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恋心

キョウダイ

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「引いたよな? 一人熱くなって」

 職員室からの帰り、颯斗くんは恥ずかしそうにしていた。

「……そんなことない。私が言いたくても言えないこと代わりに言ってくれたんだから」

  他人にはどこかオドオドして、本音を話せない自分。
  颯斗くんみたいになりたいなって心から思った。

「確かに美海があまりにも言わなすぎなんだけど、それだけじゃないんだよな。……何故か美海の事になると頭に血が昇る」

「 え」

「他の友達はそんなことないのに、よく自分でもわからない」

  ……そう言うこと言われると、勘違いしそうになるよ。

「ごめんね、ダメな奴で」

「あー! もーまたそういう風に悲観的に捉える!」

  颯斗くんは歯痒そうに自身の栗色の髪を掻くと、

「美海は、つい守ってあげたくなる女の子なんだよ!」

  サラリとドキッとさせる事を言った。


「放課後、今日は俺んちか美海の家で勉強しようか? 学校は門の締まりが気になって仕方ない」

「あ、う、うん」

  約束して教室に戻ったあとも、ずっとドキドキしてた。

 ″ 守ってあげたくなる ″

 それって、友達として、だよね?



   ーーーー

「お邪魔します」

 放課後。
 勉強は私の家ですることに。

  この前転んだ際にお世話になったし、何となく颯斗くんの家に行くと、颯斗くんの過去を色々考えてしまいそうで……。

 それに、

「お母さん、出掛けてるの?」

「うん」

 今日は、うちのお母さんは琢磨の学校のPTA何とかに出席して遅くなると言っていたから。気兼ねなくできると思ったから。


「リビングでする? それとも……」

 私の部屋はちょっと恥ずかしかった。
 男の子なんて入れたこともないし。

「リビングでやろう。だって美海の部屋はマズイでしょ?」

「え、ま、マズイって?」

 珍しく颯斗くんも意識してるのかと思いきや、

「美海の部屋は誘惑がいっぱいありそうだからね。ゲームにアニメに漫画……俺も大好きだからさ」

「だよね」

  そういうマズイではなかったようだ。

「美海が見つけた苦手から克服していこう」

「……うん」

  二人きりのリビングで過去の振返りが始まった。

  光、物質、音、気体……
  始めはそんなに難しくなかった中1の理科。

 中2になると電流とかややこしくなっていって、そういったものが高校の物理・化学に繋がっていく。

  この頃につまずいていた私が、今一番不得意な科目がそれになっているのは仕方のないことだった。


「この公式は絶対に覚えなきゃ問題解けないよ」

  颯斗くんが参考書の大事な公式のところには幻のモンスター、ピカリンのシールを貼ってくれた。
  それも何度も剥がしたりできるお高いやつだ。

「うん、覚える」

 この勉強、楽しい。

 問題を少しずつ解いて、順調に勉強していたその時、

「ただいまー」

「こんにちは、お邪魔しまーす」

  琢磨と、誰か連れが帰ってきてしまった。女の子の声だった。


「なんだ、美海も男連れて来たのか」

 琢磨は、どうやら明日遊園地に行く彼女を連れて来たようだ。

 「こんにちは!お邪魔してます」

 颯斗くんが元気良く挨拶をすると、琢磨はピン!と来たのか、

「アリゾナに渡った少年?」

 嬉しそうに私たちに近寄ってきた。

 そして、珍しいものを見るような不躾な視線。

  ……だから会わせたくなかったのに。


「そうです。俺がアリゾナに渡った少年です」

  ノリのいい颯斗くんが笑って返してくれて安心した。

「アリゾナ? 何々、なんの話?」

  琢磨の連れの美人な彼女は、興味津々で颯斗くんに接近してくる。

「……長い間、そっちにいたんで」

  ちょっと面食らった颯斗くんがのけ反ってしまうと、

「あ、ごめん。自己紹介もせずに馴れ馴れしくて」

  その美人な彼女は自己紹介を始めた。

「野沢 恋歌れんかです、琢磨くんと付き合い始めて五日目。あ、私の妹も君達と同じ高校に通ってるよ」


  野沢……?

  颯斗くんと顔を見合わせる。

  あの野沢さん?

  そう言われてみると、うちのクラスの野沢さんと顔、ソックリかもしれない。
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