赤い目は震わす

伊達メガネ

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第二章

硬亀

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「……あっ、えっと……クロード……」

 思わず頭を上げて覗き込んでしまう。これがなんなのか分からないほど野暮ではない。
 気まずそうなクロードが眉間に深くシワを寄せる。

「……気にしないでください。直おさまります……おさめます」

 まるで宣言だ。とはいえ全く収まる気配がない。
 クロードは呪文でも唱えそうなほど険しい顔つきで何やら反芻している。
 ティアはごくり、と息を飲んでお伺いを立てるように足の甲でクロードの膨らんだそれを下穿き越しになぞった。
 クロードがティアの行動にビクッと反応する。

「あの……クロードも辛い、んだよね? 私もクロードを気持ちよくしたい。あの……もし、よかったら……その……最後まで……」

 クロードの滾りに触れたティアは無意識に膝を擦り合わせた。この続きがあることは知っている。
 私ばかりではなくクロードにも気持ちよくなってほしい。
 もっとクロードに触れたい。

「ク、クロード……何か言って……っ」

 恥ずかしくてクロードの顔が見られずにいると、突然体が反転した。
 新台の上に胡座をかいたクロードの膝の上に抱き上げられる。向き合っているとはいえ身長差のためクロードの表情を伺うことは出来ない。
 ただひとつ分かっているのは先程足で撫でたクロードの昂りが、ティアの下着越しにぴったりと押し付けられているということだ。

 夜着同様、薄い下着は濡れてもう意味をなしていない。
 それどころか些細な刺激を増幅させているようにも感じる。
 クロードの昂りが脈打つ振動でティアは肩を震わせた。

「んッ……はぁ……っ、クロード……」

「……あなたという人は……俺がどれだけ堪えていると思っているんだ」

 クロードがグルルッと喉を鳴らして、ティアをきつく抱き締めるとそのまま腰を揺らした。
 さらに密着したそれは、ティアの中心で主張する芯を容赦なくコリコリと擦りあげる。

「アッ! ……ひっ、アッアッ、やあんっ!」

 胸の先端とは比べ物にならない刺激がティアを襲う。
 つま先が痙攣して、膝が震えた。軽く果ててしまったのだと、自分でも分かってしまう。
 そしてそれをクロードが見逃すはずがなく、ティアの髪を撫でた後、そこに口付けて優しく囁いた。

「このまま動きます。先程のような刺激が続きますが……しっかり捕まっていてくださいね」

 クロードのものが芯の上を往復する度、足の先まで痺れるような刺激が走った。

「……小さいのに随分と主張していますね。俺のに引っ掛かって……ッ」

 クロードの声が今まで聞いたことがないほど熱っぽい。降ってくる吐息混じりの声は直接お腹に響くようでティアの感度があがる。

「クロードも、きもち、い……?」

 くちゅくちゅと音をたてる下着はさらに滑りを良くしてクロードの腰つきを受け入れる。

「気持ちいいです。あなたに触れているだけでおかしくなりそうだ」

 甘えるような声。普段は格好いいのに、私の中のクロードはどうしてこうも可愛いのだろう。

「あっ……んアッ! わたし、また……ッ」

 また限界の波が迫ってきて、ティアは無意識にクロードにしがみついた。クロードも応えるように腰の動きを早める。一定のテンポだったそれが乱雑にも思えるほど激しくティアの芯を潰した。
 いつのまにか頭上で纏められあげていた手は互いの指を絡めていた。
 首を仰け反らせるティアの頬にクロードが甘えるように擦り寄る。
 甘え返せば柔らかな唇が触れて、誘われるようにどちらともなく口付ける。

「ティア、もっと舌いれて」

 キスが深まるのと同時に片膝を抱えられ擦れる芯が剥き出しになる。
 キスに応える余裕がないティアを薄目で見つめるクロードは何故か嬉しそうだ。
 プリッと音が出そうな芯が下着の中でまるでもっともっととクロードに強請るように主張する。
 コリコリッ、くちゅ、ぷちゅ、卑猥な音が耳を犯す。

 クロードの腰が引かれても、押されても全てが鋭い快楽になってティアは喘ぐことしか出来ない。
 もう何度目か分からない甘い絶頂とそれを超える大きな感覚がティアに襲いかかる。
 もう膝にさえ力が入らなくてクロードに腰を支えられている状態だ。クロードが「ティア、ティア」と何度も繰り返す。ティアもそれに応えるようクロードの名を呼んだ。

「アアッ、アッアッあっ、もうっ、クロードっ、クロード……ああ――ッ!」

 クロードとティアは同時に果てた。ねっとりと濡れた互いの下半身が粘着質な音をたてる。
 ティアはクロードの上にもたれかかり脱力した。
 夢の中なのに眠ってしまいそうになる。

「夢の中とはいえ……酷い願望ですね」

 クロードがティアの赤い髪を指で梳きながら呟いた。ティアはしゅんとしてこたえる。

「そうよね……ごめんなさい」

 夢の中とはいえクロードにこんなことをされたい願望を持っていたなんて。王女としてではなくひとりの婚約者として扱って欲しい。触れ合いたい。一日目の夢の中でしたようにキスをすることを夢見たことはあったけれど、こんなふうに激しく触れ合うことを考えたことはなかった。
 まるで刺激的な恋愛小説のような展開にティアは少し悲しくなる。そんなティアの言葉にクロードは眉を顰める。

「なぜティアが謝る。これは俺の妄想なのだから……あなたが謝る必要はないだろう」

 ティアはきょとんとクロードを見上げる。「俺の妄想」だなんて、まるでこれが私の夢ではなくクロードの夢のような言い方だ。

「えっと、これはハートのアロマキャンドルを使った効果の夢で……私の夢の中なのよね?」

 相変わらず眉を顰めたままのクロードに何だか自信がなくなってくる。
 顎に手を当ててうーんと思い返してみるもやっぱり私に都合が良すぎる。

「だって、そうじゃないと都合が良すぎるもの。クロードが私を見つめてくれて、名前を呼んでくれて……キスしてくれて……婚約者、ううん。まるで恋人同士みたいじゃない」

 私の願望でしかない、と言わんばかりに再度クロードの目を見つめると、普段であれば静かに見つめ返される赤い瞳が泳いだ。
 クロードは口元に手をやって動揺するように「まさかそんなことが……」など呪文のようにブツブツ繰り返す。
 そして湯気が立つくらい赤くなったかと思えば急に青ざめたクロードが腕の中のティアを解放して寝台から降りると床に跪く。

「ティア……いえ、王女様。あのアロマキャンドルを使用してこの夢を見ているのですね?」
「……今更王女様呼びしないで」
「……ティア」

 むくれたティアにクロードが先ほどより遠慮がちに名前を呼ぶ。さっきまであんなことをしておいて今更名前を躊躇うなんて。

「ええ。あのアロマキャンドルからクロードに似た香りがしたからきっとクロードの夢を見てるんだろうなって思ってるの」

 嬉々として答えたティアにクロードは固まった。そして眉間を指で押さえ改めてティアを見つめる。

「現実のクロードとはこんなことできないもの。恥ずかしかったけど嬉しかったわ」
「ティア。これはティアの夢ではないのです」
 え? と今度はティアが固まる。
「いえ、正しくはティアだけの夢ではない、ですね」

 クロードは答えを見つけそれを説明するような口調で淡々と語った。

「あのキャンドル、俺のはティアの香りがしました。それにあの香りを嗅いだ時、腹の奥に響くような刺激を感じませんでしたか?」

 確かに感じた。あの時は何の感覚だが分からなかったが、クロードと触れ合った今ならわかる。あれはクロードによく似た香りに誘われ欲情していたのだ。ティアは思い返すと恥ずかしさのあまり逃げ出したい気分になる。

「……恐らくキャンドルの片割れを持つ者と夢を共有する魔法。それに淫夢を誘うものを少し加えたおもちゃだったのでしょう」
「そういえばリリィも片割れを誰が持っているのか気にしていたわ。クロードって言ったらよかったって……」

 そこまで口に出してようやく気づく。リリィはこれが何か、どういう効果があるものなのか知っていたのだ。だからキャンドルを見た時に頬を赤くしたのだと今になって思う。
 そしてみるみるティアの顔は赤くなる。顔から火が出そうだ。夢が共有されているということは、一日目に繰り返した告白も、二日目のキスも、さっきまでのあんなことやこんなことを自分だけではなくクロードが覚えているということになる。

 もちろん目が覚めても、だ。
 幸か不幸かこの四日間、クロードは騎士の指導が忙しく、ティアも宮殿内で過ごしていたため顔どころか声すら聞いていない。
 今更どんな顔をしてクロードに会えというのだろう。王女としてでもなく、婚約者としてでもなくただの発情期の娘だ。
 もういっそのことこのまま夢が覚めて欲しくない。

「ティア」
「な、なに?」

 真っ赤な顔を、ラズベリー色の髪で覆うように隠す。指と髪の間からうかがえるクロードは裏腹に覚悟を決めたような目をしている。

「今更弁解しようとも思いません。あなたは俺の全てであり太陽だ。そして王国民の希望です。ただそれを伝えたかった……俺の夢でなくてよかった」

 クロードはまっすぐティアを見つめたまま言い切った。
 柔らかく安堵したように微笑むクロードに心臓が跳ね上がる。ティアは恥ずかしかのあまりただの夢であればよかったと願った。それなのにクロードはティアが覚えていることが嬉しいかのように言ったのだ。
 ティアは逃げようとした自分を恥ずかしく思う。
 伏せ目がちになっていた目で改めてクロードを見つめ、微笑んだ。

「明日、朝一番にクロードに会いに行くわ。宮廷の庭で待っていてくれる?」

 本当はクロードの部屋に行きたいくらいだったが流石に思いとどまった。たとえ婚約者とはいえ目が覚めれば2人きりの世界ではない。王女と騎士だ。

「はい。お待ちしております」

 約束よ、と肩を竦める。
 クロードが微笑んで、目を伏せた。不意に込み上げてきた寂しさにその瞼に口付けたくなったけれど踏みとどまる。
 クロードの赤い眼は騎士の色をしていた。
 王女として、婚約者として自分の言葉で想いを伝えてからにしよう。
 タイミングを見計らったように視界がぼやけて、体が吸い込まれるような感覚に襲われる。

「……んっ」

 瞼を開くとそこには見慣れた新台の天蓋があった。
  ハートのアロマキャンドルは役目を終え跡形もなくなっていた。
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