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緊張感がある?ない?さぁどっち?(2)
しおりを挟む一瞬叔母様に言われた事が理解出来なかった。
段々叔母様の言葉の意味がしみ込んできて、今度は驚愕してしまう。
このブレスレット外す?
聖獣様が作ったであろうコレを?
え? 叔母様って何者?
私の中で一瞬で叔母様が正体不明の人に格上げされる。……ん? 格下げ?
けど一瞬で不埒な思考を押しのけると、今、何を考えるべきか思考を巡らせる。
聖獣様達は私を“運命の子”と言っていた。
水の聖獣様は私の手助けのためにコレを生み出した……と思う。
又は、誰かが作成したコレを私に授けた。
光の聖獣様はコレを更に強化した。
そしてコレは絶大な力を齎す。
――多分、災厄とも言える“何か”と対峙する事と引き換えに。
面倒だから外したいという気持ちは勿論ある。
けど、コレ自体が災厄と関係性があるのを否定できない。
ならば、コレを外せたとして、その後どうすればよいのだろうか?
「外した腕輪はどうなるのですか?」
「どうしたいのですか?」
質問に質問を返すのは本来なら礼儀違反だ。
この場合、私の選択に委ねるため、と好意的に解釈する事は出来るけれど。
私はブレスレットに視線を落とす。
絶大な力――聖獣様方の力の欠片――を宿す魔道具……大袈裟に言えば【神具】とも言える代物。
時が動くのだと言う事の証明。
運命すら動かす力を秘めていると思われる恐ろしいモノ。
私は一度目を瞑ると深く息を吸って吐いた。
部屋に入った時の気の抜ける感覚が少しだけ恋しくなっている自分が少しだけ面白かった。
本当に叔母様がコレを外せるかどうかは分からない。だってコレはきっと聖獣様と言う次元の違う存在によって創られたわけだし。それでもこんな問いかけをしてくるって事は多分、このブレスレットは“本物”って事であり、厄介なモノって事。でも、だからと言って全ての選択肢が私にあると言うのも微妙な気分になるもんだ。
何故自分が? なんて恨めしい思いを心の中に沈めて私は目を開ける。
「この腕輪が欲しいか? と問いかけられたら「要らない」と答える事も出来ますのに。……ワタクシが腕輪を外した場合、ワタクシが信用出来ない方にお渡しする事は出来ませんわ」
「それは貴女が力に魅入られているからではなくて?」
「いいえ。この腕輪が絶大な力を有するであろう事は承知しております。ですが、ワタクシ自身、規格外の力など欲しておりませんわ。ですから力に魅入られているとは自分では思っておりません」
無自覚に【魅了】されていないとは言い切れない。
けど、私はブレスレットを結構雑に扱っている自信がある。
うん、クロイツにも「オマエ、もう少し大事にすれよ。簡単に壊れないからって、その扱いはどーよ?」とか突っ込まれるくらいだし。
とってもじゃないけど【魅了】されている人間のとる態度じゃないと思う。
そもそも私が欲しいのは懐に入っている人達を護れる力だ。
後、余裕があれば境界線に立っている方々を手助けする事が出来る力。
こんな、使用者を飲み込む程の力なんて危ないモノ、何の枷もなければ今すぐにでも外してしまいたいぐらいなのだ。
それをやんわりと叔母様に伝えると、納得してくれたのか叔母様は小さく頷いた。
「そう。なら貴女が信頼している……そうね、貴女のお父様になら渡せるのかしら?」
「とんでもありませんわ!」
お父様に渡すなんてとんでもない!
「なら兄であるアールホルンならどう?」
「絶対に嫌ですわ」
なんて事を!
即答で拒否した私に叔母様が笑んだ。
とても威圧的であり、とても冷たく。
「力に溺れていないのよね? 信頼していない方には渡せない。けれど信頼している人にも渡せない、と言いますの? ならどうすればよいと?」
「確かに規格外の力なんて欲しいとは思っていませんわ。そう。信頼出来ない方に渡してはどうなるか分かりませんから渡したいとは思えません」
「それは理解出来るわよ。けれど信頼できる人にも渡せないのは何故?」
何処までも威圧的な態度に僅かばかりの反抗心が芽生える。
其処までされる謂れは無い。
だって全部を説明する必要は本当ならないのだから。
此処で誤魔化してしまうのも一つの手だと、そう思う。
嘘を許さない強い眼差しだが、耐えられない程ではないし、私はそこまで弱くも無いし出来なくともない。
けれど……。
私はお父様の方をチラっと見る。
無表情の中に確かに“心配”という感情を読み取ってしまい心のなかで苦く笑う。
叔母様だけなら誤魔化した、と思う。けれどお父様には誤魔化しはしたくない。必要な嘘以外は言いたくない。
私は小さく息を吐くと改めて叔母様を見る。
心に芽生えた反抗心はお父様を悲しませたくはないという私の我が儘によって抑える。
全てを話して納得してくれるのだろうか? という疑念を少しだけ抱きつつも私は口を開く。
「この腕輪は聖獣様より賜った品に御座います。多分、私が自らの道を切り開く補助として」
「きっとそうなのでしょうでしょうね? だから手放したくはない?」
「いいえ。それだけならば手放していたでしょう。問題はこの腕輪を持つ事自体がそのまま大きな運命のうねりに巻き込まれる可能性があるという点です」
私には定められた運命がある、らしい。
正直面倒だし、そんな運命があっても蹴散らしてやりたい。
補助であろうブレスレットだって、その運命とやらのせいだと理解しているから、喜ぶよりもげんなりする。
だから、このブレスレットを何処かに封印するか、破壊すると言うなら喜んで外してもらいたい。
それで面倒な“運命”とやらから逃れられるなら猶更。
順番が逆だし、あんまり楽観は出来ないんだけどさ。コレって多分補助が目的のモノだろうし。運命を変える程の力はないだろうしなぁ。あぁ、頭痛が。
内心嘆息する。
ただ、このブレスレットの主な用途が補助なのだろうが、他に目印という用途もあるのではないかと私は思っていたりする。
水の聖獣様はともかく、光の聖獣様は私がこのブレスレットを持っている事で認識したのではないか? とあの時の事を振り返り考えていたのだ。
更に言えば、あのアンドロイドの言動がとても疑わしかった。
あれはまず私のブレスレットを見つけ、その上で私の身の上を調べた……と思う。
何を言っていたのは聞こえなかったけど、不快感が腕から広がっていったから多分、間違って無いはず。
光の聖獣様の一件とアンドロイドの一件。
それらの事象から、このブレスレットが“目印”になっている可能性は低くない。
そんな物を誰かに譲る?
目印なんてものは良くも悪くも“誰か”に見つけられやすくなると同意だ。
良いモノにも悪いモノにも目を付けられやすくなる。
大切な人達をそんな危険に晒す?
そんな事出来はずがない。
「この腕輪は“目印”となるかもしれない、とワタクシは思っております。コレは危険を呼び寄せる可能性が高い。そんなモノを大切な人に渡すなんて絶対に嫌です」
「だから弟やアールホルンには渡せない?」
静かな問いかけに私はしっかりと頷く。
沈黙が部屋を包む。
全て話、主張したい事はした。
後はそれを相手がどう受け取るかだ。
私から口を開く事は無い。
暫しの沈黙を壊したのは叔母様の溜息だった。
「外したいとは思わないの?」
「外したいですよ、物凄く。ただ、外した後の事を考えると安易に外す事を推奨できないだけですわ」
「それは私が信用出来ないということかしら?」
「……完全には否定はできませんけれど」
あ、叔母様の目元と口元が歪んだ。
口元が震えて眦に僅かな水が浮かんでいる。
我慢しているけど、完璧な淑女の仮面が外れそう。
さっきから思ったけど、こんな風に交渉中に私人モードが出て大丈夫なのかね? いや、この場が「公式じゃない」せいと相手が「姪っ子である私」だからなんだろうけど。けど、ねぇ?
身内に甘すぎないかな? と思ってしまう私は非情なんだろうか?
とは言え、このままだと話が進まないし……。
「理由の大分部ではありませんよ? それよりも叔母様が貴族である事と何処かに所属なさっている事が問題だと思ってます」
「と、言うと?」
泣きそうなのを我慢しているらしい叔母様の代わりにお父様が問いかけて来た。
私は泣きそうな叔母様に苦笑しつつお父様をの方を向く。
「“コレ”が潜在的に絶大な力を宿しているのは明らか。場合によっては献上しなければいけない程に」
「貴族の義務として王家に献上か。それが必要な程の力が宿っているのかい?」
「きっと」
お父様にも言える事だけど最悪叔母様は貴族としてコレを献上しなければいけなくなる。
コレの力を正確に把握しているからこそ。
後、叔母様が所属している何処かとその組織の中で叔母様がどれほどの地位にいるか、という点も問題なると思う。
叔母様自身がコレに惑わされなくとも周囲の人間がそうとは限らない。
コレの扱いを一歩間違えてしまえば、貴族として幾ら高位とはいえ、家を一応出ている身であり、家の力を借りずに実績を成してきたであろう叔母様の汚点になりかねない。
確かに信用はしていないけど、別に叔母様を貶めたい訳じゃないのだ。
だからこそ、叔母様にコレを渡す、という選択肢も今の所無い。
それを伝えると叔母様は目を見開いた後、再び目に水の膜が張った。
素の叔母様は中々感情の起伏が大きい、のだと思った。
「ダーリエちゃんは私の心配もして下さるの?」
「積極的に貶めたい程の恨みなどありませんから」
意訳「お父様達の大切な人だから健やかにしていて欲しいけど、個人となると興味が無い」
意訳の方が長いが、心境はそんなもんである。
とどのつまり、健やかに研究をしていて下さい……何処か遠くで、と言った感情しかないって事である。
元気に何処かで研究に励んでいればお父様達は心配しなくてすむから、そうしていて下さい。
それにしても、身内モードになってますけど? いいのかねぇ?
名前の呼び方が完全に戻っている叔母様に内心肩を竦める。
公式の場ではない上、身内相手だからと言って少々腑抜け過ぎなきがしないでもない。
いやまぁ、完全な貴族としてこられると私が足りな過ぎて交渉にならないだろうけどさ。
なんて、思っていたせいか叔母様の行動を読めなかった。
温もりと共に視界が塞がった頃になってようやく叔母様が動いていた事に気づく有様だったりする。
「ああ。本当に賢い子だわ。可憐なだけでもなく賢く人の心配も出来る心優しいなんて。なんて……なんて、自慢の姪っ子なの!!!」
私を抱きしめた叔母様を中心に一瞬風が渦巻き吹き上がる。
と、同時に叔母様にいきなり抱きしめられた私は慌てて防御しようと思ったが、明らかに行動が遅すぎた。
とは言え、何故か私はそよ風すら当たらなかったけど、
台風の目は案外な穏やかであるように叔母様を中心に発生した風は中心にいる私には一切害がこなかったらしい。
代わりにお父様が執務室を渦巻く風から必死に護っているのが見える。
思わず「うわぁ」と言ってしまったのは淑女としては失格である。
あ、クロイツも吹き飛ばされてる。え? 中心からずれてたの?
猫のように転がっていくクロイツを横目で確認しつつに私は動く事も出来ず困っている。
まさか、本当にこんな事が起こるとは思っていなかったのだから。
叔母様が水浸しだのなんだと言っていたのは本当に出来る事だったんだなぁ。魔力の多い高位の魔術師って大変なんだねぇ。
なんて現実逃避したいのは山々なのだが、このままだと執務室が危ない。
お父様の仕事の邪魔はしたくないし、クロイツも聊か心配だ。
私は小さくため息をつくと何やら賛美の言葉を言っている叔母様の腕をポンポンと叩く。……何故賛美の言葉?
「叔母様。せめて風を収めて下さいませんか? このままだとお父様達が怪我をしてしまいそうです」
私の言葉に我に返ったのか叔母様がはっという顔をしたかと思ったら、風が一瞬で消える。
いとも簡単にされた魔法の制御に眼を瞬く。
叔母様はそんな私を他所にゆったりと離れると気品を身に纏い再び椅子に座った。
優雅にカップに口を付ける姿は先程までの淑女として完璧な姿であった。
周囲に書類が舞い飛び、お父様が必死に防御魔法を使い、クロイツが唸りながら……呻きながら? 近寄って姿がなければ。
いやいや、流石に見ない振り出来る範囲越えてますから、叔母様。思い切り取り繕ってますけど。そしてやっぱり扉の前で聞いた会話が素なんですね?
何も言えず生温い目で見る私に、暫し頑張っていた叔母様だが、次第にプルプルと震え、最後には顔を覆って伏せってしまった。
ああ、お父様。そんな風に溜息をつかないで下さい。クロイツも呆れた雰囲気を出さない。
自分の事を棚に上げて心の中でお父様とクロイツに苦言を呈していると、叔母様の震えが増した。
何か言っているみたいだけど、一体何を言っているのだろうか?
何となく聞かない方が良い気がする。……クロイツが物凄い顔しているし。
「姉上。もう繕っても無駄だと思いますよ? いや、元々駄目だったのかな? ……ダーリエ。先程の私と姉上の会話を聞いていたんだね?」
「少しだけ」
立ち聞きしたのがバレてしまい少しだけ気まずい。
けど、私なんかよりも叔母様の方が驚いた様子なのは何で?
「え? けれど気配が無かったわよね?」
「(あー成程)……少し気配遮断の訓練をしていまして。そのためか、通常よりも少しだけ気配が薄いようなのです」
ちなみにタンネルブルクさん達の後ろを取るのが最終目標だったりする。
無謀なのは重々承知だけど、一度でいいからあの二人を心底驚かしてみたい。
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私の説明に叔母様は小首を傾げた。
「少し、かしら? 私も気配察知の能力は比較的高いのですけれど、全く気づきませんでしたわ」
「訓練の成果が出ているようで少し嬉しいです」
目標は高く!
タンネルブルクさん達の後ろを取って心の底から驚かせる事!
それで得られるモノ?
二人の驚愕顔を見れれば満足です。
気の抜けたやりとりにお父様が呆れた表情になった。
「姉上。今はそこではありません。話を聞いていたということは姉上の本性もダーリエは知っていると言うところを拾って下さい。つまり、もう“頼れる叔母の像”は崩れてるということなのですから。いっそのこと諦めになっては如何ですか?」
「いやよ! それに、これでも私は華として社交界では有名だったのよ!? なのに何故幻のような扱いになっていますの?!」
「知っておりますよ? ですが、今の貴女を見て、それを信じろと言うのはあまりに酷では?」
「酷いわ、オーヴェ! 貴方、私からダーリエちゃんとアールちゃんを取るつもりなの?!」
「元々姉上ではなく僕とラーヤの大切な大切な宝物ですが?」
喧々諤々。
もう一度言っても良いかな?
コントかな?
尊敬するお父様とさすが貴族と思っていた叔母様の高速の掛け合いに視線は自然と窓の外へ。
あー、緑が綺麗だなぁ。あ、鳥。あれ、なんて名前なのかなぁ。
逃避行動をしていると頭に軽い衝撃があった。
後ろを見るとクロイツが呆れた様子でお父様と叔母様を指さしていた。
人臭い仕草だねぇ。あ、でも肉球がキュートですよ?
余計な事を考えているとバレバレなのだろう。
クロイツの視線に険が混じった。
厳しいなぁクロイツ君や。
いいから、さっさとどうにかしろ?
無言のやりあいの後、私は盛大にため息をつくと、体勢を正し、口を開く。
「叔母様。結局ワタクシは何の御用で呼ばれたのでしょうか?」
声かけにハッとなった叔母様はギロっと擬音が付きそうな程強くお父様を一睨みすると一瞬で笑みに変え、此方を向いた。
「<表情を変え方が早すぎて気持ちわりっ!>」
「<クロイツ、お口が悪い>」
一瞬同意してしまった事を心の奥底に隠すと私は薄く笑みを浮かべる。
どうやら話が無事元に戻りそうだ。
今は、それだけを考えておこう。
「私の用事は、その腕輪の危険性を貴女が理解しているか。又、腕輪の力に魅了されてはいないか」
叔母様はブレスレットと私の顔を交互に見ると微笑んだ。
「これに関しては心配ないと判断出来ますね。……今後、力に魅入られて、心が歪まないかどうかは今判断出来ることではありませんけれど、貴女なら大丈夫なのではないかと判断しますわ」
先程のやり取りの結果だろうか?
叔母様は穏やかに言い切った。
「その腕輪が現れたということは時代が動くということなのでしょう。そして……その大きなうねりに貴女が巻き込まれるということでもあります」
此方を見る目は真剣で冷たいともとれる。
だが、叔母様は強い力でスカートを掴んでいる。
淑女としては感情を制御できていない、と言っても良いだろう。
けど、それほどまでに私を心配しているという事の証左でもあった。
それにしても、叔母様にとって私という存在はそこまで感情が揺らぐ存在だという事なのだろうか?
まさか、そこまで大きな存在に何時の間になっていたのだろうか、と驚きを隠せない。
いや、可愛がられているし、さっきも凄く動揺していたからありえなくはない……のかなぁ? ほぼ初対面なのに何でだろうね?
私自身は血筋ってだけでは懐に入らないから、ちょっと叔母様の考えは理解出来ない。
けど、まぁ「どっちが普通の思考か?」と言うと叔母様の方なんだろうけど。
と、脳内では違う事を考えつつ叔母様の話は真剣に聞いています。
だって、聞いていないと大切な事を見逃す事になりそうだし。
「私はその腕輪を外すことが出来ます。この言葉には偽りはありませんわ。キースダーリエ、貴女はその腕輪を外したいですか?」
声に籠る切実な感情。
きっと叔母様はコレを手放して欲しいのだろう。
大きな力は、そこに在るだけで争いの火種となる事もあるのだから。
私もコレがただ絶大な力を持つだけのブレスレットならば喜んで外し、とっくに誰かに渡していた。
それが出来ないからこそ、私は今の今まで無理に外す事を考えていなかったのだから。
まぁ、例え外す方法を見つけて外したとしても、お父様達には絶対に渡さなかったし、かわりにルビーン達に頼んで裏社会に流すくらいの事したかもしれないけど。
ああ、けれど、それだと巡り巡ってお父様達に何かしらの害が降りかかるかもしれないか。
なら、王家に献上するか、何処かに埋めてしまっていたかもしれない。
方法は色々あるけど、手放す事に戸惑いは無かっただろう。
そう、コレがただの魔道具ならば私は手放せたのだ。……それが出来ないから私は今もこのブレスレットを外していないのだから。
私は叔母様を見ると小さくため息をつきブレスレットを軽く撫ぜる。
「この腕輪は在るだけで災厄を呼びますわ。外しても外さなくとも、その災厄から逃れる事は難しいのでしょう? ならば、ワタクシはコレを使いこなし糧をする道を選びます」
人のためではなく自分のために。
ひいては自分が大切な人を護るための踏み台となってもらう。
私は叔母様に向かってニヤリと人の悪い笑みを向ける。
「ワタクシは大切な人さえ笑って過ごせるならば、誰がどうなろうと気にならない人でなしですから。ですので、コレも大いに利用してやる事になってしまいますけれど仕方なですよね? そんなワタクシを選んでしまった方が悪いですものね?」
運命は私に何かの役割を割り振った。
面倒事なんて御免だ。
厄介事なんて避けて通りたいに決まってる。
けど……それでも。
その運命が確定されてしまっているのなら?
その運命の中で大切な人達を護るためなら、どんな力だろうと糧にさせてもらう。
大切な人達に降りかかる災厄は全て払う。
そのついでに自分の身も護れれば最高でしょう?
……いやまぁ、厄介事を避けられるなら避けたいんだけどね?
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「そうですわね。可愛い姪御を巻き込む運命など、踏み台や糧ぐらいが丁度良いですわ。そのために使われるならばその腕輪も本望でしょう」
……ん?
叔母様?
えぇと、一応コレを神聖なモノと見ている人間なのでは?
おっと。
その返しはちょっと予想外です。
しかも、叔母様、ちょっと目が輝いておりますが?
まさかの完全肯定に私の方が戸惑ってしまう。
叔母様はそんな私を気にした様子もなく、軽い音を立てて手を合わせた。
「ならば、外すのではなく強化する方が良いですね! ダーリエちゃん。叔母さんと少し旅行に行きましょう?」
「急ですね! ……お父様!?」
叔母様の家族愛もさることながら、私は一体何処に連れて行かれそうになっているのでしょうか?
目がキラキラしてますけど?
お父様助けて!
と、お父様に助けを求めたのに、お父様はあっさりと降参してしまいました。
いや「大丈夫。おかしな所にはいかないだろうし、いざとなれば姉上は強いから」じゃありません。
助けて下さい。
せめて行先を問い詰めて下さい。
心の準備が欲しいです。
一体私は何処で何をさせられるのでしょうか?!
今だけお父様の、その笑顔が憎いです。
お父様の薄情者!!
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