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夜間歩行
モンスター
しおりを挟むそして。
1月下旬。
晴天。
学級レクシーションの夜間歩行が実施された。
「おーい、みんなこっちに集まれ、点呼取るから元気よく返事しろよ!」
やけに張り切った担任の先生が、クラスメートの名前を呼んでいく。
少し前までは、こういうのですら苦痛だった。
人に必要とされていない自分の声なんて、一体、誰が聞くんだろう?
そう思っていたし、地味な容姿に自信もなくて、人前で大きな声を出すことが堪らなく恥ずかしかったから。
「……上野!」
「はぁい!」
「木山!」
「はいー」
「里!」
「はいっ」
だけど、今は、もう平気。
私が大きな声を出しても、誰もびっくりしないし、笑ったりもしない。
「なるべく一人で歩くなよ! どんなに先走りたくても皆に歩調を合わせろ!それが事故や怪我の防止に繋がるからなー!それじゃあ、中間地点でまた会おう!」
先生の合図で、みんなが歩き出した。
勿論。
「なんか、ワクワクするな」
私の隣には、完全復帰した颯斗くんがいた。
晴天とはいえ、冬の夕暮れ。歩き出す前は、凍えるように寒かったけれど。
「あー、なんか暑くなってきたー」
一時間も歩かないうち、ポカポカと体が温もってきた。
ジャージの上に着ていた防寒着を脱いで歩く人もいる。半袖半ズボン姿で歩く男子も。
まるで、夏みたい。
だけど、それが出来たのも夕陽が沈むまで。
傾斜のある道から後ろを振り向くと、私たちの街に宝石のようなイルミネーションが……。
「暗くなって、ようやく夜間歩行っぽくなってきたね」
「うん」
二時間、三時間と歩いていると、汗ばんだ体が夜風に晒され、どんどん体温が下がっていった。
立ち止まれば、歯がカチカチと音を立てるほど。
私の横を歩く颯斗くんも、足取りが随分と重たくなった。
「颯斗くん、大丈夫?」
「大丈夫、なんだよ、俺を年寄り扱いすんなよ」
颯斗くんは笑っていたけれど。
薬が効いてるとはいえ、今でも、時には手足が震えたりするらしいから心配だった。
「あれ? 野沢ちゃんと南は?」
二人で前方を歩いていたのに、姿が見えなくて心配する仲間。
「アイツらねぇ、フフ、先の公園にいるみたいだよ。公衆トイレに」
「えっ」
「そこで二人でイチャイチャしてんだろ」
「かぁ、マジかー」
そんな会話を耳に挟みながら、私もつい、颯斗くんと結ばれた日の事を思い出していた。
彼のお母さんが出掛けている間の、あっというまの出来事だったし、かなり痛かったのだけど。
大好きな人に抱かれて、本当に幸せだった。
「何、ニヤニヤしてんだよ」
そんな私を颯斗くんが息を切らしてゴツく。
「別に。歩くの楽しいから」
「はは、そう」
「颯斗くん、楽しくないの?」
「楽しいよ、楽しいけど、朝まで歩くのかと思ったら、ちょっと、しんどくなってきたかな」
少し前なら平気だったウォーキングも、急速な加齢で悲鳴を上げる体には負担なのかも。
「そうだ」 「……ん?」
「これ、やりながら歩こうか」
私はスマホを取り出して、あるアプリを起動した。
「なに、それ?」
颯斗くんが覗き込む。
「モンスターの森へGO。 歩きながらモンスターを見つけてゲットしていくゲームだよ」
「あー、それ。10年前に流行ってたゲームだろ? 良くそのアプリあったな」
颯斗くんは、興味津々で画面を見つめる。
「うん、古いものでも、本当に皆が好きならずっと残ってるんだよ。これ、爆発的なブームになったもの」
「……へぇ」
「あっ!早速五メートル先にモンスター見つけたよー」
「よっしゃ、捕まえなきゃ!」
先ほどの疲労感なんか微塵も感じさせずに、颯斗くんは、夢中でゲームを始めてしまった。
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