王冠にかける恋【完結】

毬谷

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第11章

もうこの手はほどけない

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無事に王子様業務を全うした景に彼の自室に連れて行かれた。
ソファーに腰掛けようとすると、ベッドのふちに座らされる。
「そういえば真加、なんでそんな恰好をしているの?」
今更?このマイペースさはロイヤルゆえなのだろうか。
やっと2人きりになれたのに、たらたらと経緯を説明することなんて嫌だから適当にあしらう。
「まあ、そんなことはいいんだよ」
「そっか」
「あっごめん。コスプレみたいだよな。気になる?」
「気になるというか……」
景は目線を逸らした。
「真加が私の執事になったみたいでドキドキする……」
「ん、なっ…、何言って」
もっとまともな答えを想像していたのでうろたえた。
「ごめん、そうだよね」
顔を真っ赤にして俯かれると、久々に会えたこともあってとんでもなく愛おしさが湧いてくる。
てか王子様もコスプレ好きなのかもしれない。
景はたまらないのか真加の肩に顔を落とした。
絞り出すように呟く。
「夢みたいだ……」
「俺も」
「ねえ、本当に私のこと好き?」
縋るような瞳で言われる。王子様は自分の魅力を十分にわかっているのだと強く思う。
「さっきも言ったじゃん。好き、大好きだよ。景は?」
「私も大好きだ」
もぞもぞと景の手が動いて、指を握られる。
「でもね……さっきはみんなの前で宣言したけど、やっぱり私はこんな身の上だからさ、……」
こんな情熱的な瞳なのに、言葉が徐々に途切れていく。
その歯切れの悪さに少し不安になる。
「……え、俺フラれるの?」
自分で言うのもなんだけど今めちゃくちゃ雰囲気良かったよね?温度差がすごすぎてついていけない。
「いや、違う!絶対離れない!、離れないけど!」
「もう!何だよ」
「…私と一緒にいるということは、普通の幸せは手に入らないんじゃないかって思う。私は産まれた時からこうだから、自分のことを不幸だとか思わないけど、それが真加にとってつらいことだったらどうしようかと思うんだ」
「景、」
「その……恥ずかしい話なんだけど、急にひどいことを言ったのは、好かれてもいない相手に執着するのはよくないと、真加のことを考えて手放すべきだと考えてしまったんだ」
あのとき、景に嫌われたのだと思っていた。
「だとしたって、本当に傷付けた。あんなやり方はなかった。申し訳なく思ってる。だから、真加がやっぱり無理だって思うなら、……」
景が決定的なことを言ってしまう前に言葉をさえぎる。
「…俺もさ、絶対大丈夫とか言えないけどさ、でも景のことがもうどうしようもないくらい好きなの。だから、一緒に頑張りたいなって思ってる。俺はまだまだ子どもだし、正直景のつらさとか大変さとか全然わかってないと思うけど…」
椿と新が言った「住む世界が違う」というのは本当のことで、真加が今無知なのはどうしようもないことだ。
でも、これからは。
「ううん。そんなことない…本当に勇気を出してくれてありがとう。もう絶対に離さない。一緒に頑張ろう」
景に体を引き寄せられ、ぐっと抱きしめられた。体がぴたぴたに合わされると、安心して力が抜ける。
手の感触を背中に感じて、ふと怪我のことを思い出した。
「いやでも俺も…謝らないといけないことがあるし…」
「え、何?」
「俺のせいでアーチェリーの強化合宿出られなかったって…その、手を刺したって……俺全然知らなくて」
あの日の真加は薬で強制的に発情をして理性が飛んでいた。景にまで気を配る余裕は全くなく、彼がどうして本能に逆らえたのかまで考えていなかった。
しかし、景は「ああ、そんなこと」と抱きしめていた腕を解いて言う。
「そんなことじゃないだろ。ネットでオリンピックレベルって見たよ」
「それはデマだよ。まあでも…あれは私が勝手にやったことで、真加は気にしないで…って無理?」
「…うん」
「手のことは誰に聞いたの?」
「…椿さんと新さん」
小声で言うと景は「またか」と眉をひそめた。
「あれは、手のこともあったけど公務の都合とか、色々あって辞退したんだ。大体私が合宿に行くとなると先方も色々大変でしょ?」
「そうかもだけど…向こうだっていい宣伝なんだからウェルカムじゃないの?」
「それが難しいところだよ。私が選ばれるということは、誰かが選考から漏れることになる。部活の範囲ならまだしも国代表だからね」
「そういうことじゃなくて、景は行きたいとか思わなかった?」
そう言うと景は目を少しぱちくりとさせた。思ってもない返しだったかもしれない。
いつも景は皇太子としての自分ばかり気にしている。しかし、彼の真意が知りたかった。
「うーん…。別に興味の無かったと言えば嘘になる。けど、行けなかったのはさっきも言ったように色々あったからで、誰のせいでもないんだ。だから謝らないでほしい」
強情な景だから、これ以上言っても真加はどうにもならない気がした。
「じゃあ景、手を見せて」
差し出された手は、よく見るとうっすらと怪我の跡が残っているような気がした。
「玉体にとんでもないことを」
「大したことじゃないってば。だって、あの時夏理くんだっていたし、真加を任せられる人間はいくらでもいたのに、わざわざ部屋に行って、勝手に怪我まで作ったんだから」
そう言われると、もう何も言い返せない。
「ずるい」
また強く抱きしめられる。わけもなく涙がこぼれそうになる。
「ずるくて結構。ひどいことを言ったのにまた真加が戻ってきてくれたんだ。もう手放さない」
「……あ」
「え?」
「いや、今じゃないよって感じなんだけど、父さんのことを急に思い出して」
この公開大告白のきっかけでもある、父とのやり取りをふと思い出した。
「何かあったの?」
家族の悩みを知っている景は心配そうに見つめてくる。
「俺さ、この前父さんに景と付き合ってるのかなんて聞かれてさ」
「え!」
「いや、景がSクラスに戻ったあとの話ね。そしたら、跡継ぎとして天風に入れたのに、そんなことになったら困るって」
「え!」
「家だとか、アルファとかオメガとか、俺が気にしすぎてただけだったんだ。それでも、景が居場所を作るって言ってくれてすごく嬉しいのは変わらないけどね」
真加は気分が良くなって、景の背中に手を回す。そのまま胸に頬を預けると、多幸感に包まれた。
そして、景にゆっくりと腕をほどかれる。
顔を見上げるとやけに真剣そうに口を真一文字に結んでいた。
「つまり…君のお父様は、私たちの付き合いに反対ということか?」
「…いや、どうだろう。あの時はありえないとか言っちゃったから、実際そうなったら父さんは何て言うかわかんない」
「そ、そう……じゃあ、今度挨拶に行かせて」
「……また今度ね」
「うん。頑張るからね」
うちの家族が驚きで白目をむく姿が容易に想像できた。
「…でも、お父様の本当の気持ちがわかって本当によかったね」
「うん。ちょっと照れるけど…帰省とか、ちゃんとしないとなって思ったよ」
急に景を連れてきたらびっくりするかもしれない。大事な話だから、景と一緒にいるためにも、家族にちゃんと話さないといけない。
景の瞳に、よく見ると真加の影が映っている。この現実とは思えない距離が、当たり前になるように強く祈った。
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