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第七章 紫都の新しい旅
女心
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「紫都…?」
気配主の声にハッとして振り向くと、それは遭遇を避けたかったお母さんだった。
「あ、ただいま」
車の免許を持たないお母さんは、買い物は、自転車で行く。篭には、仏壇用の果物が沢山入っていた。
「忘れ物取りに戻るって、お酒だったの?」
お母さんの視線は、私を通り越して、手に持っていた酒の袋と、運転席の岡田に注がれていた。
「………あ、うん」
「そんな見え透いた嘘つかなくったっていいのに。どなた? 新しい彼氏?」
32歳にもなった娘の異性交遊に、ここまで警戒に満ちた顔をするのは、前回の恋愛のせいだ。
お母さんも、てっきり美隆と私は結婚するものと思っていたし、別れた原因は、私が捨てられたと勘違いしていたから。
「別にそんなんじゃないから、いいから家に帰って」
やだな、ただ一回、寝ただけの相手を親に見られるなんて。
しかも、
「彼氏でもないのに外泊? どういう知り合い?」
「仕事の、派遣先の方よ」
牽制と、その背中合わせにある期待に満ちた目でーー
岡田はというと、無表情のまま、お母さんを見ていた。
恥ずかしくなった。
突然、散らかしっぱ なしの自宅を見られたような、そんな気持ちになってーー
冷たい表情のまま、岡田がスッと車から降りてきた。
「はじめまして、南部観光の岡田と言います」
岡田は、こなれた営業スマイルではなく、やや緊張感を露にした、堅い笑顔でお母さんの前に出てきた。
「南部観光………」
亡くなったお父さんと同じ会社だったからか、お母さんの目付きが、ちょっとだけ柔らいだ、………ような気がする。
「本日は、業務の延長として、桑崎さんにご協力を願い、宮崎に同行して頂きました」
「………仕事…二人で?」
「ええ、今回のツアーの乗務員の二人で」
岡田の、仕事的な礼儀正しい口調が、私を複雑にした。
そうだ。
そもそも、目的は、赤石さんの送迎だったんだから。
昨夜の出来事は、おまけにしか過ぎない。
岡田的には、一つの旅の、締めくくり的な行為だったのかもしれない。
「………ですが」
岡田は、付け加えた。
「プライベートでも時間を頂きたくて、もう少し紫都さんをお借りしてもいいでしょうか? 」
え。
思わずお母さんと顔を見合わせる。
岡田は、造りのいい顔立ちを最大限に生かし、私達を照らす夕陽さえも味方に、まるで映画のラストを飾る俳優のように、言葉を放つ。
「紫都さんと行きたい所があるんです、近くではあるんですが」
それ、どこ?
急に思い付いたの?
呆気に取られている私に反して、
「もう少しと言わず、どうぞどうぞ、30も過ぎた大人なんだから」
何故か、自分が誘われたかのように照れて私を差し出すお母さん。
「では、いってきます」
会釈をして、私には顎でしゃくって乗車を促す岡田。
良く、わかんないけど、
「じゃ、じゃあ、ちょっと行ってくるね」
「はいはーい、ごゆっくり」
この人。
女心、動かすの、ウマイなぁ。
気配主の声にハッとして振り向くと、それは遭遇を避けたかったお母さんだった。
「あ、ただいま」
車の免許を持たないお母さんは、買い物は、自転車で行く。篭には、仏壇用の果物が沢山入っていた。
「忘れ物取りに戻るって、お酒だったの?」
お母さんの視線は、私を通り越して、手に持っていた酒の袋と、運転席の岡田に注がれていた。
「………あ、うん」
「そんな見え透いた嘘つかなくったっていいのに。どなた? 新しい彼氏?」
32歳にもなった娘の異性交遊に、ここまで警戒に満ちた顔をするのは、前回の恋愛のせいだ。
お母さんも、てっきり美隆と私は結婚するものと思っていたし、別れた原因は、私が捨てられたと勘違いしていたから。
「別にそんなんじゃないから、いいから家に帰って」
やだな、ただ一回、寝ただけの相手を親に見られるなんて。
しかも、
「彼氏でもないのに外泊? どういう知り合い?」
「仕事の、派遣先の方よ」
牽制と、その背中合わせにある期待に満ちた目でーー
岡田はというと、無表情のまま、お母さんを見ていた。
恥ずかしくなった。
突然、散らかしっぱ なしの自宅を見られたような、そんな気持ちになってーー
冷たい表情のまま、岡田がスッと車から降りてきた。
「はじめまして、南部観光の岡田と言います」
岡田は、こなれた営業スマイルではなく、やや緊張感を露にした、堅い笑顔でお母さんの前に出てきた。
「南部観光………」
亡くなったお父さんと同じ会社だったからか、お母さんの目付きが、ちょっとだけ柔らいだ、………ような気がする。
「本日は、業務の延長として、桑崎さんにご協力を願い、宮崎に同行して頂きました」
「………仕事…二人で?」
「ええ、今回のツアーの乗務員の二人で」
岡田の、仕事的な礼儀正しい口調が、私を複雑にした。
そうだ。
そもそも、目的は、赤石さんの送迎だったんだから。
昨夜の出来事は、おまけにしか過ぎない。
岡田的には、一つの旅の、締めくくり的な行為だったのかもしれない。
「………ですが」
岡田は、付け加えた。
「プライベートでも時間を頂きたくて、もう少し紫都さんをお借りしてもいいでしょうか? 」
え。
思わずお母さんと顔を見合わせる。
岡田は、造りのいい顔立ちを最大限に生かし、私達を照らす夕陽さえも味方に、まるで映画のラストを飾る俳優のように、言葉を放つ。
「紫都さんと行きたい所があるんです、近くではあるんですが」
それ、どこ?
急に思い付いたの?
呆気に取られている私に反して、
「もう少しと言わず、どうぞどうぞ、30も過ぎた大人なんだから」
何故か、自分が誘われたかのように照れて私を差し出すお母さん。
「では、いってきます」
会釈をして、私には顎でしゃくって乗車を促す岡田。
良く、わかんないけど、
「じゃ、じゃあ、ちょっと行ってくるね」
「はいはーい、ごゆっくり」
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