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イチゴミルク

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  ずっと、大好きだったVirtueのボーカリスト、
 実物に会う前は、何度も、この人との甘いキスを妄想してた……。

 だけど、未経験ゆえに、二次元のような図しか頭に浮かばなかったっけ。

「私の中のVirtueのヨシは、舌なんか無かったよ、ベロちゅーもしない人形みたいな人だった」

 抱きしめられながら私が答えると、

「それ、人形つーか幽霊」

 ヨシは眉をひそめて笑った。

「それに、月山さんの息子さんだからなお、躊躇したんだよ」

 むしろ他人でいてくれた方が良かった。


「これ、あげる」

「ん?」

 会社で戸崎さんに貰った飴玉が、ポケットの中にあるのに気付き、ヨシに差し出した。


「……懐かしいな、これ保育園の運動会とかで走った後に貰ってたわ」

 受けとると直ぐに口に放り込み、ジャリジャリと噛み砕く。

「舐めないの?」

「せっかちだからな。直そうとは思ってるけど」

 全てを飲み込んだヨシの息から、甘い苺の匂いがした。

「イチゴミルコ……これより甘いキスをしてみたい」

 呟くように言って、ヨシの首に両腕を回し、ヨシの唇に自分の唇を当てた。

 生まれて初めて、自分からキスをした。


 唇を離したあとのヨシは、サングラスをしてたから良く分からなかったけど、多分とても驚いてたように思う。

「……次は、レモンミルクのキャンディ持ってくるね」


「……あぁ…」

 今度は、ヨシから唇を合わせようとするも、

「ほら、やっぱりそうだって、Virtueの歌ってる人だって」

 そばを通るカップルに、私達のことを気づかれてしまう。


「……ここも退散」

 そのカップルが他に視線を移した隙に、颯爽と移動する私達。

 次はどこへ行くんだろう?
 どこへ向かっているんだろう?
 そう思っていたら、

「俺の母さんに会ってみる?」

 ヨシが、想定外のことを言った。












  
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