どうやら悪役令嬢のようですが、興味が無いので錬金術師を目指します(旧:公爵令嬢ですが錬金術師を兼業します)

水神瑠架

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風の神殿へ

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「(うーん。『スチル』と同じ構図なら何か思い出せるかと思ったんだけどなぁ)」

 そもそも『記憶』の方が曖昧過ぎて無理だったかもなぁ。

 私は心の中でひとりごちる。

 森の中を監視する鏡の魔導具があると聞いて発動して貰ったのはエルフさんの魔力を消費してもらうためだ。
 けど、それを見ていてふと思った。

 あれ? これ『ゲームのスチル』と似たような構図じゃない? と。

 勿論、ああいった類の物は様々な角度から描かれるから全てが一緒というわけじゃない。
 けれど区切られ、映し出された姿は私に『スチル』を彷彿とさせたのだ。
 
「(それに気づいてからはじっくり見てはいたんだけどねぇ)」

 記憶を刺激するものは無かった。
 考えてみれば考えてみる程無謀だったのだと気付いたのは全てを見終わった後だった。
 土台無理な話なのである。
 『わたし』は神殿に行くイベントを一切やっていなかったのだから。 
 『わたし』の目的はゲームの中にあったミニゲームである錬金術であり、本筋のストーリーは最低限しかやらなかった。
 だから何時もノーマルエンドだったし、やっていないイベントは山ほどある。
 神殿に行くと言うイベントもその一つだ。
 なら、『攻略サイト』やらなんやらに頼らなかったのか? と問われると「ななめ読みしかしてない」と答えるしかない。
 必要な情報を得るために見たとしても、じっくり読んだりはしていない。
 結局、大まかなストーリーと行ける場所、それに大きなイベントぐらい知っていればゲームは出来たのだから。
 しかも、キースダーリエになり、幾年。
 当然、記憶も段々薄れていく。
 
「(一応『日本語』で時系列の表くらいは残してあるけど、当時から細かい事はさっぱりだったからなぁ)」

 分かる人が見れば笑ってしまう程には『わたし』がどんだけそういったゲームに向かないかを表しているかのような覚書である。
 後の情報源は例の悪友の一人である、というのも問題と言えば問題なのである。
 「攻略キャラが話す甘い言葉を聞いて爆笑するために乙女ゲームをやるという」と、これまた異端な楽しみ方をしていたあいつ。
 お陰で攻略キャラが言った甘い言葉とやらは記憶に僅かに残っているが、他がさっぱりなのである。

「(うん。どれだけ思い返してみても『スチル』を思い出すなんて私にはハードルが高かったわ)」

 結局、じっくり見たがためにクロイツ曰くの信号機トリオの驚いた顔と何とも言えない顔を脳裏に焼き付けるはめに。
 要らない情報である。
 美形揃いだから見苦しくなかったのが不幸中の幸いか?

「(いやいや。私には人の苦しむ顔を見て喜ぶ癖はないんだわ)」

 一番の目的は達成されたという事でお茶を濁すしかない。
 無駄な時間を過ごしたと頭に過る度に疲れたと感じてしまう私は内心嘆息するしかなかったのである。





 殿下達の護衛騎士は殿下達、そして叔母と合流してこちらに来る事になった。
 本当は私が行って叔母と合流した上で共に迎えに行くのが筋なのだろうが、エルフさんが難色を示したのだ。
 どうやら彼にとって私(あとクロイツ)は魅了の効かない相手として安定剤となってしまったらしい。
 後、まだ彼の中では私達がいつ変貌するのか、という危機感があるのではないかと思う。
 離れて、次会った時、私達が魅了にかかったら? なんて心配でもしているのではないだろうか。
 スキルとして習得した以上、今後スキルが消失しない限り問題はないのだが心とはままならないものであるため仕方ないと思うしかない。

「(あれ? スキルって消失するのだろうか?)」

 怖い考えだが、意外とありそうだな、とも思う。
 習得条件の中にあるものが時間経過によって達せなくなった時とかあっさり消えそうだ。
 とは言え、今回に関しては考えすぎである。
 推定だが習得条件は今後消える事もボーダーラインを下回る事も無い。
 このスキルが消える事は今後無いだろう。
 ただ言っても聞きそうにないので言わないつもりだけど。
 まぁ、それだけ心の傷は根深いという事かもしれないが。

「(勝手に安定剤にされてもなぁ)」

 私は此処に定住するつもりは一切ない。
 むしろ一刻でも早く退散したいし。
 と、言葉が乱れたが、とどのつまり別れは直ぐにやってくるという事だ。
 その時、どんなに引き留められても私の気が変わることは絶対にない。
 そんな私を安定剤にするのは意味がない。
 
「(さてはて一体どうなる事やら)」

 殿下達との対面が一つの分岐点になるかもね。
 私はこれから来るであろう一騒動に目を細めた。



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