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三 未解決事件 

似顔絵

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 白いメモ紙に描かれたそれは、髭が六本なければ、ただのハゲおじさんにしか見えない、ある意味、逸品だった。

 涙を流して笑う私を、「こんなのでそんなに笑えるなんてお前は幸せだな」と、先輩は呆れていた。

「これ、貰っていいですか?」

「は?」

「誰にも見せません。私がツラい時に見て笑うお守りにしたいです」

 いつもクールな橋本先輩が描いたほのぼのドラえもん。(に絶対見えないけど)とても価値があるように思える。

「なんなら、悪運よけの護符を分けてもいいが……」

「そんなインチキ霊媒師の必需品みたいなのより、これがいいです」

「インチキ……」

 ちょっと、言葉を失ったあと、先輩もクク……と小さく笑って、「好きにすれば」と言ってくれた。

「じゃあ、あの犯人の顔、描きますね」

「ああ」

 忘れたいくらい、冷酷で残忍な犯人。
 驚くほど、細部まで記憶に刻まれていた悪魔な男。
 私が三十分ほどかけて描いたそれを見て、橋本先輩が感嘆に近い声を漏らした。

「すごい、完璧だ……」

「ほんとですか?」

「あぁ、まるで写真みたいだ」

 こんなに絵で褒められたの初めて。橋本先輩からだから尚更嬉しい。

「弓道部より美術部に入った方が良かったんじゃないか?」

 それは微妙。

「そんなことより、その絵を持って警察にでも行くんですか?」

 言ってはみたものの、それが非科学的で何にもならないだろうことは察しつく。
 先輩は、絵を丁寧に折りたたんだあと、大事そうにシャツの胸ポケットに入れて言った。

「このホテルで霊視するのも限度があるし、後で霊視する。何とかこいつの名前まで割り出したい」

「私が描いた絵なんかで霊視できるんですか?」

「できるさ。山城には被害者が憑依してるし」

「えっ!!」

 私が目を見開いて背筋を凍らせてると、先輩が笑った。

「冗談だ。彼女はもうここにはいない」

 無念さの塊りみたいなものを感じるが、彼女は犯人じゃなく、たぶん残された子供の行方を探してるから彷徨っている、だから、難しいんだと、神妙な面持ちで先輩は続けた。



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