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air 新しいもの
寛大なひと
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会議に使った資料をシュレッダーにかけていると、奥田さんが現れた。
「あ、いえ、まだです」
会議には全員出席していたし、メール展開は後でいいと考えていた。
「CCで他支店長に送るから、先にやっておいた方がいいよ。記憶に新しいうちに」
言われて、それもそうだと思い、途中の資料をシュレッダーの脇に置いてデスクに戻る。
すると、後を付いてきた奥田さんが、私の手書きの議事録をじっ……と見つめ、
「……思ったより……」
急に、下を向いて笑い始めた。
″ 思ったより ″ ?
「な、なんですか?」
「あ、いや。見た目は凄く堅い字を書くイメージがあったもんで意外だなと……」
「……汚いって、ことです?」
赤くなるのが自分でも分かった。
「そこまで言わないけどさ」
「″ けど ″ ?」
「全く人に媚びてない字だよね」
「……え」
なに、それ、誉めてんの? けなしてんの?
手書きのメモを見ながら、まずワードで文書にする。
その際も、何故か、奥田さんは立ったまま私の背後で見守っていた。
そんなに私の仕事ぶり、心配?
「な、なにか?」
振り返って彼の方を見ると、その目元も口元も緩んでいた。
「鷲塚さん、いい耳持ってるね」
「は、い?」
どういうこと?
奥田さんは、私の手書きのメモの、室岡支店長からの報告箇所をコンコンとペンで指摘して、
「鷲塚さんは、″ 現在、さがしてるの ″ とメモしてるけど、実際には、室岡さん ″ 現在、佐賀支店の″ って話してたよ」
言いながら吹いていた。
ウソ!? こんな聞き取り違いある?
「他にもあるのかもしれない。一度文書にしたら俺に確認させて。俺もメモ取ってるから」
「は……い。お手数かけます」
「いや、間違い探しは楽しいよ」
笑いながら、自分のデスクに戻っていく奥田さんは、
「おい、奥田、この見積り見てくれ」
直ぐに、室岡さんに呼ばれてそちらへ行っていた。
「忙しいなぁ、上からのお気に入りは」
イヤミとも取れることを呟いているのは、奥田さんより2つ先輩の営業の立道さん。
噂では荒城さんの事を本気で狙っているらしい。
……なもので、
「奥田さん、全然、私に話しかけてくれない!」
荒城さんが、奥田さんの話ばかりするので余計に面白くないらしい。
「ちょっと?! ここに会議資料、置きっぱにしたの誰?!」
ヒステリックな声をこちらに向けているのは、経理の小村さん。
「す、スミマセン!」
慌ててシュレッダーのところへ行く。
私がダメなのは、人に流されて優先順位が変わってしまうことだった。
「物事を中途半端にやるのは良くないって前から言ってるでしょ?! そもそも、鷲塚さん、奥田さんにろ過器の稟議書あげるように言われてたんじゃないの? あなたの仕事は大したことないものばっかりなんだから溜め込まないで! 庶務っていうのは部署の皆がやりやすいように動くのが仕事なの!言わば皆の雑務係……」
また、始まった……。
ひたすらシュレッダー作業を続ける私の隣で、小村さんは入社当時から変わらない、″ 庶務蔑 ″ 発言を繰り返す。
トイレでは機嫌が良かったのに。
さっき、室岡さんに数字の打ち間違いを指摘されてから苛々してる様子。
「返事はないけど聞いてるの?!」
小村さんがヒートアップしたところに、
「それ、あんた、おかしくない?」
また、奥田さんが舞い戻ってきてしまった。
「あ、いえ、まだです」
会議には全員出席していたし、メール展開は後でいいと考えていた。
「CCで他支店長に送るから、先にやっておいた方がいいよ。記憶に新しいうちに」
言われて、それもそうだと思い、途中の資料をシュレッダーの脇に置いてデスクに戻る。
すると、後を付いてきた奥田さんが、私の手書きの議事録をじっ……と見つめ、
「……思ったより……」
急に、下を向いて笑い始めた。
″ 思ったより ″ ?
「な、なんですか?」
「あ、いや。見た目は凄く堅い字を書くイメージがあったもんで意外だなと……」
「……汚いって、ことです?」
赤くなるのが自分でも分かった。
「そこまで言わないけどさ」
「″ けど ″ ?」
「全く人に媚びてない字だよね」
「……え」
なに、それ、誉めてんの? けなしてんの?
手書きのメモを見ながら、まずワードで文書にする。
その際も、何故か、奥田さんは立ったまま私の背後で見守っていた。
そんなに私の仕事ぶり、心配?
「な、なにか?」
振り返って彼の方を見ると、その目元も口元も緩んでいた。
「鷲塚さん、いい耳持ってるね」
「は、い?」
どういうこと?
奥田さんは、私の手書きのメモの、室岡支店長からの報告箇所をコンコンとペンで指摘して、
「鷲塚さんは、″ 現在、さがしてるの ″ とメモしてるけど、実際には、室岡さん ″ 現在、佐賀支店の″ って話してたよ」
言いながら吹いていた。
ウソ!? こんな聞き取り違いある?
「他にもあるのかもしれない。一度文書にしたら俺に確認させて。俺もメモ取ってるから」
「は……い。お手数かけます」
「いや、間違い探しは楽しいよ」
笑いながら、自分のデスクに戻っていく奥田さんは、
「おい、奥田、この見積り見てくれ」
直ぐに、室岡さんに呼ばれてそちらへ行っていた。
「忙しいなぁ、上からのお気に入りは」
イヤミとも取れることを呟いているのは、奥田さんより2つ先輩の営業の立道さん。
噂では荒城さんの事を本気で狙っているらしい。
……なもので、
「奥田さん、全然、私に話しかけてくれない!」
荒城さんが、奥田さんの話ばかりするので余計に面白くないらしい。
「ちょっと?! ここに会議資料、置きっぱにしたの誰?!」
ヒステリックな声をこちらに向けているのは、経理の小村さん。
「す、スミマセン!」
慌ててシュレッダーのところへ行く。
私がダメなのは、人に流されて優先順位が変わってしまうことだった。
「物事を中途半端にやるのは良くないって前から言ってるでしょ?! そもそも、鷲塚さん、奥田さんにろ過器の稟議書あげるように言われてたんじゃないの? あなたの仕事は大したことないものばっかりなんだから溜め込まないで! 庶務っていうのは部署の皆がやりやすいように動くのが仕事なの!言わば皆の雑務係……」
また、始まった……。
ひたすらシュレッダー作業を続ける私の隣で、小村さんは入社当時から変わらない、″ 庶務蔑 ″ 発言を繰り返す。
トイレでは機嫌が良かったのに。
さっき、室岡さんに数字の打ち間違いを指摘されてから苛々してる様子。
「返事はないけど聞いてるの?!」
小村さんがヒートアップしたところに、
「それ、あんた、おかしくない?」
また、奥田さんが舞い戻ってきてしまった。
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