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夜間歩行

未来

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 「……ん? どうした?」

 綺麗な髪だからこそ、たった一本なのに目立ってしまう。

「若白髪あるよ」

 颯斗くんの耳元で教えてあげると、

「マジ?抜いて」

と、笑っていた。

「いいの?」

「いいよ、ハゲるわけじゃあるまいし」

「……他のも抜いちゃうかも」

「痛そうだな、じゃいいよ。白髪くらい」

「……」

「な、美海」

「ん?」

「もし、俺が皆の何倍も老化していってたらどうする?」

 「え……」

 颯斗くん自身も気がついていたの?
 
  戸惑う私に、颯斗くんは続けて言った。

「アメリカで検査を受けた時に言われたんだ。神経細胞の減少で滞った処理機能を回復させるための薬を飲むだけじゃ、俺の異変は治らなかった。原因は良く分からないけれど、人の何倍もの速さで老化してるって」

「……それを止める薬はないの?」

「今のところは、ない」

「……」

  黙る私と颯斗くんの間を冷たい風が通る。

 私は急に寂しくなって、颯斗くんの胸に顔を埋めた。

「颯斗くんが先にいなくなっちゃうなんて、嫌だよ」

 「これから先、俺と一緒にいたら、美海にはツラい想いをさせるのかもしれないな」

「……え」

 颯斗くんは、ゆっくりと私を抱き起こすと、少し潤んだ目で見つめてきた。

 そして、私の髪や制服に着いた葉を取り除きながら、切なくなる事を言った。

「美海が、俺といるのに耐えられなくなったら言って」

  見えない未来。

 でも、あり得ない事もない現実。
 今、じゃなくて、半年後、一年後。
  私は、どういう気持ちでいるだろう?

 変わらない自信はあるけれど、それは今の颯斗くんが綺麗な姿をしているからだ。

 「……そんなこと言わないで。考えたくない」

 私は、真っ直ぐな颯斗くんの目から、視線を反らした。

「でも、考えて欲しい。俺は、美海に老いた自分を嫌われるのだけは嫌なんだよ」

  昼休み終わりのチャイムが鳴り、颯斗くんは、荷物を片付けると、私よりも先に教室に戻ってしまった。

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