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恋心

イジメ

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 AM 4:30。
 夜明けをこんなに晴々しい気持ちで迎えたの初めて。

  颯斗くんやったよ。
  理科、中1まで戻ってわかんないところ、全部付箋つけたよ。

「……ふぁ」

  ようやく来た睡魔に誘われて一時間ほど眠り、目覚ましに起こされて充実した気持ちで下へ降りていく。

 すでにお母さんも琢磨も起きているようだ。

 目玉焼きの匂いが、今日はとても美味しそうに感じる。


「ぉ前、いつにも増して目の下のクマひでぇぞ」

  朝食を食べながら、琢磨がお化けを見たような顔をしていた。

「いいの、頑張ったんだから」

「何を?」

「勉強」

「マジ?! やめてくれよ、俺、明日の土曜日は遊びに行くんだからさ、嵐来たらどうしてくれる」

「どこに遊びいくの?」

「遊園地」

「え、誰と?!」

 大きな声で相手を聞いていたのはお母さんだ。

  遊園地なんて、男同士であんまり行かないから、もしかして、

「何でいちいち言わなきゃいけないんだよ、うぜーな女って」

 彼女と、じゃないかと思ったんだ。

 お母さんの顔が一気に不機嫌になる。

 子供 ( 息子 ) 依存の母親って、子供が恋愛するとこうなるんだ。息子を取られた、みたいな……。

  八つ当たりされる前に退散しようっと。朝御飯もそこそこに家を出る。


  ……早く颯斗くんに報告したい。

  勉強してわかったこと、ちょっとだけど眠れたこと。

  早くーー。





 そんな、珍しく上がった私の気持ちを瞬く間に突き落としたのは、

『……ない』


 ーー上履き紛失。

 下駄箱に入れていたので紛失ではないはずだけど。
 いくら周囲を探してもない。
 隠された?

  これって……。よくあるイジメなんじゃ……。

  ズシン!と心は沈んでいった。

  私、シカトだけじゃなくてこんなこともされるようになったんだ、と。


  仕方なくペタペタとそのまま教室へ向かう。

「おはよー」「おはようございまーす」

 こんな目立たない私のシューズを履いてない現実を気がつく人はいない。
  廊下ですれ違った先生や同級生も。

 けれど。

「里さん、靴下汚れてるよ」

  野沢さんを始めとするクラスの女子だけは、直ぐにそこに目がいったようで、

「えー、上履きないの?」
「里さんのファンが持って行ったんじゃないの?」
「マジ? ないない!」

  バカにして笑っていた。

  ……証拠はないよ。

  でも、こんな事するの、この人達しかいないような気がした。

  何も言えない自分が情けなくなりながらも、このままでいるわけにもいかず、常備していた体育館用のシューズを履いた。


「美海、おはよっ」

  少し遅れて登校してきた颯斗くんが、席につく私に声をかけてきた。

 「……おはよう」

 颯斗くんには知られたくない。

  足元を見られたくなくて、グっと引いて彼の視野から消すようにしていた。

 「……あれ?」

 ドキッ。やだ。早速気付かれた?

「……な、なに?」

「美海、なんか」

「……ん?」

「クマひどくね?」

  そこか。

  ホッとして、

「理科の問題を中1から解いてたんだ。わからない所ハッキリさせようと思って」

 カバンからその問題集を出して颯斗くんに見せた。

「……え? 昨夜、早速やったの?」

「うん」

「美海、努力家ーー!」

 颯斗くんがまた私の頭を撫でる。撫でるというかグシャグシャにするというか、私の変化を嬉しそうに笑ってくれている。

「……それで、ちょっとだけ眠れたんだ」

  私にとって颯斗くんとの時間は安眠剤みたいなもの。

「ほんとう? どのくらい?」

「一時間ちょっと」

「そうか、そっかー、それは良かった!」

  颯斗くんさえいてくれたら、私は元気になれる、そんな気がする。

  勿論、友達として、だ。

  そんな二人の関係を快く思わないのはやっぱり、颯斗くんを好きな女子たちで……


「っぱりねぇ」

「付き合ってるんだよ」

「学校居残ってイチャイチャしてさぁ」

  話す私たちを見て、ヒソヒソと噂してた。

  でも、気にしない。
  颯斗くんが気にしてないんだから。

  私も気にしない。

  そう決めた。




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