金で買うわけじゃねーし」

    お金の問題ではなくて、帰りが遅いとチクチク言われそうな気がして。

   何せ、私は営業とは違って、事務所が本拠地だから。

  「なんか言って来たら、″ ガタガタ言うな、あんたのメイク直しの時間よりよっぽど早いわ ″ って鷲塚さん言いな」

  「私が言うの?」

  「いーじゃん、どーせ寿退社するんだろ?」

    小さい事を気にしない葉築さんは、笑いながらコンビニのカフェラテを2つ購入。

  「あのホテルの珈琲より美味しいから」

  ちょっと気恥ずかしそうに珈琲を注入していた。


  「あ、鷲塚さんて砂糖入れるの?」

  「どっちでもいけます。でもカフェラテなら入れようかな?」

    葉築さんが入れてくれた珈琲にシュガーを入れる。
    ついでに備え付けのシナモンパウダーも入れてみた。

 「甘そうな匂いだな」

 「葉築さんはだいたいブラックですよね?」

 「うん。飲み物に甘味は要らないと思ってる」

 「……おとなー」

 「さっき子供扱いしたくせに」

  「両刀遣い」

  「使い方ちがわねー?」

    コンビニを出て、会社までの一キロほどの距離を、珈琲をすすりながら、何気ない会話で埋めていく。

    歩きながら、ふと、久しぶりに遭遇した橋元先生が口にしていた缶珈琲を思い出した。

    あれ。かなり甘いやつなんだよね。 昔から、そういうのばかり飲む人だった。


  ″ 糖尿になりますよ ″

   良くそんなこと言ってたっけ。

   懐かしいこと思い出してたら、いつのまにか会社ビルに着いてしまっていた。


 「ね、女子社員っていつもこの距離歩いて銀行に行ってるの?」



   葉築さんがエレベーターを待ちながら、私の足元を見ていた。

   あ。
   爪先、ちょっと痛んでる。

  「……そうなんです。電車に乗っても、駅から近くじゃないので結局は歩かなきゃいけなくて。だからパンプス、直ぐにダメになって」

    靴がキレイじゃないのって、すごく恥ずかしい。

  「大変だよなぁ、俺はたまたま今日歩きだったけど、普段は車か電車で移動だし」

  「いい運動にはなるけど」

  「荒城さんとかは、あんまり歩いて銀行行かないんじゃない?」

  「え、あー……そーですね、確かに営業の車に便乗させて貰ってる事が多いかな」

 「だろうな、あの人の靴。ヒールが細くて高くて、歩き用じゃねーもん。本当に見た目だけ」

  「営業事務なんで時にはお客様の所へ集金にも行くし、見た目は大事かも」

  「誰もモデル歩きする集金人は望んでねーって」

    前から感じてたけど……。

    葉築さんは、本命の彼女は美人だけど、他の美人には興味がないみたい。

    ちょっと、変わってる?

    私の不可解な視線にも気が付かないまま、

 「はい、どうぞ」

    葉築さんが、降りてきたエレベーターに先に乗せてくれた。


 「良かった、誰も乗ってない」

  
 「……そー、ですね」

    とっくに気がついていたものの、やっぱり、自然と敬語になってしまう。

   ″ 二人の時はタブー ″

   そう言われてたけど、あの時酔ってたし、気にしないでいいのかな。

    エレベーターの上がっていく時の、脳ミソが置いてきぼりになる感じが苦手。

    特に会話もないまま、ーーチン。
    あっという間に会社に到着。

    だけど、

   「この前、聞きそびれた、というか流されたけど」

   「……? はい?」

   「先生とは、どこでセックスしてたの?」

     葉築さんは降りることを許さずに、そのままエレベーターの扉を閉めてしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

大好きな背中

詩織
恋愛
4年付き合ってた彼氏に振られて、同僚に合コンに誘われた。 あまり合コンなんか参加したことないから何話したらいいのか… 同じように困ってる男性が1人いた

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

Sランクの年下旦那様は如何でしょうか?

キミノ
恋愛
 職場と自宅を往復するだけの枯れた生活を送っていた白石亜子(27)は、 帰宅途中に見知らぬイケメンの大谷匠に求婚される。  二日酔いで目覚めた亜子は、記憶の無いまま彼の妻になっていた。  彼は日本でもトップの大企業の御曹司で・・・。  無邪気に笑ったと思えば、大人の色気で翻弄してくる匠。戸惑いながらもお互いを知り、仲を深める日々を過ごしていた。 このまま、私は彼と生きていくんだ。 そう思っていた。 彼の心に住み付いて離れない存在を知るまでは。 「どうしようもなく好きだった人がいたんだ」  報われない想いを隠し切れない背中を見て、私はどうしたらいいの?  代わりでもいい。  それでも一緒にいられるなら。  そう思っていたけれど、そう思っていたかったけれど。  Sランクの年下旦那様に本気で愛されたいの。 ――――――――――――――― ページを捲ってみてください。 貴女の心にズンとくる重い愛を届けます。 【Sランクの男は如何でしょうか?】シリーズの匠編です。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

腹黒上司が実は激甘だった件について。

あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。 彼はヤバいです。 サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。 まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。 本当に厳しいんだから。 ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。 マジで? 意味不明なんだけど。 めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。 素直に甘えたいとさえ思った。 だけど、私はその想いに応えられないよ。 どうしたらいいかわからない…。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

契約結婚のはずなのに、冷徹なはずのエリート上司が甘く迫ってくるんですが!? ~結婚願望ゼロの私が、なぜか愛されすぎて逃げられません~

猪木洋平@【コミカライズ連載中】
恋愛
「俺と結婚しろ」  突然のプロポーズ――いや、契約結婚の提案だった。  冷静沈着で完璧主義、社内でも一目置かれるエリート課長・九条玲司。そんな彼と私は、ただの上司と部下。恋愛感情なんて一切ない……はずだった。  仕事一筋で恋愛に興味なし。過去の傷から、結婚なんて煩わしいものだと決めつけていた私。なのに、九条課長が提示した「条件」に耳を傾けるうちに、その提案が単なる取引とは思えなくなっていく。 「お前を、誰にも渡すつもりはない」  冷たい声で言われたその言葉が、胸をざわつかせる。  これは合理的な選択? それとも、避けられない運命の始まり?  割り切ったはずの契約は、次第に二人の境界線を曖昧にし、心を絡め取っていく――。  不器用なエリート上司と、恋を信じられない女。  これは、"ありえないはずの結婚"から始まる、予測不能なラブストーリー。

処理中です...