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三 未解決事件 

デリヘル嬢殺人事件

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 気のせいではなく、女の悲痛な泣き声が聞こえたからだ。
 霊を見ても怖さなど感じない俺は、今までも散々、向こうから近寄ってきた。
 その度に結界を作り、関与しないようにしてきたけれど――

 なぜか、今日は自ら近寄った。
 頼まれもしないのに、霊障もないのに、霊のために動くなんて、霊能者でもやらないだろう。
 しかし、なんとなく、このマンションから漂う、無念に近い悲壮感を放ってはおけなかった。

 俺は遺体のあったと言われる現場の前で、先ほど聞こえた泣き声の主を探した。
 そこには、声とは関係のない霊体が蠢いていたので、心の中で尋ねてみた。

 ″ここで泣いていた人、どこに行ったか知らない?″


 俺の問いに反応したのは、おばあさんの霊だった。
 虚無な顔をして、ただ、そこに居座ってるだけの無害な霊。
 建物と建物の間の湿った薄暗い場所や階段なんかには、こういう霊が溜まりやすかったりする。

「そう、今はここにはいないんだね、どっちに向かったかわかるかな?」

 おばあさんが、繁華街の方を指した。

「ありがとう」

 無気力な手が、不意に俺の腕に触れた。

 ――冷たい。

 そこから体温を奪われていくのがわかる。

「喉、渇いたの? 水でいい?」

 しかし、おばあさんはお酒が良いと言った。
 そして、頭が痛いと。

「あぁ、ごめんね。俺の持ってるお札のせいかな」

 俺が持ち歩いてる護身用のお札はやはり、それなりに効果があるようだ。


「俺、まだ未成年でお酒、買えないんだよ。おばあさんが生きてた頃と違って法律が厳しくなったんだ。代わりにエナジードリンクで我慢してな」

 俺は、マンション敷地内にある自動販売機から、一番量の多い飲料を買って、タブを開けておばあさんの前に置いて行った。
 繁華街に向かいながら、リンゴジュースにしとけばよかったかな、とちょっと思った。

 繁華街は迷路のように込み入り、そしてかなり広い。
 先ほどの泣いていた霊を見つけるのは、なかなか困難を極めた。
 なぜ、死んだ場所から離れて、こんな所をさ迷っているんだ?
 波長の合った俺を、誘い込んでいるのか?
 先ほど少しだけ霊視したマンションの殺人現場から、壮絶な惨殺シーンは見られなかった。
 ということは、泣いていた女は、あそこで殺害されたわけではないのではないか――

 時間があれば、あの場所での過去の事件を検索し、検証することも出来るが、本来、今日の俺の目的は母のために花を買うこと。
 時間は限られていた。


 なので、その時は、女の霊を見つけられずそのまま買い物の方へと移った。

 家に戻って、母さんの和やかな誕生日祝いを終えたあと、ネットであのマンションであった事件をパソコンで検索してみた。
  
 ――これだ。

 およそ、今から九年前――
 当時の新聞や週刊誌の記事がまだ多く残っていた。

【迷宮入りか――デリヘル嬢殺人事件 】

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