297 / 299
風の神殿へ(5)
しおりを挟むうん、今回は目を瞑りませんでした。
こんな光景を見せられるくらいなら目を閉じるべきでしたけれどね!
……私達、今回は正規の方法で来たんですよね?
実は歓迎されていないんです?
と、脳内で暴れたくなるような光景が広がっているのだ。
なんたって……――。
「――……どう見ても一面野原だな」
「うん」
クロイツの呆然とした声が虚しく草原に響き渡る。
チラっと隣を見ると殿下達は勿論の事、何故かエルフの御二方も表情を崩していた。
あれ? 異常事態?
二人の表情に僅かに首を傾げる。
てっきり、この光景はフェイクでエルフの方が何かをする事で神殿が現れるとか、そういったギミックなのだと思ったのだけれど。
もしかして違う?
「神殿には正規の方法で来たのですよね?」
「え、ええ。そうね。アタシもそんなに何回も来てはいないけれど、やり方は間違っていないわ」
「けれど、違う場所に来た、と?」
頷くエルフに内心顔が引きつる。
明らかに異常事態発生だと確定したからである。
改めて見渡すと一面の草原が視界に広がる。
そよ風が優しく髪を撫ぜ、柔らかな陽の光がじんわりと体を温めてくれる。
こんな状況と目的でなければ是非ともピクニックといきたいぐらいにはほのぼしい所である。
未だ思考が巡っていないエルフさんを正気に戻すと彼は軽く頭を振ったが、辺りを見回し再び頭を抱えてしまった。
このヒト、案外想定外に弱いんだなぁと思ったのは一種の逃げです。
「本来なら、草原に神殿が建っているの」
「草原ではあるんですね」
「ええ。ただここの草原がここまで果ての無い場所だとは知らなかったわ」
「魔法か何かだとは思いますけど確かに果てがありませんね(地平線が見えるもんなぁ)」
魔法じゃなければ何処なんだって話になる。
流石にここまで一面野原の場所なんてこの世界には無いだろう……多分。
と、この場所の考察はともかく、正規の方法なのに神殿に行けなかった事を考えるべきだろう。
一番ありえるのは?
「神殿に拒否されて、別の場所に来てしまった可能性はありますか?」
「そんな!」
まるで自分が全否定されたかのように絶望の表情を浮かべるエルフさんに「(いや、別に貴方がとは言ってないのですが)」と心の中で突っ込む。
むしろ拒絶されるとすれば私達の方だろう。
人の魔力を奉納させといて拒絶するとは何事? と思わなくもないが、神殿を護っている何かに殺されそうになるよりはましだろう。
うん、ましなはずだ。
心の中で相手を罵る言葉が無限に沸いてくるぐらいである。
冷静に、冷静に、と自身に言い聞かせると改めて問いかける。
「風の神殿に行った事のあるエルフの御二方を除く誰かが拒絶されたのではないかと?」
「それか、時が悪かった可能性もありますね」
「ああ、そうですわね。その可能性もありました」
その方が心には優しいよね。
前回殺されそうになったのが響いているのか、物騒な方に思考が寄っていたらしい。
いや、ここでの鬱憤が溜まり切っていて思考が物騒なのかもしれないけど。
「(うーん。エルフという種族を嫌っている私とクロイツという存在が風の聖獣の気に障ったのかとおもったけれど)」
なんとなくエルフは風の聖獣の保護下なのかなぁと思っていたのだ。
土の聖獣は獣人で水の聖獣は人……帝国人? の保護をしていると言うのが私の予想だ。
そうなるとドワーフの所に火の神殿がありそうだし、ドワーフは火の聖獣の庇護下って事になるけど。
「(あーいやいや。それはない。そうなると王国人は光闇の聖獣の庇護下になってしまう。それは流石にありえない)」
帝国と王国の差なんて聖獣、ひいては神々には関係ない。
その土地に住まうものを庇護するってなら有り得るかもしれないけど、なら獣人の集落が滅んだ理由が分からなくなる。
と、なるとエルフが庇護下にあると言うのも考え違いか。
そうなると振り出しに戻ってしまうのだが。
「(なら、なんで拒否されたんんだろう?)」
内心首を傾げる。
どうやら此処で考えていても答えは出なさそうだ。
「取りあえず探索でもしてみます?」
「この場所を動かない方がいいんじゃないかい?」
好奇心エルフに問われて「うーん」とうなってしまう。
それも一つの道だとは思うのだが。
「此処に居ても状況は改善しないかと? なら、危険だとしても原因を探る方が建設的かと思います」
「幾ら風の聖獣様でも僕等を害したりはしないさ! もう少し待っていれば道を開いてくれるのではないかな?」
「楽観的過ぎませんかね? どうして神殿が現れないのか全く分かっていませんし。非常事態に一か所に留まるのはあまりおすすめできませんが?」
最悪風の神殿を護っている何かに攻撃される可能性がある。
その場合遮蔽物の無いここは迎撃には心許ない。
出来ればもう少しこの場所がどんな場所かを把握しておきたい。
物騒と言うなかれ。
今、此処には殿下方もいるのだ。
万が一は考えておかないといけないだろう。
と、遠まわしに伝えたのだが、変人エルフには伝わってくれなかったらしい。
「こんな長閑な場所なんだ。何も起こらないさ!」
「……ではワタクシ達だけ周囲の探索をしてきましょう」
私とクロイツ、後ルビーンとザフィーアが居れば、咄嗟の攻撃にも対応できる。
元々殿下達を危険に晒すは気は無かったし、別行動するのは問題無い。
と、いうよりもそろそろこのエルフと問答しているのがめんどくさくなってきた。
だってさ。
このエルフ、分かってて話を伸ばしてるし。
森の外での実戦経験によるものか、彼は今が異常事態だと認識している。
色々な事を把握すべきとも考えているはずだ。
なのに反対意見を言っているのは、ただ言葉を交わす事を楽しんでいるだけ。
唯々諾々と自分に従わない存在との対話を心から楽しんでいるのだ、この男。
証拠に眼が輝いている。
言葉を返すたびに輝きは増していく。
もはやキラキラを通り越してギラギラしている。
心底めんどくさいになりそうなのだ、こうしていると。
非常事態に遊びに興じるのは趣味が悪すぎると思うのだが、それを指摘してもこの変人エルフは喜ぶだけだろう。
結局、話を切り上げて動くのが利口というやつだ。
「では殿下達はエルフのお二人と此処でお待ちください。ワタクシ達は周囲の探索に行ってきます」
「「その必要はないよっ!」」
さっさと動こうとする私達を止めたのは好奇心のままに動くエルフでも人見知りを発動しているエルフさんでも、そして殿下達でもない子供の声だった。
4
お気に入りに追加
1,250
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
公爵令嬢は薬師を目指す~悪役令嬢ってなんですの?~【短編版】
ゆうの
ファンタジー
公爵令嬢、ミネルヴァ・メディシスは時折夢に見る。「治癒の神力を授かることができなかった落ちこぼれのミネルヴァ・メディシス」が、婚約者である第一王子殿下と恋に落ちた男爵令嬢に毒を盛り、断罪される夢を。
――しかし、夢から覚めたミネルヴァは、そのたびに、思うのだ。「医者の家系《メディシス》に生まれた自分がよりによって誰かに毒を盛るなんて真似をするはずがないのに」と。
これは、「治癒の神力」を授かれなかったミネルヴァが、それでもメディシスの人間たろうと努力した、その先の話。
※ 様子見で(一応)短編として投稿します。反響次第では長編化しようかと(「その後」を含めて書きたいエピソードは山ほどある)。
誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。
木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。
彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。
こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。
だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。
そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。
そんな私に、解放される日がやって来た。
それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。
全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。
私は、自由を得たのである。
その自由を謳歌しながら、私は思っていた。
悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。
目が覚めたら夫と子供がいました
青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。
1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。
「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」
「…あなた誰?」
16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。
シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。
そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。
なろう様でも同時掲載しています。
悪役令嬢によればこの世界は乙女ゲームの世界らしい
斯波
ファンタジー
ブラック企業を辞退した私が卒業後に手に入れたのは無職の称号だった。不服そうな親の目から逃れるべく、喫茶店でパート情報を探そうとしたが暴走トラックに轢かれて人生を終えた――かと思ったら村人達に恐れられ、軟禁されている10歳の少女に転生していた。どうやら少女の強大すぎる魔法は村人達の恐怖の対象となったらしい。村人の気持ちも分からなくはないが、二度目の人生を小屋での軟禁生活で終わらせるつもりは毛頭ないので、逃げることにした。だが私には強すぎるステータスと『ポイント交換システム』がある!拠点をテントに決め、日々魔物を狩りながら自由気ままな冒険者を続けてたのだが……。
※1.恋愛要素を含みますが、出てくるのが遅いのでご注意ください。
※2.『悪役令嬢に転生したので断罪エンドまでぐーたら過ごしたい 王子がスパルタとか聞いてないんですけど!?』と同じ世界観・時間軸のお話ですが、こちらだけでもお楽しみいただけます。
悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!
ペトラ
恋愛
ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。
戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。
前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。
悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。
他サイトに連載中の話の改訂版になります。
転生したら大好きな乙女ゲームの世界だったけど私は妹ポジでしたので、元気に小姑ムーブを繰り広げます!
つなかん
ファンタジー
なんちゃってヴィクトリア王朝を舞台にした乙女ゲーム、『ネバーランドの花束』の世界に転生!? しかし、そのポジションはヒロインではなく少ししか出番のない元婚約者の妹! これはNTRどころの騒ぎではないんだが!
第一章で殺されるはずの推しを救済してしまったことで、原作の乙女ゲーム展開はまったくなくなってしまい――。
***
黒髪で、魔法を使うことができる唯一の家系、ブラッドリー家。その能力を公共事業に生かし、莫大な富と権力を持っていた。一方、遺伝によってのみ継承する魔力を独占するため、下の兄弟たちは成長速度に制限を加えられる負の側面もあった。陰謀渦巻くパラレル展開へ。
悪役令嬢はモブ化した
F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。
しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す!
領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。
「……なんなのこれは。意味がわからないわ」
乙女ゲームのシナリオはこわい。
*注*誰にも前世の記憶はありません。
ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。
性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。
作者の趣味100%でダンジョンが出ました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる