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思い出と現実
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私が先生を好きになったのは、高校に入学式して半年が過ぎた頃だった。
うちの学校は、各専門委員会に所属するのが決まりで、私は何となく、″ 安全委員会 ″という、名前のまんま、生徒達自身による、生徒の安全を守る会に名前を置いた。
「役員と顧問を紹介します」
その委員会の顧問が橋元先生だった。
「橋元です。二年生以上は知っていると思うが、俺は、体育とサッカー部のことばかり考える体育バカだ。委員会ではお前達が主となって自ら動け。俺はそれを見守るのみ」
一見、ぶっきらぼうにも見える細い目。
それでも笑うと、幼い顔は誰かに似てる。
筋肉美も隠せない、長身でスラリとした橋元先生。
当時、まだ20代だった先生は、女子の間では人気があったようだ。
……今思うと不思議なんだけど。
私は、十歳しか変わらない先生に、お父さんの面影を重ねていた。
小三の時に別れた父は、仕事柄、帰ってきたら、家ではいつもランニングと作業着のズボンというイデタチだった。
30過ぎていたとは思うけど、お父さんの身体は日焼けして、引き締まってカッコ良かった。
そのムキムキの腕に、兄と二人、ブラブラとぶら下がって遊んでたっけ。
無口ではあったけど、優しい、逞しいお父さんが大好きだった。
「……おい、そこの一年、話聞いてたか?」
月一の委員会の話し合い。
私は、ついボンヤリし、話を聞いてなくて、橋元先生に注意を受けてしまった。
「……あ、あの……はい」
話を聞いてなかったのに、ハイと答えてしまった。
委員長が黒板に書いていたのは、学校前の横断歩道での挨拶運動の日程だった。
「お前、責任もってやるか?」
「え」
「早朝からの運動だよ。皆、電車通学だったり朝練があったりてして人数が足りない。そういう規制がないのなら、お前やってくれ」
「……はぁ」
……まだ、私の名前を覚えていない橋元先生は、お前呼ばわりして、私に当番を委ねてきた。
当時の私も、今と変わらず、人に変に逆らったりするのは避けたくて、
「……はい。……やります」
したくない事を引き受けるのは、良くあった。
「お前は声が小さいな。腹筋運動したら大きな声が出るようになるから、挨拶運動の日まで鍛えとけ」
自称、体育バカの先生の発言に、生徒達の間で小さな笑いが起きたものの、自分の欠点を指摘された私は、とても恥ずかしい思いをした……。
外見に惹かれていただけに、橋元先生のことが苦手になったっけ。
「伊織、あんた、なんでこんなに早く登校するの?」
挨拶運動の日。
いつもより一時間早く起きていた私に眠そうな母が声をかけてきた。
「委員会で早く行かなきゃいけないから」
「お弁当は?」
「作った。お母さんのはお弁当箱に詰めてないから、あとはやって」
昼と夜のパートを掛け持ちしていた母は、朝が苦手で、お弁当は自分で作っていた。
「いってきます!」
「……伊織は元気ねぇ」
挨拶運動なんて、本当に行きたくなかったけど、母にそんな顔を見せたくなくて足早に家を出た。
2本早いバスに乗ると、ガラガラで余裕で座れた。
窓から、閑静な住宅街を眺めてると、アパートから出てくる、見覚えのある男性を発見した。
『橋元先生……』
アパートから出て行く先生を、赤ちゃんを抱っこした女の人が見送っていた。
『……奥さんとお子さん?』
振り返って手を振る橋元先生は、本当に幸せそう……。
絵に描いたような円満な家庭。
うちのお父さんとお母さんにも、あんな時があったのかな?……なんて思ってしまった。
「早かったなー、一年坊主」
七時を過ぎても、運動場所の横断歩道には、先に来ていた委員長の三年男子と、私しかいなかった。
そこに5分ほど遅れて到着した橋元先生は、まだ名前を覚えていない私に、にんまりと笑って見せた。
「先生、いい加減名前覚えてやれよ、この人、鷲塚さん。そんで女子だから坊主はおかしいっしょ?」
委員長の突っ込みに、橋元先生は、「そうか」と笑うと、
「覇気のない顔してたから、てっきり来ないと思ってたのに、偉いぞ、鷲塚!」
いきなり、私の頭をぐしゃぐしゃと撫で始めた。
「え、ちょっ」
せっかくブローした髪を、まるで動物を触るみたいに無造作に扱われてビックリしたけど、
「責任感のあるやつは好きだ」
まるでお父さんみたいに誉められて、ちょっとというか、かなり嬉しかった。
そんな、お父さんみたいで、あったかい家庭を持つ橋元先生と、まさか、禁断の恋をするなんて思ってもなかった。
先生だって、まさか、あんな事が起こるまでは、生徒と不倫するなんて微塵も思ってなかったはずだ。
ーーーブフブ!
ーーーブフブ!
葉築さんと関係し、朝帰りした土曜日。
その日は夕方近くまで部屋で寝ていたせいで、信からのメッセージや電話には全く気がついてなかった。
夜まで既読すらしなかった内容は、
【俺の両親が伊織の母さんに挨拶に行きたいって】
結婚に向けての、催促だった。
うちの学校は、各専門委員会に所属するのが決まりで、私は何となく、″ 安全委員会 ″という、名前のまんま、生徒達自身による、生徒の安全を守る会に名前を置いた。
「役員と顧問を紹介します」
その委員会の顧問が橋元先生だった。
「橋元です。二年生以上は知っていると思うが、俺は、体育とサッカー部のことばかり考える体育バカだ。委員会ではお前達が主となって自ら動け。俺はそれを見守るのみ」
一見、ぶっきらぼうにも見える細い目。
それでも笑うと、幼い顔は誰かに似てる。
筋肉美も隠せない、長身でスラリとした橋元先生。
当時、まだ20代だった先生は、女子の間では人気があったようだ。
……今思うと不思議なんだけど。
私は、十歳しか変わらない先生に、お父さんの面影を重ねていた。
小三の時に別れた父は、仕事柄、帰ってきたら、家ではいつもランニングと作業着のズボンというイデタチだった。
30過ぎていたとは思うけど、お父さんの身体は日焼けして、引き締まってカッコ良かった。
そのムキムキの腕に、兄と二人、ブラブラとぶら下がって遊んでたっけ。
無口ではあったけど、優しい、逞しいお父さんが大好きだった。
「……おい、そこの一年、話聞いてたか?」
月一の委員会の話し合い。
私は、ついボンヤリし、話を聞いてなくて、橋元先生に注意を受けてしまった。
「……あ、あの……はい」
話を聞いてなかったのに、ハイと答えてしまった。
委員長が黒板に書いていたのは、学校前の横断歩道での挨拶運動の日程だった。
「お前、責任もってやるか?」
「え」
「早朝からの運動だよ。皆、電車通学だったり朝練があったりてして人数が足りない。そういう規制がないのなら、お前やってくれ」
「……はぁ」
……まだ、私の名前を覚えていない橋元先生は、お前呼ばわりして、私に当番を委ねてきた。
当時の私も、今と変わらず、人に変に逆らったりするのは避けたくて、
「……はい。……やります」
したくない事を引き受けるのは、良くあった。
「お前は声が小さいな。腹筋運動したら大きな声が出るようになるから、挨拶運動の日まで鍛えとけ」
自称、体育バカの先生の発言に、生徒達の間で小さな笑いが起きたものの、自分の欠点を指摘された私は、とても恥ずかしい思いをした……。
外見に惹かれていただけに、橋元先生のことが苦手になったっけ。
「伊織、あんた、なんでこんなに早く登校するの?」
挨拶運動の日。
いつもより一時間早く起きていた私に眠そうな母が声をかけてきた。
「委員会で早く行かなきゃいけないから」
「お弁当は?」
「作った。お母さんのはお弁当箱に詰めてないから、あとはやって」
昼と夜のパートを掛け持ちしていた母は、朝が苦手で、お弁当は自分で作っていた。
「いってきます!」
「……伊織は元気ねぇ」
挨拶運動なんて、本当に行きたくなかったけど、母にそんな顔を見せたくなくて足早に家を出た。
2本早いバスに乗ると、ガラガラで余裕で座れた。
窓から、閑静な住宅街を眺めてると、アパートから出てくる、見覚えのある男性を発見した。
『橋元先生……』
アパートから出て行く先生を、赤ちゃんを抱っこした女の人が見送っていた。
『……奥さんとお子さん?』
振り返って手を振る橋元先生は、本当に幸せそう……。
絵に描いたような円満な家庭。
うちのお父さんとお母さんにも、あんな時があったのかな?……なんて思ってしまった。
「早かったなー、一年坊主」
七時を過ぎても、運動場所の横断歩道には、先に来ていた委員長の三年男子と、私しかいなかった。
そこに5分ほど遅れて到着した橋元先生は、まだ名前を覚えていない私に、にんまりと笑って見せた。
「先生、いい加減名前覚えてやれよ、この人、鷲塚さん。そんで女子だから坊主はおかしいっしょ?」
委員長の突っ込みに、橋元先生は、「そうか」と笑うと、
「覇気のない顔してたから、てっきり来ないと思ってたのに、偉いぞ、鷲塚!」
いきなり、私の頭をぐしゃぐしゃと撫で始めた。
「え、ちょっ」
せっかくブローした髪を、まるで動物を触るみたいに無造作に扱われてビックリしたけど、
「責任感のあるやつは好きだ」
まるでお父さんみたいに誉められて、ちょっとというか、かなり嬉しかった。
そんな、お父さんみたいで、あったかい家庭を持つ橋元先生と、まさか、禁断の恋をするなんて思ってもなかった。
先生だって、まさか、あんな事が起こるまでは、生徒と不倫するなんて微塵も思ってなかったはずだ。
ーーーブフブ!
ーーーブフブ!
葉築さんと関係し、朝帰りした土曜日。
その日は夕方近くまで部屋で寝ていたせいで、信からのメッセージや電話には全く気がついてなかった。
夜まで既読すらしなかった内容は、
【俺の両親が伊織の母さんに挨拶に行きたいって】
結婚に向けての、催促だった。
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