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secret 秘密
初めての価値
しおりを挟む「どこに行こうか迷ったんだけど。お寿司と焼き鳥、フレンチだったらどこがいい?」
信号で立ち止まり、奥田さんがスマホを見ている。
「……私が決めてもいいんですか?」
「うん。俺、好き嫌いないから」
「それなら、お寿司はちょっと苦手です」
「あ、そう? なら二択になったな」
「それと、育ちが悪いので、あんまり、かしこまった所は……」
奥田さんが思い切り吹き出した。
「育ち悪いのは俺もだよ! 正直言うと、フォークとナイフしか出てこない店は好んで行かない! て事で、決まりだな」
周りに社内の人がいないせいか、奥田さんは、握った指先を離さない。
それでも、誰に見られるか分からないので、私は気が気ではなかった。
「……あの、手、」
「あ、あぁ、いや?」
「……ではないんですけど」
私が、周りをキョロキョロする仕草をすると、
「気になるよね、でも鷲塚さんが、突然走って逃げだすかもしれないと思って」
「そんなに嫌なら、待ってません」
「そう?」
あり得ないこともない話をして、ずっと冷たかった指を離してくれた。
顔に似合わず、結構、押しが強い人なのかも。
「予約なしでもいけるかな?」
着いたのは、東京タワーが見える、人気の某ホテル内の居酒屋だった。
「二名様ですね、カウンターでよろしければ直ぐにご案内できます」
五時からオープンの居酒屋は、既にテーブル席は埋まっていた。
「鷲塚さん、カウンターOK?」
「はい、大丈夫です」
案内された席に並んで座る。
なんか、こういうお店を男性と二人きりなんて、超久しぶり過ぎて新鮮……。
「ここの焼き鳥うまいんだよなぁ」
「彼女さんとも来るんですか?」
「うん、出会った頃……三年位前は、よくここにも来てた」
おしぼりで手を吹きながら、奥田さんは懐かしそうな顔をした。
噂では相当な美人な彼女。
付き合いに何か不安なところでもあるの?
とりあえず頼んだ生ビールで乾杯をして、付け足しのキャベツの和え物を口にする。
「鷲塚さんは、彼氏とはどこに遊びに行くの?」
それからしばらくは、定番の質問をお互い繰り返していたのだけど、
「鷲塚さんの初めてってさ、もしかしてその同級生の彼氏?」
お酒が進むにつれて、話は、段々そっち系になっていった。
「……どうして?」
アルコールが入り、話も親密度を増したせいか、私も、上司というよりも、一つ年下の男性という感じで答え始めていた。
「だってさ、付き合い始めたのが八年前という事は、鷲塚さんは18才だろ? それより以前に済ませてたとしたら、ちょいイメージが変わってくる」
「どんなイメージ?」
「せーじゅん!」
「清純? 大人しくはあったけど、そうとは言い切れないよ?」
「マジー?」
奥田さんも白い肌がピンクになって、いい感じで酔いが回ってきてるんだとわかった。
「じゃぁ、ズバリ聞く。鷲塚さんのバージン奪った奴ってどんな相手? 何歳の時?」
そんなに経験豊富ではないから断定はできないけど。
男って、女の ″ 初めて″ を知りたがる生きモノらしい。
ーー信と初めてセックスした時。
私が初めてじゃなかったのが分かり、信も、その相手を知りたがったっけ。
『信が知らない、中学の同級生だよ』
絶対に話してはいけない相手だった。
『卒業アルバムあるだろ? それで教えてよ』
『もう過去のことだし、思い出したくない』
『なんか、むかつくー』
『私は、信の過去はあんまり知りたくないよ?』
頑なに、私が初体験の相手を教えなかったのは、
相手が高校の先生で、既婚者だったから。
先生を知っている信には、絶対に秘密にしなきゃいけなかった。
「俺は、鷲塚さんと同じ地元でもないし。知ったって、どうしようもないからさー」
カクテルと、次々出される焼き鳥を頬張りながら、奥田さんは赤い目をして聞いてきた。
「なら、別に必要ないでしょ? 」
「いや、どんな相手か妄想するだけで疼く! じゃあさ、消去法でいいから答えてよ!イエスかノーで!」
結構、酒くせが悪いのかしら? と思うほど、引っ張りまくる。
「……面倒くさいなぁ」
「いいから! ″ その相手は同級生である ″」
「ノー!……」
久しぶりのお酒が心も開放的にさせるのか、つい、それに答える私。
「年下ー!」
「ノー……」
「じゃあ、年上か! それは部活の先輩である!」
「ノー……」
なんだかんだと質問 & 消去されて、とうとう、高校時代の先生が、初めての相手だと暴露する事になった。
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