ー密 会ー溺れる前に抱き止めて 【最後にSS】

光月海愛(こうつきみあ)

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secret 秘密

東京タワー

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「すげーな、高校一年で10歳年上の教師とセックスかー!どこでしてたの? 放課後の教室?」

「ちょ、奥田さん、声が大きい!」

こうなるとセクハラに近い。

「詳しく聞きたいけど、ここじゃ無理だろーなぁ」


時計を見ると、PM 9:00。
繁盛した店内はぎゅうぎゅうで、私と奥田さんの隣にもお客さんがいる。
その男性客が、奥田さん話し声に反応していたから、かなり恥ずかしかった。

「おあいそうー」

フラッと立ち上がった奥田さんは、急に店を出る姿勢を見せた。
私も慌てて立ち上がる。

「お会計、九千三百円になります」

財布から札を取り出す私の手を遮り、奥田さんはカードで支払いを済ませてしまった。

「私、結構食べましたよ? それに奥田さんの歓迎会のつもりでもいたので」

「そーだったの? なら、このあとの珈琲おごって 」

奥田さんは、やや頼りない足取りで店を出ると、ロビーで一旦休憩するように腰をおろした。

お腹いっぱいになった私も、動くのがダルいくらいで、その隣に座らせてもらう。

「本当にごちそうさまでした」

男の人に奢ってもらったのは久しぶりで嬉しかった。タイミングがおかしいなと思いながらも御礼を言った。

「男が払うの当たり前じゃん」

「そんな決まりないですよ? デートを楽しむのは二人なんだから」

だいたい、信とのデートはいつもワリカンだ。

「鷲塚さんの彼氏って、甘やかされてんだろぉなぁ」



「はい? 甘やかされてる?」

少し眠た気な奥田さんは、壁に頭をもたれかけたまま、フゥーと息を吐いて続けた。

「だってさ、自営業つーか親が薔薇を作ってさ、それを継ぐ為に学んだりはしてるだろうけど、会社に勤めて荒波に揉まれたりもしてないじゃん?」

「……」

おっしゃる通り、世間知らずの部分はあるけれど。
それでもって、未だに親から小遣いとしてお金を持たされてるので、自立心も育っていない気もする。

「おまけに、優しい同級生の彼女にも見放されずにいるから、挫折を味わったりもしてない。きっと結婚したら苦労すると思うよ」

「……」

誰にも話した事のなかった、信との結婚を前向きに考えられない理由ーー

それを、この人、直ぐに見抜いたーー

「奥田さんて……凄いですね」


感心を隠せずに、惚れ惚れして言うと、

「また戻ってる!」

奥田さんが、いきなり唇に指を当ててきた。

「二人の時はタブー」

「え」

いちいちドキドキさせる人。

「…なにがです?」

「それ! また敬語になってる!」

あー、

「癖で。やっぱり社内の人だし」


これもあって、私は、荒城さんみたいに親しみは持たれない。

「もう、そんなのいらないよ。 あとさ、俺のこと名字で呼ぶの止めてくれない?」

「え、でも」

「俺のことは、″ 葉築 ″ でいい。気に入ってるんだ、この名前。変わってて」


嫌味ではなく、爽やかなくらいの自信に満ち溢れた発言は、お客様にも社内でも受けがいい。

皆が引き寄せられる。

この人には、成功する未来が待っているような気がする。


「は……い」

私とは違う、明るいオーラを持つ葉築さん。

いつの間にか、揺れるように少しウトウトし始めていた。

ここで寝られたら困るな。

ロビーの喫茶店に目をやると、まだ開いていた。


「……葉築さん、珈琲のみます?」





さっき、″ 珈琲奢って ″ って言ってたし、眠気ざましにはいいかも。

「深煎りの珈琲頼んできますね」

返事を聞かないまま、立ち上がった私の手を、

「!!」

グイッと葉築さんが掴んだ。

「酔いがさめたら、口説けないから」

そして、引き寄せるように座らせて、私の耳に囁く。


「東京タワー観ながら、珈琲、飲もう」


……それは。

ここのホテルの部屋に行こう、という誘いだった。


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