ー密 会ー溺れる前に抱き止めて 【最後にSS】

光月海愛(こうつきみあ)

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secret 秘密

冷たい指と夕焼け

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都合が悪くなったらって……。

私に彼氏がいるのを知っていて、誘ってくる奥田さんの意図が分からない。

……何か、悩みごとでもあるの?

でも、それ、私みたいな口数の少ない女に相談する?

良く分からないけど、今、確かな事はーーー

胸の高鳴りが、彼と話したいと訴えているということーー


アカウントの付箋を胸ポケットに仕舞い、流しに置いたカップ類を洗いながら、心の中で信に謝った。



ごめん。

ご飯だけだから。




ーーーー



「お疲れ様ー」「お疲れー」

時期的に多忙ではないため、社員はほぼ定時で上がっていく。
私も当然、そうなのだけど。

「あれ? 葉築、お前、クライアントとの打合せ用の資料作るって言ってなかったか?」


奥田さんが、何かを残して帰社するのは珍しい事らしく、室岡さんに不審がられていた。


「ソレ、月曜日なんで。明日でも充分間に合いますから」

私より少し後に事務所を出た彼を、エレベーターの所でスマホを見る振りをしながら待ってみた。

「あら? 乗らないの?鷲塚さん」

いつもより入念にメイク直しをした荒城さんが、先に乗り込む。

奥田さんの歓迎会を断られたために、仲のいい営業と女子社員だけで飲み会をするのだという。

「ちょっと忘れ物して…戻るところ…」
「相変わらずねぇ」

勿論、その誘いを私は受けてはない。飲み会は強制的なもの以外は参加しないようにしてるので、自然とその類いには誘われなくなった。

エレベーターの扉が閉まり、落ちていく音を聞いていると、


「待っててくれたんだ?」

奥田さんがやって来た。




私がコクンと頷くと、奥田さんは八重歯を見せて幼い顔で笑う。

「ごめんね、彼氏とデートじゃなかった?」

それには、首を横に振って答える。

「なに? 声を発しないゲームでも開始した?」

「……ちが」

そうではないけど、なぜか緊張MAXで、カスレカスレの声しか出ない。


「お、よかった、二人きりだ」


エレベーターは、二人だけを乗せて落ちていく。


「彼氏とは土日に会ってるの?」


続く質問に、ようやく低い声で答えることができた。


「今は殆ど逢ってなくて、月に一度か多くて二度会うだけです」


マンネリ化した付き合いを話すのは、少し恥ずかしかった。



「月一か……それで良く結婚って話になったなぁ」

そこまで奥田さんが知っているとは……。
荒城さんが言うように、惰性でプロポーズされたみたいで、恥ずかしさは増した。

「とは言っても俺も、彼女とは月に二回位しか会えてないけどね」

下に着いたエレベーターから降りていく彼の指先が、私の指をそっと握ってきて、ハッとする。


「似た者同士、仲良くしようよ」

「……」

冷たい手……。

キレイな指に相応しいのかもしれないけど、ヒヤッとした。


ーーなんで?

この人、どうして私なんかに興味を持ったの?


「久しぶりに、こんな真っ赤な夕焼け見たな」


奥田さんの声につられて、顔を上げる。


ビルを降りた先に広がる景色は、見慣れていた今までのモノより、随分と明るく見えた。

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