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止まった時間
精神年齢
しおりを挟む「今日は一緒に帰ろう」
颯斗くんがそう言ってくれたので、六時限目を終えてから保健室にもう一度立ち寄ることに。
廊下で養護の先生と会った。
「彼のお迎え? できたら保護者の方と帰ってほしいのよね」
「……はい、そうは言ったんですけど……」
颯斗君も私に話したい事があるらしく、約束してしまった。
「……先生」
「なぁに?」
「熊川くんは脳震盪だったんですか?」
さっきの冴えない先生の表情が気になった。
「倒れたのはたぶんそうだと思うんだけど……倒れ方がちょっと気になってね」
「え……」
「熊川くんは何か持病持ってないのかな?と、それで親御さんにお話を聞きたかったの」
ーー彼の病気は、もしかして、まだ治ってないの?
「野沢さんのこと、すごい噂になっちゃったね」
歩きながら本題から外れたような事から話す。
校舎を出ると、カキーン!……と野球部が放つ爽快な音が響いていた。
「うーん……俺が野沢さんをフったってなってるけど、そうじゃないんだよな」
「違うの?」
「……うん。具体的に言うと、俺は女の子と付き合うとかそういう目線で捉えたことないんだよ」
″ 颯斗くんはゲイ ″
あの噂も本当だとは思ってないけれど。
「野沢さんみたいに可愛い人でも付き合いたいと思わないの?」
「……うん」
颯斗くんは謎が多い。
「美海も気が付いてただろ? 俺が急激に成長していったの」
「……え、うん」
「その体の成長に、心がまだ追い付いてないんだ」
「心が……?」
「やっと体は高校生になったけど、精神年齢はやっと中学一年生くらい」
謎だけど、颯斗くんの言葉には嘘はないような気がする。
他の同級生よりも、ずっと純粋な感じがするから。
「俺は、アリゾナに行ってから数年間、体の機能を全部停止させられていたんだ」
今。
琢磨の話していたことと、颯斗くんの言葉がリンクするーーー
「ニュースで話題になってた、有名なサッカー選手がアリゾナの冷凍会社に保存されていて、最近解凍されて復活したって話知ってる?」
「……うん」
昨日、琢磨に教えてもらったばかりのニュース。
「あれと一緒。俺は、五歳の時に脳に悪性腫瘍が見つかって、しかも手術出来ない場所だったから、治療法が限られてた……」
……颯斗くんの話はまるで、映画の中のストーリーみたいだった。
放射線治療に抗がん剤……。
子供が治療するには過酷な方法でガンをやっつけようと頑張ってみたけれど、やっぱりガンは小さくならなくて。
このままだと運動機能が壊されながら死を待つだけだと、医者も家族も悲観していたらしい。
でも。
どうしても、このまま死を待つことが耐えられなかった颯斗くんのご両親は、アメリカで広がりつつあった、″人間の冷凍保存 ″ に全てを賭けることにしたのだと言う……。
「そんなことが本当に出来るの?」
夏と秋の匂い混ざり合った校庭、
夕焼け雲ーー
いつもと変わらない日常ーー
その中で聞く颯斗くんの話はあまりにも現実離れしていた。
「10年くらい前から人間を液体窒素でいっぱいにして、記憶も機能もそのまま冷凍保存できる技術が確立されてたんだよ」
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