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二 渦

生霊と呪い

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「え、あ、あの……」

 肩までの黒髪をおさげにして、いかにも生真面目そうな顔をした彼女は、連中からすると声をかけやすかったのかもしれない。
 一人の記者が逃がすまいと山城の腕をしっかりと掴んでいた。

「仲良くなくてもどんな女の子か知ってるでしょう?」 
「最近、SNSでひどい中傷誹謗があったみたいだけど、学校内で何かトラブルはなかったのかな」

 困った顔をして、あちらこちらへと視線を向けて周りに助けを求めている。

「あ、おい……千尋」

 堀が何か言っていたが、俺の足は記者に囲まれる山城のもとへ自然と向かっていた。

「ここは学校の敷地内です。立ち入りの許可は得てるんですか?」

 俺が、山城と彼女を掴んでいた記者の間に割って入ると連中は顔を見合わせ、

「あなたたち、勝手に取材しないでって言いましたよね!?」

 同時に職員室から教師が出てきたものだから、いそいそと校門外へ移動して行った。

「橋本先輩……」

 ホッとした顔で俺を見上げる山城は、おそらく身長156くらい。
 矢を放つ時の彼女は凛としていて、もっとすらりと高く見せるけれど、こうやってみれば小さくて頼りない。

「あ、ありがとうございます」

 大きくはないが、潤んだ目元は小鹿のように愛らしい。

「隙が多いから霊体にも悪い大人にも捕まってしまうんだ」

 つい、悪態をついた。
 前から思っていたけれど、考えないようにしていたことがある。

「先輩、何気にひどいです」

 こうやって、むくれる顔にも覚えがある。

 ――俺は、この子に前世で会っていたかもしれない、と。



 部活休みのため、俺たち三人しかいない射場で、インスタの写真を霊視。

「長野朝美は、この生霊を飛ばしている奴から呪いまでかけられている」

 頼まれたからやったのに、堀と山城は顔を見合わせて、失礼な表情を浮かべていた。

「呪い……?」

「……今時、そんなの信じてやる人いるわけ?」

 ――こいつら。
 霊は信じてるのに、呪いはあり得ないと思ってるようだ。

「ネット通販でも″呪いキット″なんてものも売ってある時代だし、呪い代行業者というのもあるし。それだけ需要があるってこと」

「 それ、見たことあるかも。呪いの人形とかお土産感覚で載ってました」

 山城がさも恐しいといったふうに、首を横にふる。

「その呪いも、お前、解くことできるのか?」

 堀の問いにはハッキリと答えられない。
 まだ、現世ではやったことがないから。

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