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第一章:ウェンティア共和国編

第3話「予感」

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 (もう朝ですか...。)

 眠い目を擦り、軽く背伸びをする。
 時計を見てみると、既に十時過ぎ。

 (少し寝すぎましたね。)

 ベッドから立ち上がり、卓上のポッドからアイスティーをカップに移すと、ササっと流し込む。
 冬の枯れた喉には、その冷たい茶がよく染みる。

 朝食を後にし、クローゼットから服を取り出すと素早く着替えた。
 木製の扉を勢いよく開けば、今日も一日の始まりだ。


 -----------------------


 今日の用事は、ポーションの調合に必要な薬草を摘みに行く事。
 別に希少な物でもないので、この森のどこかにあるはずだ。

 まずは手始めに東の方へ向かってみましょうか。

 肩まで届く背の高い草藪をかき分けながら進んでいると、リスや小鳥が慌ただしく駆け抜けていった。
 まるで何かから逃げるかのように。

 この森には、こういった動物たちの天敵になるような魔獣は生息していないはず....。
 一体、この先には何があるのだろうか。

 好奇心からか自然と歩く速度が上がってきた。

 視界の邪魔をする草藪をかき分け、するすると進んでいく。



 おぎゃぁおぎゃぁおぎゃぁ


 前方から何やら赤子の泣き声のようなものが聞こえてきた。

「ん?」

 好奇心はさらに高まり私の足をどんどん運ばせる。

 草藪を抜け少し開けた空間に出た時、私は一瞬目を疑った。

「え...子供...?」

 そう。
 私の目の前には薄汚れたブランケットに包まれた一人の赤子が居たのだ。

(なんでこんな所に...。)

 ここはマルセルフェの帝都から遠く離れた広大な森林。
 私みたいに特殊な人間でなければ家を建てることなど確実に無い場所だ。

 それなのにどうしてこんなところに赤子が一人放置されているのだろうか。


「大丈夫...?」

 喋りかけても無駄なのは分かっているが、私は今混乱している。
 この状況、理解しがたい。

 違う、そうじゃない。
 まずはこの子の安否確認だ。

 口元に手を近づけしばらくそのままにする。
 私の手には、規則正しく温かい感触が伝わってきた。


「よかった、生きてはいるみたいですね。」



 安堵のため息をこぼし、そっと胸を撫でおろす。

 とりあえず、無事でよかった。


 -----------------------


 その後、赤ん坊を連れて帰り、ミルクを与えベッドに寝かしつけた。
 よほど疲れていたのだろう。
 ベッドに置くと、瞬く間に眠り落ちてしまった。

 どうやらこの子は捨てられてしまったらしい。
 近くに落ちていた紙切れには、この子の名前と性別が書かれていた。

 彼の名前はエーデル・キルフリント。
 男の子だそうだ。

 彼の親がどうして捨てるようなことをしてしまったのかは分からないが、ただ成らぬ事情だったことは伝わってくる。

 現に、あの紙切れに書かれていた字はとても乱雑に書かれていた。
 急ぎで書き記したのだろう。

 そして、その縁には、血液とみられる黒っぽい染みがあった。

 この子に何があったのかは分からない。

 しかし、私はこの子を育て、世に送り出さなくてはいけない。
 そんな気がした。

 そうしなければ、取り返しのつかない事になる。


 そんな気がした。

 
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