2 / 172
スタンディング
しおりを挟む
―――
ライヴの翌日。
「なんだ、後藤、若いのに目の下にクマ出来てるぞっ?!」
興奮して眠れなかったせいでクマが出来るのは良く有ることで、それをイチイチ指摘してくる上司。
「若くてもクマは出来ますよ」
「じゃ、なんだ? 栄養不足か? 俺なんか昨夜は焼き肉食った後にラーメン平らげたぞ!」
『……う』
パソコンでデータのチェックをする私の隣で、ニンニク臭い息を平気で吹きかけてきた。
それだけで、また一つ、昨夜の夢のような世界が汚されていたみたい。
「 青白い顔して、具合悪いのか? ますます幸うすーい感じになってるぞ」
やかましい。
その臭い息のせいで、こちらはずっと息を止めてたからだよ。
「お前、本当、愛想ないやっちゃなぁ、そんなんじゃ一生 男できんぞ!」
常識もデリカシーもない、あなたみたいな男しか居ないなら、私は、一生独りでいます。
こんな所長と、オペレーター6名、営業3名で成り立つ広告代理店デザイン部。
そこに恋の予感は全くない。
さて、今日も ″ Virtue ″ のライヴだ。
今日のライヴはスタンディング。
メンバーの雰囲気に合わせて、ゴスなファッションでお洒落したかったけど、
「なんか、晶、地味……」
あまり体力に自信がない私は、倒れても大惨事にならないように、ジーンズにティシャツにペッタンコのシューズで臨む。
「私は、寧々みたいに押せ押せを跳ね返すほどのパワーを持ってないからね」
同じバンギャで、学生の時からの友人の寧々は、たくましいというか、言わばポッチャリさん。
「デブが力あると思わないでよ?」
「踏ん張る力はあるでしょ? 重力で」
「晶、あんた本当に失礼よね。だから男できんのよ!」
スタンディングの時、メイク悪魔な彼女が背後にきたお客さんは、それはそれはビビるだろう。
こんな彼女だけれど、ちゃんと彼氏はいるのだ。ポッチャリ専門の彼氏が。羨ましいような羨ましくないような……。しかし、
「私は、ヨシ様一筋だから、彼氏なんか要らないんですー」
強がり半分、本気でそう思っている私。
世の中、ちゃんと需要と供給が成り立っている。
スタンディングはステージと近くなるので、例えファンクラブに入っていても、チケットを入手するのは困難。
【Virtue】は世間的にはまだ浸透してないけれど、いわばV系を愛するバンギャ達の間では、彗星のごとく現れた奇跡のバンドだからだ。
今日のライヴチケットをゲットできたのも奇跡に近い。
今日は絶対にいいことがある。
そう信じて、ライヴ開演を待っていた。
「整理番ごとに入ってきてくださいねー」
呼ばれた番号順に会場に入っていく。
押されたりはしなかったけれど、
「キャアアー!!!」
と、まだメンバーも見えないのに奇声を発しながら場所を陣取る事ができるのは、やっぱりパワー溢れる人だ。
私は狙った最前列には行けず、真ん中辺りでつま先立ち覚悟で開演を待っていた。
いよいよ、
「ヨシ―――――――!!」
「ヨッちゃーーーーん!!!」
オープニングの曲が流れると、会場のボルテージは一気に上がり、耽美で謎多き美獣の呼び方に相応しくない声援が、あちこちで飛び交い始めた。
ライヴの翌日。
「なんだ、後藤、若いのに目の下にクマ出来てるぞっ?!」
興奮して眠れなかったせいでクマが出来るのは良く有ることで、それをイチイチ指摘してくる上司。
「若くてもクマは出来ますよ」
「じゃ、なんだ? 栄養不足か? 俺なんか昨夜は焼き肉食った後にラーメン平らげたぞ!」
『……う』
パソコンでデータのチェックをする私の隣で、ニンニク臭い息を平気で吹きかけてきた。
それだけで、また一つ、昨夜の夢のような世界が汚されていたみたい。
「 青白い顔して、具合悪いのか? ますます幸うすーい感じになってるぞ」
やかましい。
その臭い息のせいで、こちらはずっと息を止めてたからだよ。
「お前、本当、愛想ないやっちゃなぁ、そんなんじゃ一生 男できんぞ!」
常識もデリカシーもない、あなたみたいな男しか居ないなら、私は、一生独りでいます。
こんな所長と、オペレーター6名、営業3名で成り立つ広告代理店デザイン部。
そこに恋の予感は全くない。
さて、今日も ″ Virtue ″ のライヴだ。
今日のライヴはスタンディング。
メンバーの雰囲気に合わせて、ゴスなファッションでお洒落したかったけど、
「なんか、晶、地味……」
あまり体力に自信がない私は、倒れても大惨事にならないように、ジーンズにティシャツにペッタンコのシューズで臨む。
「私は、寧々みたいに押せ押せを跳ね返すほどのパワーを持ってないからね」
同じバンギャで、学生の時からの友人の寧々は、たくましいというか、言わばポッチャリさん。
「デブが力あると思わないでよ?」
「踏ん張る力はあるでしょ? 重力で」
「晶、あんた本当に失礼よね。だから男できんのよ!」
スタンディングの時、メイク悪魔な彼女が背後にきたお客さんは、それはそれはビビるだろう。
こんな彼女だけれど、ちゃんと彼氏はいるのだ。ポッチャリ専門の彼氏が。羨ましいような羨ましくないような……。しかし、
「私は、ヨシ様一筋だから、彼氏なんか要らないんですー」
強がり半分、本気でそう思っている私。
世の中、ちゃんと需要と供給が成り立っている。
スタンディングはステージと近くなるので、例えファンクラブに入っていても、チケットを入手するのは困難。
【Virtue】は世間的にはまだ浸透してないけれど、いわばV系を愛するバンギャ達の間では、彗星のごとく現れた奇跡のバンドだからだ。
今日のライヴチケットをゲットできたのも奇跡に近い。
今日は絶対にいいことがある。
そう信じて、ライヴ開演を待っていた。
「整理番ごとに入ってきてくださいねー」
呼ばれた番号順に会場に入っていく。
押されたりはしなかったけれど、
「キャアアー!!!」
と、まだメンバーも見えないのに奇声を発しながら場所を陣取る事ができるのは、やっぱりパワー溢れる人だ。
私は狙った最前列には行けず、真ん中辺りでつま先立ち覚悟で開演を待っていた。
いよいよ、
「ヨシ―――――――!!」
「ヨッちゃーーーーん!!!」
オープニングの曲が流れると、会場のボルテージは一気に上がり、耽美で謎多き美獣の呼び方に相応しくない声援が、あちこちで飛び交い始めた。
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説
【R18】ドS上司とヤンデレイケメンに毎晩種付けされた結果、泥沼三角関係に堕ちました。
雪村 里帆
恋愛
お陰様でHOT女性向けランキング31位、人気ランキング132位の記録達成※雪村里帆、性欲旺盛なアラサーOL。ブラック企業から転職した先の会社でドS歳下上司の宮野孝司と出会い、彼の事を考えながら毎晩自慰に耽る。ある日、中学時代に里帆に告白してきた同級生のイケメン・桜庭亮が里帆の部署に異動してきて…⁉︎ドキドキハラハラ淫猥不埒な雪村里帆のめまぐるしい二重恋愛生活が始まる…!優柔不断でドMな里帆は、ドS上司とヤンデレイケメンのどちらを選ぶのか…⁉︎
——もしも恋愛ドラマの濡れ場シーンがカット無しで放映されたら?という妄想も込めて執筆しました。長編です。
※連載当時のものです。
セカンドラブ ー30歳目前に初めての彼が7年ぶりに現れてあの時よりちゃんと抱いてやるって⁉ 【完結】
remo
恋愛
橘 あおい、30歳目前。
干からびた生活が長すぎて、化石になりそう。このまま一生1人で生きていくのかな。
と思っていたら、
初めての相手に再会した。
柚木 紘弥。
忘れられない、初めての1度だけの彼。
【完結】ありがとうございました‼
イケメンエリート軍団の籠の中
便葉
恋愛
国内有数の豪華複合オフィスビルの27階にある
IT関連会社“EARTHonCIRCLE”略して“EOC”
謎多き噂の飛び交う外資系一流企業
日本内外のイケメンエリートが
集まる男のみの会社
唯一の女子、受付兼秘書係が定年退職となり
女子社員募集要項がネットを賑わした
1名の採用に300人以上が殺到する
松村舞衣(24歳)
友達につき合って応募しただけなのに
何故かその超難関を突破する
凪さん、映司さん、謙人さん、
トオルさん、ジャスティン
イケメンでエリートで華麗なる超一流の人々
でも、なんか、なんだか、息苦しい~~
イケメンエリート軍団の鳥かごの中に
私、飼われてしまったみたい…
「俺がお前に極上の恋愛を教えてやる
他の奴とか? そんなの無視すればいいんだよ」
地味系秘書と氷の副社長は今日も仲良くバトルしてます!
めーぷる
恋愛
見た目はどこにでもいそうな地味系女子の小鳥風音(おどりかざね)が、ようやく就職した会社で何故か社長秘書に大抜擢されてしまう。
秘書検定も持っていない自分がどうしてそんなことに……。
呼び出された社長室では、明るいイケメンチャラ男な御曹司の社長と、ニコリともしない銀縁眼鏡の副社長が風音を待ち構えていた――
地味系女子が色々巻き込まれながら、イケメンと美形とぶつかって仲良くなっていく王道ラブコメなお話になっていく予定です。
ちょっとだけ三角関係もあるかも?
・表紙はかんたん表紙メーカーで作成しています。
・毎日11時に投稿予定です。
・勢いで書いてます。誤字脱字等チェックしてますが、不備があるかもしれません。
・公開済のお話も加筆訂正する場合があります。
可愛い女性の作られ方
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
風邪をひいて倒れた日。
起きたらなぜか、七つ年下の部下が家に。
なんだかわからないまま看病され。
「優里。
おやすみなさい」
額に落ちた唇。
いったいどういうコトデスカー!?
篠崎優里
32歳
独身
3人編成の小さな班の班長さん
周囲から中身がおっさん、といわれる人
自分も女を捨てている
×
加久田貴尋
25歳
篠崎さんの部下
有能
仕事、できる
もしかして、ハンター……?
7つも年下のハンターに狙われ、どうなる!?
******
2014年に書いた作品を都合により、ほとんど手をつけずにアップしたものになります。
いろいろあれな部分も多いですが、目をつぶっていただけると嬉しいです。
ヤリたい男ヤラない女〜デキちゃった編
タニマリ
恋愛
野獣のような男と付き合い始めてから早5年。そんな彼からプロポーズをされ同棲生活を始めた。
私の仕事が忙しくて結婚式と入籍は保留になっていたのだが……
予定にはなかった大問題が起こってしまった。
本作品はシリーズの第二弾の作品ですが、この作品だけでもお読み頂けます。
15分あれば読めると思います。
この作品の続編あります♪
『ヤリたい男ヤラない女〜デキちゃった編』
アクセサリー
真麻一花
恋愛
キスは挨拶、セックスは遊び……。
そんな男の行動一つに、泣いて浮かれて、バカみたい。
実咲は付き合っている彼の浮気を見てしまった。
もう別れるしかない、そう覚悟を決めるが、雅貴を好きな気持ちが実咲の決心を揺るがせる。
こんな男に振り回されたくない。
別れを切り出した実咲に、雅貴の返した反応は、意外な物だった。
小説家になろうにも投稿してあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる