美獣と眠る

爪痕

―――
 
「何とか、消えた……かな？」

 襲われそうになってから5日後、ようやく出勤出来るくらいに顔のアザが薄くなった。

 ファンデーションをいつもより多く塗ったくったのだけど。

 電車から見える、ヨシの美しい顔がドアップKanedo化粧品の電子広告。

 テレビのオンエア前のプロモーションだ。
 休みの間も事が順調に運んだようで良かった。

 しかし。
やっぱり、駅を出て、会社に向かう足は重かった。

 あの現場に行きたくない。

 それでも、ヨシの広告に元気を貰ったような気がして、はりきってビルのエレベーターのボタンを押す。

 すかさず、その手を押さえる大きな手に気付いた。

「え」

 振り返ると、

「おはよう、後藤ちゃん」

 一番見たくない、加納の笑顔がすぐそばにあった。

 「……よくそんな笑顔で私の前に出られますね」

 あんたのせいで、私がどれだけ時間をロスったと思ってるの？

「まー、色々あったけど、俺も仕事はしなきゃいけないからね、今日から復帰だよ」

「……Kanedoの件からは外れてくださいね」

「わかってるよー」

  加納の手を払いのけて、後からやってきた他の会社の従業員とともに、降りてきたエレベーターに乗る。
 この間のこともあるし、さすがに誰かいたら変なことはしてこないだろう。

 それでも加納からは出来るだけ離れて乗ることにした。
 けれど、三階で二人きりになった途端に、

「ね、コレ、見てみなよ」
 
 加納が近寄り、楽しそうに声をかけてきた。

「……」

 シカトしようとしたのに、

「これ、明後日発売の週刊誌に載っちゃうよ」

 奴が私の目の前に突き出したのは、

「″ VirtueのヨシがTVをドタキャンしてそのまま女遊び。悲劇のカリスマボーカリストの化けの皮剥がれる ″  …俺の撮った写真が使われるんだぜ？」

 ヨシが愛車の中で、女の子とキスをしてる写真だった。