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イケオジファン?

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  ♪~♪~♪

 ヨシの歌声がステージ袖から聴こえてきて、メンバーが次々と現れると、観客の中には泣きだす女の子も現れた。

だ、だって、近いもの!!


 ヨシがコートを翻し、マイクを持っただけで、背後から押される力が倍になったような気がする。

 デビューシングルの演奏が始まると、それは増大し、私も少しでもメンバーに近づきたくて……歌うヨシの汗を受けとりたくて、前の客達の間から手を差しのべた。


 「てめっ、さっきから痛いんだよっ!!」

  
  が、コスプレをした客が振り返って私を睨み、ステージにまで聞こえそうな声で一喝。

「マナー守れよっ!チビ!!」

  チビ……?

 バンギャ歴は結構長いけれど、こんな風に怒られたのは初めて。


「スミマセン……」

 とりあえず謝って、継続される美獣の世界に戻ろうとした途端、


「ヨシ―ーーーーーー!!!私にもかけてぇ!!」


 後ろから物凄い圧。
 挫けた腰と膝が、ガクッ!と私自身をを支えきらなくなり、前のめりに倒れてしまいそうになった。


「危ないっ……!」


 だけど、誰かが、私の転倒を阻止してくれた。


「……あ」

 背後から腕で抱き止められる形で収まっている。
 ガッチリした腕だった。
 てっきり寧々かと思ったのに、振り返ると、


 「スゲーよな、このパワー……」


 女の群れの中の、一人の男の客が、私を抱きすくめて笑っていた。



   「……あ。ありがとうござ……」

  驚いた。

  こんな女ウケしかしなさそうな新人バンドのライヴに、男が混じってた。
  しかも、若くない。
  30代?それとも40代?
  そして、結構な男前だ。

  ……ファンなのだろうか?  この人。


「ヨッちゃーーーーん!!」「ヨシ―――!」

ハッ!

  一瞬、恩人に見とれてしまったけど、直ぐにステージのヨシに釘付けになり、再び耽美な世界へと身体を委ねる私。

  助けてくれたイケオジの事なんてすっかり忘れ、ライヴ後の余韻に酔いしれて、フワフワになっていたのだった。


 「晶ってば、おっさんにハグされてたねぇ!」
 
 「見てたの? やっぱりオッサンだった?」

  彼氏がいるせいか、私ほどヨシ様に夢中になっていない寧々は、ちゃんとあの人の顔を見ていたようだった。


「うん、元イケメンて感じ。二十代なら私も惚れてたってくらい、整った顔のオッサンだった」

「そう、一瞬しか見なかったけどね」

「あっ!電車着てた!」

  終電に何とか間に合った私と寧々。シートに座ってからは何度も聴いたはずのニューアルバムの曲を聴き始め、また、【Virtue】の世界に浸り、余韻を存分に楽しむ。

  耳からは大好きな音楽。

  目は、車窓から流れるネオンを見つめ、刹那に歌うヨシ様の顔を思い出していた。

  暫くはこれだけでメシがイケる。

  ガラスに映ったバンギャメイクの私は、ちょっと痛いけど。
―――今、とても満たされている。


  美しい音楽と歌声と、類希な美貌のおかげで、仕事にもやる気が出るし、渇いた現実を忘れられるから。


……のはずだった。
























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