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ただの森?禁足地?それとも……?

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 鬱蒼と茂る木々。
 聞こえるは鳥の囀りに木々の騒めき。
 右を見ても左を見ても木ばかり。
 一面、見渡す限りの緑色は目には優しいけど量が量だけに視覚的暴力だ。
 まぁとどのつまり……

「森、ですわね?」
「森だな?」
「森ですね?」

 かなり大きな森が目の前に存在しているという事である。




 あれからあっと言う間に準備が整い王都を後にした私達は数日馬車に揺られ、とある街についた。
 そこで叔母様は更に何かの準備を済ませ、次の日には街を出立した。
 観光目的じゃないからいいけど、脅威の短期滞在だった。
 多分一日もいなかったし。
 道中何を買ったのか聞いたけど「秘密」と言われてしまい教えてはくれなかった。
 買った物から行先を推測しようとしたのだけどお見通しだったみたい。
 そうして幾日か。
 今、目の前には広大な森が広がっている。
 そう、何故か森が目の前に広がっているのである。

「目的地は森の中ですわ。……護衛の方々は此処までですの。休暇と思って村でお休みくださいませ」

 森の中?!
 と、驚く私達を他所に護衛が……というよりもテルミーミアス様が異議を叫んだのだ。

「私達は護衛です。殿下達も勿論ですがご婦人を護衛も無しに森の中に行かせるわけにはまいりません!」

 うん、まぁ、間違ってないと言えば間違ってないよね。
 殿下達には護衛は必須だし、私も一応公爵令嬢だし、叔母様だって籍は抜いてないから貴族だ。
 そりゃ護衛無しは無理だよねぇ。
 リアも表向きはただのメイドさんだしなぁ。
 ただルビーンとザフィーアの事は無視されてるけど。
 まぁ二人は私以外を積極的に守るのか? と問われれば頷けないから数に換算しないのも仕方ないけど。
 テルミーミアス様の言葉は最もなのに何故か叔母様はそれはそれは優美な微笑みを浮かべた。
 
「あら。私はこれでも高位の魔術師ですわ。それにこの森には危険はありませんもの。問題などありませんわよ?」

 相手に対して本当に困った子とでもいうような目でテルミーミアス様を見る叔母様。
 言っている事はテルミーミアス様の方が正しいのに、あんな目で見られると揺らぎそうだ。
 案の定あのテルミーミアス様が怯んだし。
 そこで叔母様は困った顔で首を傾げた。
 
「そもそも貴方達はこの森の入る許可を得ていないから入れませんの」
「そ、れは……では、何方に許可を得ればいいのですか!?」

 今にも許可を取りに走り出しそうなテルミーミアス様に叔母様は無情にも一言。

「陛下ですから、諦めなさいな」

 まさかの人物に流石のテルミーミアス様も固まってしまった。
 というよりも私達も驚きを隠せなかった。

「<え? この森って入るのに陛下の許可がいるの? でも、叔母様は最初、王都に行くつもりなかったはずじゃ?>」
「<だよな? ってか許可制の森って何事だよ。ここに何があるってんだ?>」
「<本当にねぇ。国が管理している遺跡でもあるとか?>」

 だとしても森ごと許可制ってのは珍しいと思うけど。
 何方かと言えば禁足地扱いかな?
 いくらテルミーミアス様でも流石に陛下に許可を取りに走るわけにはいかない。
 けれど真面目な彼の事だから、護衛無用と言われてもすんなり納得は出来ないだろう。
 実際かなり葛藤してるし、何とかついていけないか悩んでいる様子だ。

「で、ですが」
「大丈夫ですわ。万が一何かありましても殿下達も私が護りますわ。もうよろしいかしら?」
「いや、ですが……そうだ。なら何故彼女は許されているのですか?!」

 テルミーミアス様はリアを見て、そんな事を言った。
 いやまぁリアを馬鹿にしている訳では無いとはいえ、微妙な言い方に少々腹が立ったけど、それ以上に「確かになぁ」と言う気持ちもあったから口を挟まなかった。
 私はリアが高い戦闘技能を持っている事を知っている。
 けれど、その事は私や家族以外には知られていないのだ。
 それには最近まで屋敷に居なかった叔母様も含まれている。
 だから、戦闘要員としてリアの同行を許可したわけじゃない。
 多分戦闘要員はルビーンとザフィーアだと思う。
 と、なるとだ。
 私的には心強いけど、確かにリアはどうして同行を許可されたのだろうか? と当然の疑問も出てくる。
 私も疑問を浮かべながらも叔母様を見たが、叔母様はどうやら私には気づいていない。
 ただテルミーミアス様を困った様子で見ていた。

「頑固な子ねぇ。……正確に言うとね? この森は陛下、又は私のような資格を持つ者の許可が必要な場所なんですの。この子は私が許可を出したから入れますのよ?」
「ならば私共も許可を頂きたい!」
「ごめんなさいね。この子はラーズシュタイン家の者として許可出来るけど、貴方方の主は陛下でしょう? だから貴方方に許可を出す権利は私にはありませんの。だから諦めて下さいな?」

 うーん。
 筋が通るような通らないような?
 リアの主がラーズシュタイン家でテルミーミアス様達の主が王家、ひいては陛下である事は事実だ。
 けれど、それならば私達ラーズシュタイン家の主だって国、ひいては陛下という事になる。
 なのに、殿下達のために付けられた護衛を叔母様の一存で引き離しても良いのだろうか?
 勿論、陛下も了承済なんだろうけど、その証拠はないわけだし。
 何となく違和感が残るやり取りだ。
 ヴァイディーウス様もそうお考えなのか微妙な表情で叔母様を見ている。
 けれど、テルミーミアス様は気づいていないよう。
 ぐぬぬ、と声がでそうな程のしかめっ面で俯いてしまった。
 そんなテルミーミアス様の肩をポンと叩いたのはインセッテレーノ様だった。

「確かに我等は騎士。王家に忠誠を誓う者です。ですが、だからこそ森に危険が無いと言われようとも、自分の目で確認していない場所に送り出せはしないのです。我等の職務を理解していただければと願います」

 インセッテレーノ様の言葉に叔母様は深く溜息をつき、懐から何かを取り出し渡した。
 それに目を通してインセッテレーノ様もまた深いため息をついた。

「テルミーミアス。陛下もご承知のようだ。これ以上は無理だ。諦めた方が良い。……明日迎えに参上すればよろしいですか?」
「そうねぇ。一応そうして頂けます? もし滞在が伸びる場合は知らせを持たせますわ」
「承知いたしました」
「では良い休暇を」

 あーそれ嫌味にしか聞こえないです。
 あ、本格的に項垂れたテルミーミアス様をノギアギーツ様が慰めてる。
 というよりも書状があるなら最初から出せばよいのに。
 ……あの、叔母様?
 お話が終わったと言わんばかりに私達を促すのはやめた方がいいのでは?
 いよいよテルミーミアス様が泣きそうですよ。
 もうテルミーミアス様との出来事を忘れたかのように振る舞う叔母様に私は何とも言えない気分になる。
 
 うん。一応、頭だけ下げておこうかなぁ?

 さっさと森の中に行ってしまう叔母様に私は護衛の三人に一礼すると非常に微妙な顔をしている三人に背を向けて歩き出す。
 お気を落とさずに、テルミーミアス様。
 ただ叔母様は目的に一直線な方なのです……多分。
 心の中で謝罪をしつつ歩いていると、ルビーンとザフィーア、そしてリアは三人を全く気にする事無くついてくる。
 その後を少し遅れて殿下達がついてきた。
 多分護衛に声をかけてから来たのだろう。
 本来ならばおばさまがしなければいけない事なのでは? と思いつつも殿下達にお声がけ頂いた方がいっかと思い直す。
 と、同時に先程の護衛の方々を思い浮かべてると溜息が零れるのを止められなかった。

「ワタクシとしてはリアが同行して下さるのは心強いのですが、護衛の方々は駄目でリアは許された理由は何なのでしょうか?」
 
 私が声をかけると叔母様は足を止めた。
 そして先程まで急いでいたのが嘘のようにゆったりとした動作で振り返ったのだ。

「あの方たちに言ったことは嘘ではありませんわ。ですけれど全てを話したわけでもありませんの」
「やっぱり。ちょっと筋が通っているようで少しずれていると感じたのは間違いではなかったのですね?」
「ええ。まず、この森……正確に言うとこの森の中にある“とある場所”に入るためには自国において事情を知る上層部の誰かの許可、又は私のような存在の許可が必要になります」

 地図を見れば分かりますが、実はこの森と周辺の村は中立地域であり何処の国にも所属していませんのよ? と、とんでもない事を言いだされてしまえば私達は唖然とするしかない。
 え? この大陸にそんな場所が存在するんだ?
 これが森だけとかなら分かる。
 けど、まさか周辺の村も含めての中立地帯が存在するなんて!

「ただ国家の形としてある訳ではないので、権限は然程持っておりませんし、我が王国と帝国がそれぞれ統治者代理を派遣し、統治していますわ。ただ、緊急事態においては国の要求を跳ねのけることも出来ますの。この一帯についての詳しい話は後程致しますわね。つまり、それほどこの森は重要ということだけ覚えておいて下さいな。重要かつ特殊な事情がこの森にはあるため護衛の方達には遠慮いただきました」
「彼等は機密をまもれないほどおろかではありませんが?」

 ヴァイディーウス様の言葉に叔母様は苦笑なさった。

「それは私にも分かっておりますわ。ですけれど、それだけではだめなのです」

 叔母様は私とリアを見据えると口を開いた。

「この森に入るために必要な覚悟。……それはたった一人の主のために死ぬことが出来るという覚悟なのです」

 絶句する私達を風が撫ぜる。
 今、叔母様は何と言った?
 この森に入るためにはたった一人のために死ねる覚悟が必要?
 そんな覚悟、私は勿論殿下達だってしてないのに?
 驚き絶句する私達に叔母様は苦笑した。

「ああ。この言い方も少し違いますわね。殿下方やキースダーリエのような立場の子にそのような覚悟は必要ありませんわ。この秘密を特定の者以外には決して漏らさない覚悟は必要ですけれどね?」

 叔母様はそこで穏やか笑みを消しリアを見据えた。

「死ぬ覚悟が必要なのは貴女のように誰かに仕えている、本来ならばここに立ち入ることを許されないような方達ですわ」
「叔母様!」

 何故、それを先に教えて下さらなかったの?!
 そんなに危険ならば私は絶対にリアを連れてこなかったのに!
 声は掠れ、悲鳴のようだった。
 けれど叔母様はそんな私の悲鳴も意に介さず尚もリアを見据えている。
 私達は完全に世界から締め出されていた。

「貴女はラーズシュタイン家に仕える者ですわね?」
「はい」
「そうね。そこに疑いはないわ。けれど貴女はそれ以上に“キースダーリエ”に忠誠を誓っているのではなくて?」
「勿論に御座います。お嬢様こそ私にとって唯一の方です」
「ならば、貴女はこの子に「死ね」と言われた時に死ぬことができますの?」

 誰かの息をのむ音が聞こえる。
 あるいは私が出した音だったのかもしれない。
 今、この場の支配権は完全に叔母様が握っていて、私達は何も言う事を許されない。
 口出す事を許されない。
 その事実に唇を噛みしめる。
 錆びた匂いと共に鉄の味が口内に広がるが、それを気にする余裕が今の私には無い。
 リアは少し目を見張ったが、真っすぐ叔母様の視線を受けとめた。

「お嬢様はそのようなことを命ずる方では御座いません」
「分かってるわ。だから仮定の話になりますわね」
「ありえません。ですが、仮定ならば…………お嬢様がそんな命を下すのならば、それは余程のことが起こった時のみ。ならばこの命、喜んで捧げましょう」
「そう。ならばその命令が「自分を殺して」だというものだとしたら?」
「っ!? その命には従うことは出来ません。たとえ何が天秤にかけられようともお嬢様の命をとります」
「その命令がラーズシュタイン家から出されていたとしてもかしら?」
「はい。私はラーズシュタイン家に雇われている身に御座います。ですが、この心はキースダーリエお嬢様ただ一人に捧げております。相反する命が下された時、私は躊躇いなくお嬢様の命を叶えることでしょう。……こたびは「秘密」を護ること。ならば私はどんなことがあっても沈黙しましょう。たとえ、この身が害されようとも沈黙を選んでみせます」
「そう、それが貴女の覚悟なのね? ならば、この先にある全ては「秘密」として沈黙しなければならないの。たとえラーズシュタイン家の誰に聞かれても命じられても答えてはいけない。この子以外には、ね。だからそうね。この場合は私がこの子を説得し、この子が私の意を汲み、自分の意志で貴女に沈黙を命ずるのならば、一体どうするかしら? と問うべきかしらね。どうかしら? この場合貴女はどんな答えを出すのかしら?」
「誰だろうと絶対に漏らすことは御座いません。口約束では不安だとお嬢様が思うならば、二度と喋ることの出来ないよう喉を潰します。それでも足りぬならば命を捨て、沈黙とします」

 淡々と述べるその姿からは嘘は見られない。
 全て真実だと突き付ける。
 命を賭けると言っているのに!
 リアの覚悟に私は手を握りしめる事しか出来ない。
 此処で口を挟むという事はリアの覚悟を汚すという事だ。
 そんな事出来るはずがなかった。

「私はお嬢様に命を魂を救われました。その命をお嬢様のために使うことなど当たり前のことに御座います。私などの命で不安が晴れるならば、望外の喜びでありこれ以上ない幸福に御座います」

 重たい、重すぎる程の忠誠の姿がそこには在った。
 私はリアにそんな風に思ってもらえる主なんだろうか?
 ふと、そんな事が過った。
 頭を軽く振ると今度こそ世界に割り込む。
 その隙をようやく許されたのだ。

「ワタクシは……――」

 色々な感情が渦巻くが、まずリアに言いたい事はこれだと口を開く。

「――……リアの忠義を嬉しく思います。ですが、リアには死を持って忠義を貫くのではなく、生きて仕えて続ける事こそ忠義の証として欲しいと思っておりますわ。リア、簡単に死ぬ事をワタクシは絶対に許しません。最期の時まで足掻きなさい。それこそがワタクシが貴女を見つけた理由なのだから」

 リアを見据え命ずる。
 死ぬ事ではなく生きる事が忠義だと伝わる様に。
 暫く私を見ていたが、徐に跪き、頭を下げるリア。

「承知いたしました、キースダーリエお嬢様」

 頭を上げ立ち上がるリアに満足した私は今度は叔母様と向き合う。

「叔母様。そういった事は事前に言って頂けませんと困りますわ。リアは確かに忠義者であり得難き者です。ですから、そのような者が知らずの内に危険に晒されるなど、あってはならない事なのですから」

 行先を言わないのは別に良い。
 叔母様が本当の意味で私を傷つけるつもりがない、というぐらいの信用はあるのだから。
 けど、その範囲に本当の意味でリアのような立場の存在が入らないのが問題なのだ。
 叔母様は貴族の中では平民の環境や心の内を知っているし、使用人を”人”と認識しているのは知っている。
 けれど、叔母様は何処までも貴族として生きてきた人だと言うのも忘れてはならない事実なのだ。
 幾ら平民の心の内を聞いた事があったとしても、使用人を家族のように思っていても。
 高位貴族の令嬢としての価値観は揺らがない。
 他者の価値観を知っていても心から理解する事は出来ないし、基本的に貴族として培った価値観で動く。
 今回の件で言えばリアは私の付属品のような扱いを無意識の内にしたのだろう。
 忠義者であり、私のために命をかける事が出来るという大前提があるため命を弄ぼうと思っていた訳ではない。
 ただ、万が一があっても仕方ないと心の隅では思っていたはずだ。
 だから今回は何も言わずとも連れて来ても問題ないと判断した。
 たとえ間違いがあって失われても今後には何の問題はないのだから。
 リアの意志など関係無いとばかりに。

 下手をすれば私のリアへの感情すら叔母様にとってはどうでも良いモノなのかもしれない。私にとってリアは家族同然だと言うのに。

 認識の差を埋めてくれとは思わない。
 言っても理解してはくれないだろうから。
 叔母様が非道な人間であると思っているわけでもないし、貴族としては平民に優しい方だろうとも思う。
 ただ培われた価値観が強固過ぎて、無意識下で人の命にランク付けをしてしまっているだけで。
 価値観のすり合わせをしたり、私の価値観を理解してくれと言うつもりもない。
 この世界、貴族階級の中では私の価値観こそが異質なのだから。
 だから私がする事と言えば釘を刺すことだけだ。
 半ば睨むように言ったからだろう。
 叔母様が少しだけ落ち込んだ様子で頭を下げた。
 
「ごめんなさい、ダーリエちゃん。勿論、ラーズシュタイン家はそんな非道な命は下しませんし、貴方からその子を奪うようなことはしませんわ」
「そうであると願います」

 自分の家族に関して言えばそんな命令を下すなんて欠片も心配してないけど、叔母様に関してはちょっとねぇ?
 思う所が無いわけでもないが、丁重にすり合わせるなんて面倒な事をする義理はないし、そこまで親密になる気も沸かない。
 だからまぁ、酷い言い方だが放置だ。
 これで平民達と普通にやっていけるのかな? とチラっと思ったけど、今まで問題も起こって無いのだし大丈夫なのだろう。
 もしかしたら生家に戻ったために一時期的に貴族としての感覚に引っ張られているだけかもしれないし?
 家族に迷惑がかからないのなら私としてもこれ以上言う事は無い。
 まぁ取り敢えず大丈夫かな?
 一応決着したのを感じて、私は蚊帳の外になってしまった殿下達に声をかける。

「当家の問題に巻き込んでしまい大変申し訳御座いません」
「いや。私たちも疑問が解消されたことだし、気にしていないよ」
「有難う御座います」

 いや、本当にこんな所で何やってんでしょうかね、私達。
 にこやかに返してくれたヴァイディーウス様とは違いロアベーツィア様は自分に落とし込む事がまだ出来ないらしく首をひねり悩んでいた。

「つまり、王家に仕えているあいつらは圧力で話さなければいけない可能性があるってことか? だからここには連れてこれない?」
「多分、そうなのでしょう。騎士ならば王家の言に逆らう事など難しいですし、上司にあたる方もいらっしゃいますからね」
「父上、いや陛下は知っているだろうけど他は分からないしね」
「宰相は知ってるかもしれないが騎士団長はどうなんだろう?」
「知らない可能性はあるかもしれないね」
「だろうな」

 うん、上層部って何処までの事を言うか私も判断出来ない。
 後、そこまで高い機密性を帯びた場所っていうのが既に怖い。
 何度でも言うけど、私達って一体何処に連れて行かれるの?

「騎士たちがだめなのは分かったが、そいつらはいいのか?」

 ロアベーツィア様はルビーン達を見て首を傾げた。
 いやまぁ確かに二人共自由だしなぁ。
 私達は叔母様を伺うとそれはそれは素晴らしい笑顔を返された。

「この二人はダーリエちゃんが【死ね】と命じれば何の躊躇いもなく死ぬでしょう? それに【喋るな】と命じられれば絶対に【話せない】ものね?」
「えーと、まぁ。はい。確かにそう【命ずる】事は可能ですが」

 叔母様、二人に対する情は一切ありませんね?
 リアに対しては“ヒト”対応なのに、ルビーン達にはそれが全くない気がするのですが?
 あれ? 叔母様ってルビーン達に何かされんですかね?
 リアに対しての扱いに色々思う所があったのが吹っ飛びそうなのですが。
 しかもルビーン達はそんな叔母様に対して思う所は全くなさそうだし。
 貴方方、酷い事言われているけどいいの?

「問題ないナ。何なラ、今すぐ【命令】するカ? 主?」
「する必要はないでしょう。貴方達は私の不利になる事はしないのですから」

 その程度は信用してるからね。
 むしろその見極めが絶妙過ぎるのが問題なんだから。
 溜息をつきつつ、そんな事を言うとルビーンとザフィーアは笑みを深め私の前にて跪いた。

「「我等が身体、命、そして魂は我が主の物でス。この証に誓いを再ビ」」

 二人に刻まれた刺青が淡く光り、私も温かい何かに包まれる。
 魂の繋がり。
 それを強く感じた。
 そんな私達を見て叔母様は溜息をついていた。

「本当に獣人とは厄介な種族ね」

 叔母様の何処か呆れたような声が森に響いた。

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