どうやら悪役令嬢のようですが、興味が無いので錬金術師を目指します(旧:公爵令嬢ですが錬金術師を兼業します)

水神瑠架

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風の神殿へ(7)

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「客人を立ったまま待たせるなんて無作法よー」

 弾んだ女性の声は広い草原に何処まで響き渡る。 
 言っている事はまぁ常識的と言えるのだが、正直に言って間延びした口調と声に含まれた悦で台無しである。
 明らかにこの女性? は楽しんでいる。

「「聖獣様!!」」
「僕達、命令を守ったよ!」「私達、命令を守ったよ!」
「「なのに駄目だったの?」」

 あ、少なくとも外見通りの知能って設定なんですね。
 真実は闇の中である。
 あえて突っ込むつもりはない。
 そしてやっぱり聖獣様ですか。
 姿を現してもらってないですけどね。
 私達は無視して聖獣様と妖精達の会話が弾む。
 いや、完全に置いてけぼりである。

「言ったことを守ったのは偉いのよー? けれどー、客人に対しての対応がだめだめなのよー」
「「えー」」

 帰りたいのだが。
 とても帰りたいのだが。
 正直、こういった手合いは苦手なのである。
 何よりも眷属に無作法と言うならば姿を現すべきでは? と思うのは私だけかな?
 繰り返しになるけど言って良いよね?
 せめて姿を現してから話を進めよう?
 若干苛々している私なのだが、クロイツも似たような心境なのだろう。
 イライラが伝わってくる。

「<どいつもこいつも。なーリーノ。ここ、下ぶち抜いたらどうなんだろーな?>」
「<地上に真っ逆さまかなぁ。少なくともスカイダイビングはやだなぁ。しかもパラシュート無いし>」

 長時間空を飛ぶ魔法も無くはない。
 だが、ここから落ちる速度を殺しながら安全に着地出来るかと言われると悩む。
 やるならば一か八かになるだろう。
 そして、今は一か八かに掛ける場面ではない。
 今後も一生、そんな場面来てほしくないけど。

「<紐無しバンジージャンプか>」
「<その例だと此処に戻ってくる事になるよ?>」
「<いや、紐無しだから落ちるだけだろ>」
「<いやいや。それ自殺と変わらないから。嫌だよ、自殺は>」
「<わーってる>」

 本当に分かってる?
 いや、クロイツは分かってるか。
 どもかく、此処をどうにか安全に脱出する事は出来ないだろうか?
 と、もはやじゃれあいとかしているやり取りも聞かずに脱出方法を探っていると視線を感じ、辺りを見回す。
 すると、何故か皆が私を見ていた。
 ……別に今は何もしていませんが?

「何か?」

 首を傾げると何故か、本当に何故か妖精達が目を輝かせて私の周りを飛び回り始めたのだ。
 叩き落としたいという気持ちを心の奥底に閉じ込めると、私は微笑み小首を傾げる。
 本性がバレている人達の前のやるのは羞恥心との闘いになるのだが、仕方ない。
 聖獣様に、そしてその眷属に対して無礼を働くわけにはいかない。
 必要も無いのに悪者になる必要は確かに無いのだ。
 そう、残念ながら必要もないのだ、今は。
 妖精達は嬉しそうに高速で飛び回ったかと思うと私の目の前でピタっと止まった。
 
「「あなたは自由!!」」

 突拍子もない言葉だと誰もが思ったはずだ。
 驚く私達を他所に妖精達はキャラキャラと笑い声をあげて再び私の周りを飛び回る。
 どうやら喜びを表しているらしい。

「「あなたたちは自由!!」」
「だからあなたたちを風は愛する」
「だからあなたたちを風は祝福する」
「「あなたたちの魂に風の加護を!!」」

 突然謳うように紡がれた言葉の数々に誰もが口を挟む事が出来ない。
 それは対象である私とクロイツも同じで。
 一体何事と思っていると妖精達が何かに包まれるように浮かび上がり宙高くに飛んでいく。
 異常な状態だというのに妖精達は何処までも楽しそうである。

「珍しく気に入ったのねー。けど、いきなりは駄目よー。おどろいちゃうでしょうー?」

 ええ、はい。
 とっても驚いてますよ?
 説明を求めます。
 心の声のはずなのに聖獣様には聞こえたのか、返答が帰ってくる。

「このこたちはー、貴方達が風のように自由だといっているのー」
「自由、ですか? これでも中々柵が多いと思っているのですが」

 私の反論に聖獣様は笑った、気がした。

「そうねー。けれどー、あなたがールールに従っているのはーそれでー自分の行動が阻害されないからでしょー?」

 のんびりと間延びした言葉で、けれど誰も口を挟めない圧を持って聖獣様が言葉を紡ぐ。

「貴方はルールをまもっているわー。だってー、それでもー今は貴方を曲げることはないものねー? けれどー、楔の無い貴方はーどこまでもー自由でしょう? 自分を曲げないでー、自分の思うままにしかうごかない。それは自由と言ってもいいと思うわー」

 痛い所を突かれたと一瞬思ってしまった。
 聖獣様の言っている事は間違っていない。
 私の本質は傲慢なまでの強い自我だ。
 基本自分を曲げる事が無い……いや、出来ない。
 ルールだって、自分の本質を曲げる事はないから面倒事にならないために守っているだけ。
 もしもルールが私の本質を曲げるというなら、そんなルールは破壊してでも自身を貫く。
 そんな私の本質を聖獣様は「自由」と称しているのだ。
 随分柔らかい表現となったもんだと内心苦笑する。

「楔もー、貴方が“楔”と認めているから楔なだけー。――――ね? 貴方は自由でしょう?」

 そんな言葉と共に緑色の何かが私に降り注がれる。

「今はーあえないのー。だから代わりにー加護をあげるわー」

 額に何か温かいモノが触れた、気がした。

「貴方に風の祝福を」

 圧が消えると共に眷属たる妖精達がふんわりと漂いながらも降りてくる。

「今は何も知らない貴方に!」
「今は微睡の時に居る貴方に!」
「「運命の子とそれを護る皆に風の祝福を!!!」」

 緑の光の洪水に視界が塞がれる。
 まさに光の洪水と呼べるモノが今度は私だけではなく、此処にいる皆に降り注ぐ。
 あまりの輝きに、あまりの量に、全員が悲鳴を上げる。
 そんな私達を妖精達は笑い転げまわりながら見ていた。

 ……何時か殺す。

 なんて殺意が沸いた私は悪くないのではないだろうか?

 と、最後まで物騒なモノを抱かせつつ風の神殿への訪問は終わりを告げるのである。
 だって、この後挨拶もままならぬまま気づいたら大樹の下へ戻っていたのだから。
 これも一種の自由なのだろうか?
 だとしたら一緒にされるのはまことに遺憾の意である。
 疲れるだけ疲れて私達の風の神殿への訪問は成功? したのである。
 
 ……あれ? 結局風の神殿には行けてなくない? これって失敗って言わない?


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