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水珠の波紋
二
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ここだから、と柴深に案内された建物の中に入ると、既に自分と同じ服を身につけた者たちが座っていた。
(寺子屋ってこんな感じ?)
李老師らしき人物は見当たらないのでまだセーフらしい。
かろうじて空いていた席に座った。
少しして、仙人みたいなおじいちゃんが入ってきて、みんなが立ち上がって拱手する。慌ててそれに倣った。
にしてもこの服装、どっかで見たことがある気がする。
「みな、ここに集まったからには陛下を守りお支えする覚悟が出来ているようじゃない」
「はい!」
勢いよく答えるものが多数。
「…よし。じゃあ早速講義を行なっていくぞ。人間は皆、瞳に珠(しゅ)と呼ばれる不思議な力を宿す。これはもちろん知っておるな?」
ええ、知らん……。瞳に珠?なんじゃそりゃ。
「珠は五種類あり、まとめて五珠と呼ばれる。木珠、火珠、土珠、金珠、水珠とそれぞれ呼ばれ、片目にその珠の力を宿す。両眼に力を宿す者、一つの体に二つの珠を宿す者はめったにおらんーー、というより、わしは見たことがないな」
やばい。まじでわからない。モクシュ?カシュ?夢にしたって作り込まれてる。
そういえば、夢は寝る前に考え事なんかをしているとそのことが夢に出てきたりする。
寝る前に何を考えていたっけ…。
確か寝落ちだった。明日出勤したら発注の連絡と見積もりの準備をしてと思っていたような気がする。
そして、そしてーーーーー。
「っあーーーーーー!」
思い出した!あのアニメだ!
「どうした玄思恭?」
「何でもございません!申し訳ございません!」
机をバンと叩いてしまった。慌てて意味もなく撫でる。
寝る前にテレビでやってた、なんか中華ぽいファンタジーのアニメ。
この世界、まさしくそのアニメの世界じゃん!
異世界転生風の夢なら、よく出来ている。
李老師は呆れたような目でこちらを見て、こほんと咳払いした。
「…続けるぞ。珠はそれに応じた力を使えるというわけじゃ。例えば、木珠の力は、植物や自然を操り、歴代の皇帝はこの力で五穀豊穣を成し遂げてきたのじゃ」
そうだそうだ。ヒロインの相手役、若き皇子は木珠の使い手だった。
俺はすっかり安心した。とんでもない夢の輪郭が少し捉えられたから。
なんなら、嬉しい。この世界にいるということは自分にも何らかの珠があるということだ。
周りにバレないように自分の手のひらを見る。そしてこっそり軽く念じてみる。
水が湧いたり、火の玉が出たりするのを期待したけど、全くもって何もなければ、体の感覚的にも何もない。
「……」
残念すぎる。
水や火だとなんだか攻撃力が高い気がするから、かっこいいと思ったのに。
「そして、珠の力を用いた基礎的な術を基珠術という。例えば身体の強化や五珠術に属さない術も含まれる。実際にやってみよう」
李老師はそういうと、30センチほど宙に浮いて、そのまま歩き始めた。
教室からどよめきの声が上がる。
「す、すご……」
そのまま、李老師は何かをぶつぶつと唱えた。するとどこからともなく、魚の形をした水が、教室内を泳ぎはじめた。
「魚だ!」
「さすが水珠師様だ!」
ふよふよと宙の泳ぐ魚は水だからもちろん透明で、現実ではありえない光景だった。
李老師は生徒たちの反応に大変満足そうにしている。掴みネタだな、絶対。
ゆっくり地面に足をつけると、魚は李老師の手に帰っていった。あたりには水滴が落ちているなんてこともない。
「と、まあこんな感じじゃ。宦官といえば、後宮で陛下や妃の衣食住の世話や外の役人とのやり取りばかりかと思うとるかもしれんが、この力で陛下をお守りすることも非常に大事な職務じゃぞ」
ふーん、と感心するとともに、李老師の言葉に、頭を傾けた。
宦官?
宦官って何だったっけ?
そういえば、この服はアニメにも出てきた。
後宮で、主人公に嫌がらせする位の高そうな宦官もいたし、主人公に想いを寄せてしまう宦官もいた。
えらく禁断の恋みたいな描かれ方をしていたが、どうしてだったっけ。
と考えて、その宦官が言った、「私は不具の身ですので…」という言葉を俺は思い出した。
そうだ!不具って、まさしく男の『アレ』がないことだよな?!
じゃなきゃ後宮でお仕えなんか出来ない。皇帝の所有物である妃や女官と何かあったら困るから。
え……じゃあ俺もないってこと?
そこまで考えて、皆にバレないように、軽く身じろぎをする。
そんな恐ろしいことがあるか?
胡座から姿勢を変えるフリをして、もぞもぞと体を動かす。
……「ある」気がする。
あまりのパニックにか、汗がたらたらと流れてきた。
……「あって」いいのか?だめだよな。なんで思恭は去勢されてないんだ。
いや、夢だからいいのか?
「では、皆はまだ自分の五珠が何なのか、知らない者も多いと思う」
全く集中出来ていないが、講義が進んでいた。李老師は片手ででかい水晶玉みたいなものを持ち上げる。
「これを使えば、自分の珠がわかるぞ。試しにーーー、玄思恭、前に」
「は、はい!」
今それどころじゃないんだけど、と思いつつ前に出る。
「この玉を見つめなさい」
李老師が教卓に置いた水晶玉を見つめる。
透明な玉に、思恭の顔が映り込んだ。
輝く瞳に、真っ白な肌で、もちろん肌荒れなんてない。
……とてつもなく美人だった。
みんなが思恭のことをジロジロと見つめる理由がやっとわかった。
この体の持ち主は、アジア系スーパーモデルみたいな美しい人だったのだ。
めちゃくちゃ綺麗だ。人形みたいで、ありえないくらい綺麗だ。
「何自分に見惚れておるんじゃ」
「あっすみません」
ふっと見つめていると、片目の色が淡く白とも水色ともつかない色に変化していった。
「…おぬしは片目に水珠の力を宿しておるようじゃな」
「はあ」
「中々見込みがあるようじゃぞ」
「そんなこともわかるんですか!」
「うむ。わしにはわかるぞ」
「そうなんですね!頑張ります」
すっかり気をよくして席に戻る。水珠ってなんかかっこいいし、見込みがあるようだから頑張れば海とか操っちゃったりするんじゃなかろうか。
しかもとんでもない綺麗な顔になっている。何だか自分の内なる欲望みたいなものが反映されたみたいで少し恥ずかしい。
もはやイケメンだとか美形という言葉では片付けられない。見たこともない美しさだった。
とりあえず、夢ならもうちょっと覚めないでいてもいい。せめて、水珠術を少し使えるくらいまではアラームが鳴らないでほしい。
あと、宦官なのにアレがあるのもバレないようにしなきゃ。
(寺子屋ってこんな感じ?)
李老師らしき人物は見当たらないのでまだセーフらしい。
かろうじて空いていた席に座った。
少しして、仙人みたいなおじいちゃんが入ってきて、みんなが立ち上がって拱手する。慌ててそれに倣った。
にしてもこの服装、どっかで見たことがある気がする。
「みな、ここに集まったからには陛下を守りお支えする覚悟が出来ているようじゃない」
「はい!」
勢いよく答えるものが多数。
「…よし。じゃあ早速講義を行なっていくぞ。人間は皆、瞳に珠(しゅ)と呼ばれる不思議な力を宿す。これはもちろん知っておるな?」
ええ、知らん……。瞳に珠?なんじゃそりゃ。
「珠は五種類あり、まとめて五珠と呼ばれる。木珠、火珠、土珠、金珠、水珠とそれぞれ呼ばれ、片目にその珠の力を宿す。両眼に力を宿す者、一つの体に二つの珠を宿す者はめったにおらんーー、というより、わしは見たことがないな」
やばい。まじでわからない。モクシュ?カシュ?夢にしたって作り込まれてる。
そういえば、夢は寝る前に考え事なんかをしているとそのことが夢に出てきたりする。
寝る前に何を考えていたっけ…。
確か寝落ちだった。明日出勤したら発注の連絡と見積もりの準備をしてと思っていたような気がする。
そして、そしてーーーーー。
「っあーーーーーー!」
思い出した!あのアニメだ!
「どうした玄思恭?」
「何でもございません!申し訳ございません!」
机をバンと叩いてしまった。慌てて意味もなく撫でる。
寝る前にテレビでやってた、なんか中華ぽいファンタジーのアニメ。
この世界、まさしくそのアニメの世界じゃん!
異世界転生風の夢なら、よく出来ている。
李老師は呆れたような目でこちらを見て、こほんと咳払いした。
「…続けるぞ。珠はそれに応じた力を使えるというわけじゃ。例えば、木珠の力は、植物や自然を操り、歴代の皇帝はこの力で五穀豊穣を成し遂げてきたのじゃ」
そうだそうだ。ヒロインの相手役、若き皇子は木珠の使い手だった。
俺はすっかり安心した。とんでもない夢の輪郭が少し捉えられたから。
なんなら、嬉しい。この世界にいるということは自分にも何らかの珠があるということだ。
周りにバレないように自分の手のひらを見る。そしてこっそり軽く念じてみる。
水が湧いたり、火の玉が出たりするのを期待したけど、全くもって何もなければ、体の感覚的にも何もない。
「……」
残念すぎる。
水や火だとなんだか攻撃力が高い気がするから、かっこいいと思ったのに。
「そして、珠の力を用いた基礎的な術を基珠術という。例えば身体の強化や五珠術に属さない術も含まれる。実際にやってみよう」
李老師はそういうと、30センチほど宙に浮いて、そのまま歩き始めた。
教室からどよめきの声が上がる。
「す、すご……」
そのまま、李老師は何かをぶつぶつと唱えた。するとどこからともなく、魚の形をした水が、教室内を泳ぎはじめた。
「魚だ!」
「さすが水珠師様だ!」
ふよふよと宙の泳ぐ魚は水だからもちろん透明で、現実ではありえない光景だった。
李老師は生徒たちの反応に大変満足そうにしている。掴みネタだな、絶対。
ゆっくり地面に足をつけると、魚は李老師の手に帰っていった。あたりには水滴が落ちているなんてこともない。
「と、まあこんな感じじゃ。宦官といえば、後宮で陛下や妃の衣食住の世話や外の役人とのやり取りばかりかと思うとるかもしれんが、この力で陛下をお守りすることも非常に大事な職務じゃぞ」
ふーん、と感心するとともに、李老師の言葉に、頭を傾けた。
宦官?
宦官って何だったっけ?
そういえば、この服はアニメにも出てきた。
後宮で、主人公に嫌がらせする位の高そうな宦官もいたし、主人公に想いを寄せてしまう宦官もいた。
えらく禁断の恋みたいな描かれ方をしていたが、どうしてだったっけ。
と考えて、その宦官が言った、「私は不具の身ですので…」という言葉を俺は思い出した。
そうだ!不具って、まさしく男の『アレ』がないことだよな?!
じゃなきゃ後宮でお仕えなんか出来ない。皇帝の所有物である妃や女官と何かあったら困るから。
え……じゃあ俺もないってこと?
そこまで考えて、皆にバレないように、軽く身じろぎをする。
そんな恐ろしいことがあるか?
胡座から姿勢を変えるフリをして、もぞもぞと体を動かす。
……「ある」気がする。
あまりのパニックにか、汗がたらたらと流れてきた。
……「あって」いいのか?だめだよな。なんで思恭は去勢されてないんだ。
いや、夢だからいいのか?
「では、皆はまだ自分の五珠が何なのか、知らない者も多いと思う」
全く集中出来ていないが、講義が進んでいた。李老師は片手ででかい水晶玉みたいなものを持ち上げる。
「これを使えば、自分の珠がわかるぞ。試しにーーー、玄思恭、前に」
「は、はい!」
今それどころじゃないんだけど、と思いつつ前に出る。
「この玉を見つめなさい」
李老師が教卓に置いた水晶玉を見つめる。
透明な玉に、思恭の顔が映り込んだ。
輝く瞳に、真っ白な肌で、もちろん肌荒れなんてない。
……とてつもなく美人だった。
みんなが思恭のことをジロジロと見つめる理由がやっとわかった。
この体の持ち主は、アジア系スーパーモデルみたいな美しい人だったのだ。
めちゃくちゃ綺麗だ。人形みたいで、ありえないくらい綺麗だ。
「何自分に見惚れておるんじゃ」
「あっすみません」
ふっと見つめていると、片目の色が淡く白とも水色ともつかない色に変化していった。
「…おぬしは片目に水珠の力を宿しておるようじゃな」
「はあ」
「中々見込みがあるようじゃぞ」
「そんなこともわかるんですか!」
「うむ。わしにはわかるぞ」
「そうなんですね!頑張ります」
すっかり気をよくして席に戻る。水珠ってなんかかっこいいし、見込みがあるようだから頑張れば海とか操っちゃったりするんじゃなかろうか。
しかもとんでもない綺麗な顔になっている。何だか自分の内なる欲望みたいなものが反映されたみたいで少し恥ずかしい。
もはやイケメンだとか美形という言葉では片付けられない。見たこともない美しさだった。
とりあえず、夢ならもうちょっと覚めないでいてもいい。せめて、水珠術を少し使えるくらいまではアラームが鳴らないでほしい。
あと、宦官なのにアレがあるのもバレないようにしなきゃ。
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