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三 未解決事件
藁人形
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……″この世にいないから″?
引っ越していないから、とかじゃなく?
「凄いフり方だよなぁ。そんなん救いようのない返事されたら、相手の子は何も言えないよ」
堀先輩は、やっぱり千尋はタダモンじゃねーと笑っていたけれど、私は、その真意が知りたくてたまらなかった。
まさか。
まさか。
橋本先輩、何か重い病気だったりしないよね?
カーン!と、橋本先輩の放った高い弦音と、矢が的に当たるパン!という爽快な的音が道場に響き渡る。
それを見据える凛とした佇まいには、強い生命力さえ感じる。
橋本先輩は、病気なんかじゃない。
そう思いたいけれど……。
――『不吉にも先生の訃報を言い当てたり……』
合宿の時に、堀先輩が話してくれた橋本先輩の予知能力のことを思い出せば、未来によくない事が起こるのではないかという不安は消せなかった。
「おい、堀。お前、さっきから喋ってばっかだな。三年は出られる立※は残り僅かだろう。もっと気合い入れてやれ!」
私と話していた堀先輩は、早速、副顧問の先生に目をつけられて、立練をさせられていた。
堀先輩は、やはり調子がふるわなくて、「残念」な結果になっている。
おまけに、つがえた矢を落としてしまう「失矢」までやってしまい、先生に凄く怒られて気の毒だった。
私は、スランプを脱したけれど、堀先輩は事故のトラウマをまだ払拭できていないようだった。
その頃、
「え、また!?」
うちの神社では、あまりよくない事が起こっていた。
「あぁ、ここんところ四日続けてだ。昼間は小学生とかも通るから教育上よろしくないし、一応、貼り紙をしてるが効果はない。やってる人間は必死だろうからな」
参道から奥の敷地内の木に、藁人形が毎日打たれていて、神主であるお父さんが頭を抱えていたのだった。
「それって、あれだよね。丑の刻参り……」
真夜中に白装束姿で頭にはロウソクを灯した五徳をかぶり、藁人形を手に神社へとやって来る。
そこまで完璧にしているかわからないけれど、人目に触れない時間にやってきて、藁人形を打ち付け、誰かを呪う行為は想像するだけで恐ろしい。
以前なら、そんなことしてなんになるって思ったかもしれないけれど、悠里の件から、人の怨念ほど怖いものはないとわかったから、見過ごすわけにはいかないと思った。
私は、翌日、橋本先輩に相談してみることにした。
しかし。
先輩の反応はとても冷ややかなものだった。
「ダミーの防犯カメラつけるか、警察に相談したら?」
「はぁ……」
部活終わり、やっぱり橋本先輩は帰りを急いでいて、私の相談は適当にあしらわれた感じ。
「おまえ、冷たいな!せっかくカワイ……くはないけど、後輩がお前みたいな冷徹な男を頼ってんのにさ、もっと話聞いてやれよ」
一言多い堀先輩がしゃしゃり出てきても、先輩の態度は変わらず。
「木を傷つけることが目的ではないにしても、毎日釘打ってるなら器物損壊容疑も立件できるかもしれない。だから警察が先だろ」
それはそうかもしれないが、悠里の時はもう少し親身になってくれたのに。
シュンとする私に、先輩は、少しだけ哀れんだ目を向けて言った。
「悪いな……。ちょっと家のことで忙しいんだ」
颯爽と自転車に乗って帰路を急いで、その姿はあっという間に見えなくなってしまった。
※試合のこと
引っ越していないから、とかじゃなく?
「凄いフり方だよなぁ。そんなん救いようのない返事されたら、相手の子は何も言えないよ」
堀先輩は、やっぱり千尋はタダモンじゃねーと笑っていたけれど、私は、その真意が知りたくてたまらなかった。
まさか。
まさか。
橋本先輩、何か重い病気だったりしないよね?
カーン!と、橋本先輩の放った高い弦音と、矢が的に当たるパン!という爽快な的音が道場に響き渡る。
それを見据える凛とした佇まいには、強い生命力さえ感じる。
橋本先輩は、病気なんかじゃない。
そう思いたいけれど……。
――『不吉にも先生の訃報を言い当てたり……』
合宿の時に、堀先輩が話してくれた橋本先輩の予知能力のことを思い出せば、未来によくない事が起こるのではないかという不安は消せなかった。
「おい、堀。お前、さっきから喋ってばっかだな。三年は出られる立※は残り僅かだろう。もっと気合い入れてやれ!」
私と話していた堀先輩は、早速、副顧問の先生に目をつけられて、立練をさせられていた。
堀先輩は、やはり調子がふるわなくて、「残念」な結果になっている。
おまけに、つがえた矢を落としてしまう「失矢」までやってしまい、先生に凄く怒られて気の毒だった。
私は、スランプを脱したけれど、堀先輩は事故のトラウマをまだ払拭できていないようだった。
その頃、
「え、また!?」
うちの神社では、あまりよくない事が起こっていた。
「あぁ、ここんところ四日続けてだ。昼間は小学生とかも通るから教育上よろしくないし、一応、貼り紙をしてるが効果はない。やってる人間は必死だろうからな」
参道から奥の敷地内の木に、藁人形が毎日打たれていて、神主であるお父さんが頭を抱えていたのだった。
「それって、あれだよね。丑の刻参り……」
真夜中に白装束姿で頭にはロウソクを灯した五徳をかぶり、藁人形を手に神社へとやって来る。
そこまで完璧にしているかわからないけれど、人目に触れない時間にやってきて、藁人形を打ち付け、誰かを呪う行為は想像するだけで恐ろしい。
以前なら、そんなことしてなんになるって思ったかもしれないけれど、悠里の件から、人の怨念ほど怖いものはないとわかったから、見過ごすわけにはいかないと思った。
私は、翌日、橋本先輩に相談してみることにした。
しかし。
先輩の反応はとても冷ややかなものだった。
「ダミーの防犯カメラつけるか、警察に相談したら?」
「はぁ……」
部活終わり、やっぱり橋本先輩は帰りを急いでいて、私の相談は適当にあしらわれた感じ。
「おまえ、冷たいな!せっかくカワイ……くはないけど、後輩がお前みたいな冷徹な男を頼ってんのにさ、もっと話聞いてやれよ」
一言多い堀先輩がしゃしゃり出てきても、先輩の態度は変わらず。
「木を傷つけることが目的ではないにしても、毎日釘打ってるなら器物損壊容疑も立件できるかもしれない。だから警察が先だろ」
それはそうかもしれないが、悠里の時はもう少し親身になってくれたのに。
シュンとする私に、先輩は、少しだけ哀れんだ目を向けて言った。
「悪いな……。ちょっと家のことで忙しいんだ」
颯爽と自転車に乗って帰路を急いで、その姿はあっという間に見えなくなってしまった。
※試合のこと
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