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 前職の所長代理以上のスキルと経験で、たった1ヶ月で前年度の1.2倍の売上をあげた月山さんは、うちの営業所だけでなく、本社の人間からも熱い期待を寄せられていた。

「月山さん、Kanedo化粧品の営業部の方からお電話です」

 新規の顧客もまた大手なんだよね。

 通常もけして暇ではなかったのに、あの人が赴任してきてから、事務所更に活気づいて慌ただしくなったように思う。

「本部がここのオペレーターと営業、求人募集出してるよ」

「へー、すげー」

  そんな中、

「こんにちは! オフィスクリーンですっ!」

 業務用のマットリースの営業マンが交換業務に訪れる。
 とても爽やかな青年だ。
  結構、整った顔をした、可愛い青年。


 「マットとトイレのペーパータオル交換終わりました!伝票にサインお願いします!」

  その爽やかなイケメンが、いつものように私に受領サインを求めてきた。
  何となくこれも新人の仕事っぽくなっている。

 「はい」


  そーだ。
  これは、


「月山さん」


「ん?」

  私は、サインをせずに、パソコンとにらめっこをしていた経常利益様にその伝票を回す。

「受領のサインをしてマット屋さんに渡して貰っていいですか?」

  美青年好きの美中年上司にご褒美をあげよう。

「…何で俺に回す?」

「いいからお願いします」

「いいからの意味がわからん」

  経常利益を上げてくれた部長さまは、ポーカーフェイスで ( 私にはそう見えた)その営業マンに伝票を渡し、

 「今月から所長になりました月山です」

  と、たかだかマット屋と下に見ることなく、丁寧に名刺も渡して挨拶をしていた。
  はたから見ていて、とても美しい姿だった。


「え、新しい所長さんですか? お若いですねぇ」

 「そうでもないんですよ」


  これでこの営業がマンが、そっちの人で、それでもって″ 受け″なら、もうバッチリなのに。(完全に腐)


「何、ニヤニヤしてんだ?」

  
  戻ってきた月山さんが、私を怪訝な目で見る。


「どうですか? 好みでしょ? あのも」


「そうだな、うちに欲しい感じの子だったな」

  月山さんてば、正直ね。
  

  私は、無言で微笑んだ。


――――


  なんだかんだと繁忙期&決算を乗り越えて、お遅ばせながら、月山さんの歓迎会をすることになった。

「仕事がらみの飲み会なんて嫌だけど、今夜はちょっと楽しみねー」


  本山さんが私を見て、不適な笑いを浮かべる。

「……どうしてですか?」

「月山さんの飲んだ姿とか、超楽しみじゃない?」

「まぁ、それは確かに……」

  変貌したら、面白そうだな。
  酔った勢いでカミングアウトとかしちゃったりして、ついで、営業の男に思い切り迫っちゃったり?(その対象がいるかは別として)

  想像したら楽しい。

「話しかけといてなんだけど、今、後藤さん、送信ボタンじゃなくて、削除ボタン押してたわよ、大丈夫?」

「えっ!!」


 やだ、お客様に送るはずだったデータが消えている!
 おっさんのBL現場妄想してたら、やらかしてしまった!

  復元のアイコンを押しても、元に戻ることもなく……。
  
  皆が歓迎会の店に行ってしまったあとも、私はデータ復元に四苦八苦していた。


「なんだ? 後藤、俺の歓迎会の日に、一人居残り残業か?」

 









 











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