ー密 会ー溺れる前に抱き止めて 【最後にSS】

光月海愛(こうつきみあ)

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florting おだやかに……

好印象

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    デスクに戻ってみると、他の女子社員たちがちょっとソワソワしてた。

  「千葉支店の人らしいよ、やり手だって!」

    どうやら、急遽病気を理由に退職した営業マンの代わりに、他支店より男性社員が異動になって来るらしかった。

  「鷲塚さん、さっき室岡さんと話してたでしょ?
異動してくる営業マンのこと、話題に出なかった?」

   私の前のデスクの営業事務の荒城《あらき 》さんが振り返った。

   私より一つ年下の彼女は、社内一カワイイと言われているアイドルにもなれそうな容姿の女子だ。

 「そんな話は微塵にも……」

  「じゃ、なに話してたの?」

  「メダカとか」

  「なんだー」


   後輩であるにもかかわらず私にタメ口をきく。
   私だけではない。他の先輩たちにも殆ど。
   それでも許されるのは、やはり天性の美貌がものを言ってるんだろう、と思う。


   荒城さんといい、他の女子社員といい、ここには華のある女子社員が多い。

   結婚退職していった先輩たちも、美にお金をかけているような人ばっかりだった。


   ここで30過ぎまで独身で働いていると、いつの間にかお局様的に扱われていくので、皆なんとか30までには寿退社をしたいと話していた。

    私も来年は27歳。

   ……そのせいか、結婚をしたいわけでもないのに、信と結婚するのもアリなのかと、思い始めている。






 「千葉支店営業一課より赴任してきました、奥田葉築おくだはづきです」

  朝礼時。
  千葉支店から赴任してきたという話題の営業マンが自己紹介を始めた。

  「葉築なんて、女みたいな名前で子供の頃は嫌でしょうがなかったんですけど、営業になってからは、この名前で良かったなと思ってます。お客様にも仲間にもすぐ覚えていただけて」


   新任の挨拶は、「即戦力になれますように頑張ります」とかの堅苦しい文言が多いのだけど、この奥田さんはちょっと違った。


「仕事は好きですが、仕事人間にはなりたくありません。チームワークを大事に、無理なく業績アップに貢献したいなと思ってます」


 挨拶と同じように、フランクなリラックスした表情。
 色白で、やや童顔な感じがやり手っぽくない。

  身長も170くらいでフツーだし、特に体を鍛えてるとかではなさそう。

  けして、イケメンの類いではないこのひと、

  どこかで見たことがある。


 「実家の母から、皆さんに配れと持たされた大福があるんで、良かったら休憩中にどうぞ。ちなみに中はあんことチョコです」

   ブラス、どこかで見た紙袋ーーー

  皆がクスクスと笑いながら終えた新任の挨拶。


  「奥田はまだ25だけど、前任の浜辺と同じように″主任″をまかせて るから。彼にはリーダーとして業務報告するように」

    室岡さんの追加した紹介に、皆、ざわめきたってた。

   25歳で主任? いわば係長みたいな役を最年少でつけられた人。
   営業マンと女子の目の色が変わる。




   こんな若い社員に役をつけるのを決めたのは、もちろん室岡さんではなく、もっと上の人間だ。

   それだけ、この奥田さんは、会社の期待が大きいんだと思った。


 「奥田さーん」

   イケメンではないけど、モテ要素たっぷりの彼は、朝礼が終われば、あっという間に女子社員達に囲まれていた。

 「資料室や備品庫の場所教えとこーか?」


   その中には、一番カワイイといわれてる荒城さんの姿も。
   上目遣いするその顔は、完全に彼を狙い定めてた。


 「奥田さんの実家って、もしかして和菓子屋さん?  あのローカルテレビのCMとかに出てる、″ 和菓子のおくだ ″ ?」

 「そうなんです、母方の祖父が三代目店やってるんです」

 「そりゃすげー」

   若い男性営業マンも、同世代のスピード出征に、羨望の眼差しを向けながら話しかけていた。

  「入社三年目で主任ってすげーね、千葉支店にかなりできる営業マンいるって聞いたことあるけど、まさかその人が来るとは思わなかった!」

 「それ、俺じゃないと思いますよ、他にも営業マンは沢山いましたから」


  一方で私は、謙遜しながら質問に答える奥田さんを、デスクから遠目で見ているだけ。

  この人、どこかで見たんだけど?

  ……必死に記憶を辿っていると、

  「奥田ー、ちょ、応接室にいいか? あ、自分のパソコン持参で来てくれー」

   室岡さんが彼を呼んでいた。


  「はい!」
   と元気良く返事をした奥田さんは、立ち上げたばかりのノートPCを持って、それを鼻先でくいっと開きながら、事務所右手の応接室に入っていく。

   その動きがまるで、犬みたいだと思ったし、

  『……あ……れ』


    見たことがあると思った、そのかっこつけない動作は、駅のホームで自分が当たってしまった、″あの人 ″ だと思い出した。

   落とした紙袋は大福が入ってたのね。

   Suicaのカードをくわえたり……なんか、面白い人。


    私の、奥田葉築の第一印象は、″ 人懐っこい犬 ″ だった。





 






 
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