ー密 会ー溺れる前に抱き止めて 【最後にSS】

光月海愛(こうつきみあ)

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secret 秘密

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 「お疲れ様です、奥田さんはチーズ大丈夫ですか?」

   人数分切り分けながら、トレイの小皿に一個ずつのせていると、

 「食えるよ。好物ではないけど。てか、大皿にのせたら? 洗うの一枚で済むよ。どーせ後片付けは鷲塚さんがするんでしょ?」

   食器棚から一番大きなお皿を奥田さんが取り出してきた。

 「でも、まとめて置いてると、食べない人もいるから」

   大皿だと、数個ほど残ってしまうので、私は、いつも小皿にのせて各デスクに配っている。

 「遠慮して食べないのは鷲塚さんくらいだろ? あとは食べることに興味薄くて、わざわざ食べに出向かない奴とか」

   そう言うと、奥田さんはケーキを一つまんで、私の口元に持ってきた。

 「はい」

 「え」

 「俺は後者の方。だから、俺も今ここで頂く。鷲塚さんも。ほら、一番大きいケーキ食べちゃいな」

 「…でも」

   そして、一番ハシッコにあった小さいケーキをパクりと一口で頬張っていた。

 「うまっ!  ほら、買ってきた&切り分けた人の特権!」

 「は、はい」

   結局、奥田さんに、あーんしてもらう形に……。




買ってくる時に試食はしていたものの、

「……やっぱり、美味しい」

濃厚なチーズの風味と、抑えた甘さ&程よいしっとり感が絶妙だった。
奥田さんの、綺麗な指からだったから、尚美味しいのかも。

「な? 俺の実家の饅頭とどっちがうまい?」

その問いには、ちょっと返事困った。

なぜなら、

「鷲塚さん、数が足らないと思って食ってねーだろ?」

奥田さんの言う通り、食べてないからだ。

「もー、どこもかしこも鷲塚さんらしいな! 今度は鷲塚さんだけに持ってくるから。それとも直接、店舗に連れて行こうか?」


……ドキッとすることを、軽く言う人。


「おーい、ヤカン、沸騰してんじゃねーか?」


そこへ、給湯室の熱気に気が付いた室岡さんが入ってきた。

「あ、ほんとだ! 沸騰してる!」

沸騰したら″ピー″!となる機能はとっくに壊れてしまっていた。

慌てて火を止め、珈琲メーカーにフィルターをセットしようとしていると、

「レギュラー珈琲を皆の分淹れるの大変じゃん、これ、四人分位しか取れないし、インスタントにしよう」

奥田さんが、インスタント珈琲を手早くカップに入れ始めた。

「えー、せっかくのチーズケーキなのに、インスタントぉぉ?」

室岡さんが、反対しようとも、

「時間もったいない。ケーキが美味いんだから飲み物は何でもいいんですよ、室岡さん来たついでに手伝って」

さっさと、それにお湯を注いで、

「鷲塚さんは、ケーキの方、持ってきて」

と、室岡さんと二人で分けて珈琲のトレイを事務所に運んでいた。

あのざっくりとした粉の入れ方といい、さすが、というか、奥田さんらしいなぁと思った。


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