3 / 134
florting おだやかに……
好印象
しおりを挟む
デスクに戻ってみると、他の女子社員たちがちょっとソワソワしてた。
「千葉支店の人らしいよ、やり手だって!」
どうやら、急遽病気を理由に退職した営業マンの代わりに、他支店より男性社員が異動になって来るらしかった。
「鷲塚さん、さっき室岡さんと話してたでしょ?
異動してくる営業マンのこと、話題に出なかった?」
私の前のデスクの営業事務の荒城《あらき 》さんが振り返った。
私より一つ年下の彼女は、社内一カワイイと言われているアイドルにもなれそうな容姿の女子だ。
「そんな話は微塵にも……」
「じゃ、なに話してたの?」
「メダカとか」
「なんだー」
後輩であるにもかかわらず私にタメ口をきく。
私だけではない。他の先輩たちにも殆ど。
それでも許されるのは、やはり天性の美貌がものを言ってるんだろう、と思う。
荒城さんといい、他の女子社員といい、ここには華のある女子社員が多い。
結婚退職していった先輩たちも、美にお金をかけているような人ばっかりだった。
ここで30過ぎまで独身で働いていると、いつの間にかお局様的に扱われていくので、皆なんとか30までには寿退社をしたいと話していた。
私も来年は27歳。
……そのせいか、結婚をしたいわけでもないのに、信と結婚するのもアリなのかと、思い始めている。
「千葉支店営業一課より赴任してきました、奥田葉築です」
朝礼時。
千葉支店から赴任してきたという話題の営業マンが自己紹介を始めた。
「葉築なんて、女みたいな名前で子供の頃は嫌でしょうがなかったんですけど、営業になってからは、この名前で良かったなと思ってます。お客様にも仲間にもすぐ覚えていただけて」
新任の挨拶は、「即戦力になれますように頑張ります」とかの堅苦しい文言が多いのだけど、この奥田さんはちょっと違った。
「仕事は好きですが、仕事人間にはなりたくありません。チームワークを大事に、無理なく業績アップに貢献したいなと思ってます」
挨拶と同じように、フランクなリラックスした表情。
色白で、やや童顔な感じがやり手っぽくない。
身長も170くらいでフツーだし、特に体を鍛えてるとかではなさそう。
けして、イケメンの類いではないこのひと、
どこかで見たことがある。
「実家の母から、皆さんに配れと持たされた大福があるんで、良かったら休憩中にどうぞ。ちなみに中はあんことチョコです」
ブラス、どこかで見た紙袋ーーー
皆がクスクスと笑いながら終えた新任の挨拶。
「奥田はまだ25だけど、前任の浜辺と同じように″主任″をまかせて るから。彼にはリーダーとして業務報告するように」
室岡さんの追加した紹介に、皆、ざわめきたってた。
25歳で主任? いわば係長みたいな役を最年少でつけられた人。
営業マンと女子の目の色が変わる。
こんな若い社員に役をつけるのを決めたのは、もちろん室岡さんではなく、もっと上の人間だ。
それだけ、この奥田さんは、会社の期待が大きいんだと思った。
「奥田さーん」
イケメンではないけど、モテ要素たっぷりの彼は、朝礼が終われば、あっという間に女子社員達に囲まれていた。
「資料室や備品庫の場所教えとこーか?」
その中には、一番カワイイといわれてる荒城さんの姿も。
上目遣いするその顔は、完全に彼を狙い定めてた。
「奥田さんの実家って、もしかして和菓子屋さん? あのローカルテレビのCMとかに出てる、″ 和菓子のおくだ ″ ?」
「そうなんです、母方の祖父が三代目店やってるんです」
「そりゃすげー」
若い男性営業マンも、同世代のスピード出征に、羨望の眼差しを向けながら話しかけていた。
「入社三年目で主任ってすげーね、千葉支店にかなりできる営業マンいるって聞いたことあるけど、まさかその人が来るとは思わなかった!」
「それ、俺じゃないと思いますよ、他にも営業マンは沢山いましたから」
一方で私は、謙遜しながら質問に答える奥田さんを、デスクから遠目で見ているだけ。
この人、どこかで見たんだけど?
……必死に記憶を辿っていると、
「奥田ー、ちょ、応接室にいいか? あ、自分のパソコン持参で来てくれー」
室岡さんが彼を呼んでいた。
「はい!」
と元気良く返事をした奥田さんは、立ち上げたばかりのノートPCを持って、それを鼻先でくいっと開きながら、事務所右手の応接室に入っていく。
その動きがまるで、犬みたいだと思ったし、
『……あ……れ』
見たことがあると思った、そのかっこつけない動作は、駅のホームで自分が当たってしまった、″あの人 ″ だと思い出した。
落とした紙袋は大福が入ってたのね。
Suicaのカードをくわえたり……なんか、面白い人。
私の、奥田葉築の第一印象は、″ 人懐っこい犬 ″ だった。
「千葉支店の人らしいよ、やり手だって!」
どうやら、急遽病気を理由に退職した営業マンの代わりに、他支店より男性社員が異動になって来るらしかった。
「鷲塚さん、さっき室岡さんと話してたでしょ?
異動してくる営業マンのこと、話題に出なかった?」
私の前のデスクの営業事務の荒城《あらき 》さんが振り返った。
私より一つ年下の彼女は、社内一カワイイと言われているアイドルにもなれそうな容姿の女子だ。
「そんな話は微塵にも……」
「じゃ、なに話してたの?」
「メダカとか」
「なんだー」
後輩であるにもかかわらず私にタメ口をきく。
私だけではない。他の先輩たちにも殆ど。
それでも許されるのは、やはり天性の美貌がものを言ってるんだろう、と思う。
荒城さんといい、他の女子社員といい、ここには華のある女子社員が多い。
結婚退職していった先輩たちも、美にお金をかけているような人ばっかりだった。
ここで30過ぎまで独身で働いていると、いつの間にかお局様的に扱われていくので、皆なんとか30までには寿退社をしたいと話していた。
私も来年は27歳。
……そのせいか、結婚をしたいわけでもないのに、信と結婚するのもアリなのかと、思い始めている。
「千葉支店営業一課より赴任してきました、奥田葉築です」
朝礼時。
千葉支店から赴任してきたという話題の営業マンが自己紹介を始めた。
「葉築なんて、女みたいな名前で子供の頃は嫌でしょうがなかったんですけど、営業になってからは、この名前で良かったなと思ってます。お客様にも仲間にもすぐ覚えていただけて」
新任の挨拶は、「即戦力になれますように頑張ります」とかの堅苦しい文言が多いのだけど、この奥田さんはちょっと違った。
「仕事は好きですが、仕事人間にはなりたくありません。チームワークを大事に、無理なく業績アップに貢献したいなと思ってます」
挨拶と同じように、フランクなリラックスした表情。
色白で、やや童顔な感じがやり手っぽくない。
身長も170くらいでフツーだし、特に体を鍛えてるとかではなさそう。
けして、イケメンの類いではないこのひと、
どこかで見たことがある。
「実家の母から、皆さんに配れと持たされた大福があるんで、良かったら休憩中にどうぞ。ちなみに中はあんことチョコです」
ブラス、どこかで見た紙袋ーーー
皆がクスクスと笑いながら終えた新任の挨拶。
「奥田はまだ25だけど、前任の浜辺と同じように″主任″をまかせて るから。彼にはリーダーとして業務報告するように」
室岡さんの追加した紹介に、皆、ざわめきたってた。
25歳で主任? いわば係長みたいな役を最年少でつけられた人。
営業マンと女子の目の色が変わる。
こんな若い社員に役をつけるのを決めたのは、もちろん室岡さんではなく、もっと上の人間だ。
それだけ、この奥田さんは、会社の期待が大きいんだと思った。
「奥田さーん」
イケメンではないけど、モテ要素たっぷりの彼は、朝礼が終われば、あっという間に女子社員達に囲まれていた。
「資料室や備品庫の場所教えとこーか?」
その中には、一番カワイイといわれてる荒城さんの姿も。
上目遣いするその顔は、完全に彼を狙い定めてた。
「奥田さんの実家って、もしかして和菓子屋さん? あのローカルテレビのCMとかに出てる、″ 和菓子のおくだ ″ ?」
「そうなんです、母方の祖父が三代目店やってるんです」
「そりゃすげー」
若い男性営業マンも、同世代のスピード出征に、羨望の眼差しを向けながら話しかけていた。
「入社三年目で主任ってすげーね、千葉支店にかなりできる営業マンいるって聞いたことあるけど、まさかその人が来るとは思わなかった!」
「それ、俺じゃないと思いますよ、他にも営業マンは沢山いましたから」
一方で私は、謙遜しながら質問に答える奥田さんを、デスクから遠目で見ているだけ。
この人、どこかで見たんだけど?
……必死に記憶を辿っていると、
「奥田ー、ちょ、応接室にいいか? あ、自分のパソコン持参で来てくれー」
室岡さんが彼を呼んでいた。
「はい!」
と元気良く返事をした奥田さんは、立ち上げたばかりのノートPCを持って、それを鼻先でくいっと開きながら、事務所右手の応接室に入っていく。
その動きがまるで、犬みたいだと思ったし、
『……あ……れ』
見たことがあると思った、そのかっこつけない動作は、駅のホームで自分が当たってしまった、″あの人 ″ だと思い出した。
落とした紙袋は大福が入ってたのね。
Suicaのカードをくわえたり……なんか、面白い人。
私の、奥田葉築の第一印象は、″ 人懐っこい犬 ″ だった。
1
お気に入りに追加
123
あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。

Sランクの年下旦那様は如何でしょうか?
キミノ
恋愛
職場と自宅を往復するだけの枯れた生活を送っていた白石亜子(27)は、
帰宅途中に見知らぬイケメンの大谷匠に求婚される。
二日酔いで目覚めた亜子は、記憶の無いまま彼の妻になっていた。
彼は日本でもトップの大企業の御曹司で・・・。
無邪気に笑ったと思えば、大人の色気で翻弄してくる匠。戸惑いながらもお互いを知り、仲を深める日々を過ごしていた。
このまま、私は彼と生きていくんだ。
そう思っていた。
彼の心に住み付いて離れない存在を知るまでは。
「どうしようもなく好きだった人がいたんだ」
報われない想いを隠し切れない背中を見て、私はどうしたらいいの?
代わりでもいい。
それでも一緒にいられるなら。
そう思っていたけれど、そう思っていたかったけれど。
Sランクの年下旦那様に本気で愛されたいの。
―――――――――――――――
ページを捲ってみてください。
貴女の心にズンとくる重い愛を届けます。
【Sランクの男は如何でしょうか?】シリーズの匠編です。
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
契約結婚のはずなのに、冷徹なはずのエリート上司が甘く迫ってくるんですが!? ~結婚願望ゼロの私が、なぜか愛されすぎて逃げられません~
猪木洋平@【コミカライズ連載中】
恋愛
「俺と結婚しろ」
突然のプロポーズ――いや、契約結婚の提案だった。
冷静沈着で完璧主義、社内でも一目置かれるエリート課長・九条玲司。そんな彼と私は、ただの上司と部下。恋愛感情なんて一切ない……はずだった。
仕事一筋で恋愛に興味なし。過去の傷から、結婚なんて煩わしいものだと決めつけていた私。なのに、九条課長が提示した「条件」に耳を傾けるうちに、その提案が単なる取引とは思えなくなっていく。
「お前を、誰にも渡すつもりはない」
冷たい声で言われたその言葉が、胸をざわつかせる。
これは合理的な選択? それとも、避けられない運命の始まり?
割り切ったはずの契約は、次第に二人の境界線を曖昧にし、心を絡め取っていく――。
不器用なエリート上司と、恋を信じられない女。
これは、"ありえないはずの結婚"から始まる、予測不能なラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる