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secret 秘密
誘い
しおりを挟む「さーすが荒城さん! 舌も間違いないもの持ってるね!」
「珈琲、ブラックでもいけるわー」
一足先にケーキをつまみ食いしていた私と奥田さんは、みんながお茶タイム中、水槽のメダカの話をしてた。
「あの元気なかったメダカ、どれ?」
「どれだっけ? わかんなくなっちゃいました」
水槽を覗いてみるも、弱ったメダカは探せなかった。
「ろ過器変えたから、復活したのかもな」
「ですね」
「元々、メダカって繁殖力あって丈夫な魚だから小学校の理科で飼育を習うんだろうね」
「あー、小学校三年生の時じゃなかったです?」
「たぶんそう。よく学年まで覚えてるね!」
「ええ、その時は、いろいろあって……」
よくある話ではあるけれど。
「いろいろ?」
「……はい」
小三の時に、うちは両親は離婚をした。
お父さん子だった私にとって、父親との離別はとても大きな出来事だった。
父に引き取られた兄とも、あれから会ってはいない…。
転校もしたし、した先では直ぐに友達もできなかった。
小三の春から、私は寂しい毎日を送るようになって、教室のメダカを良く眺めていたと思う。
「……そうか、なら、良く覚えていて当然だよね。その時、鷲塚さんがどんな気持ちでメダカを見てたか、想像すると切ない」
つい、話してしまった昔のことも、奥田さんは流したりせずに真面目に聞いてくれた。
「変なんですけど、離婚と転校が重なって、地元の担任の先生が小銭入れをくれたんです」
「へぇ、わざわざ買ってくれたの? どんなやつ?」
「先生が普段から使ってた赤い、あんまり可愛いデザインじゃなかったんですけどね」
「お古か。小三の女の子にとっちゃ微妙なプレゼントだな」
革を編んだ、金魚みたいな形をした小銭入れ。
「私、その先生と親しくもなかったし、殆ど使う事なかったんですけど、捨てられずに未だに家にあるんです」
お守りみたいに。
捨てたらダメなような気がして、ずっと机の引き出しに入れている。
「鷲塚さんは、古いものも大切にするみたいだね」
「はい?」
″ 古いものも″ ーー
始め、何をさしてるのか分からなかった。
メダカから、私に視線を移した奥田さんは、右手の親指を立てて、
「男」
と笑って見せた。
あ。
「知ってるんですか?」
私の、同級生との長い付き合い。
「荒城さんがあれだけデカイ声で話せば、聞こえてくるよ」
「……ですよね、どうでもいいことなのに」
「どうで良くない…俺はね」
「え」
「俺も今の同い年の彼女と長いから、そんな共通点で、もっと鷲塚さんと話をしたかった」
八重歯を見せて、可愛らしく笑っていた表情から、ふと、″ 男 ″ の顔になった奥田さんは、
「仕事終わったら、飯でも行かない?」
周りに聞こえないように、囁くように私を誘ってきた。
「おー、葉築! 何、お前、鷲ちゃんといい感じになってるんだよー、彼女にチクるぞー」
室岡支店長が割り込んできて、二人の間に流れていた ″ 秘密 ″ の空気が一変に壊れる。
奥田さんは、肩を抱いてくる室岡さんを、もろに邪険そうに扱いながら、
「女子とメダカの話したくらいで俺の彼女は怒んないっすよ」
さりげなく誤魔化した。
私は、冗談なのか本気なのか分からない誘いに、まだドキドキしていたのだけど、
「またメダカかー、お前ら好きなー」
カップやお皿を片付ける私の後を追うように、奥田さんも再び給湯室へやってきて、
「もし、都合悪くなったら、これに入れて」
アカウントを書いた付箋を、私の手の甲に貼り付けてきた。
ーー本気……なの?
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