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後始末。この世界の宗教を添えて(2)
しおりを挟む奥に進んでいくと段々人気がなくなっていく。
どうやらこれから行く最奥の間に神官が常にいるわけではないらしい。
人が少なくなったので少しだけ歩くスピードを緩める。
別に何か良からぬ事を企んでいるわけじゃない。
ただ廊下などにある意匠を見たかっただけだ。
水の神殿に行った事で類似性が気になっただけである。
……あと、まぁ、隠し部屋があるのかなぁ? とは少し思ったけど、
水の聖獣様がいらっしゃったのは奥の祭壇では無かった……と思う。
その前にループした廊下を延々を歩かされていたから分からないけど。
ん? 今、考えるとあれって神護りの月において今後水の神殿の最奥の祭壇で祭事を行いたくともいけないのでは?
もしかして神殿によって役割が違うのだろうか?
うーん。『ゲーム』では聖獣に会うイベントがあったはずだけど。光闇の神殿以外は聖獣様に会うまでに試練のために神殿があるとか? ……あれ? でも、確かあのトラップって水無月灯さんが発案とか言ってなかったっけ?
『ゲーム』ではトラップなど存在しなかったのかもしれない。
ならば隠し部屋を見つけるだけで試練は突破出来るし、普段の祭事に対して最奥の間には何の問題も行けていたはずだ。
つまり『ゲーム』の中ではそんな心配する必要は無かったという事なのしれない。
と、其方は兎も角、この世界となるとどうなるんだろうか?
任意でスイッチみたいに入れたり切ったりできるのかな?
ならいいんだけど。
……うん、そういう事にしておこう。
と、なると光の神殿も場合によってはトラップハウスになっている可能性があるって事かぁ。
会った事ないけど光の聖獣様が悪戯好きじゃない事を願うしかない。
任意で切り替えるの出来る可能性があるトラップハウスだと神官の皆さんが大変だし。
「<あ、あの意匠、水の神殿にそっくりなのあった>」
「<造った奴が一緒なんじゃね?>」
「<だと思う>」
確認できる中では最古の神殿である光の神殿。
それと色以外全てが同じ闇の神殿。
そして類似性がある水の神殿。
建造したのが誰か分からない。
記録が残っていないからだ。
ただ建造者は同一だろうと思う。
「<案外神様が造った建物だったりしてね>」
「<笑えねーよ、それ。有り得そうで>」
「<いや、そこははっきり否定しようね、クロイツ? 幾ら昔は神様が身近だったと言え、そこまで人間臭くはないと思うよ? 地球の神様じゃないんだから。……ん? 地球の神様がああって事はこの世界も可能性は否定できない? いや、うん。あ、はは。無い、無い。ない……と思うんだけどねぇ>」
遥か昔、神と人々の距離はもっと近かったと言われている。
言われてはいるが、まさか建物を建造する程近いはずがない。
無いと言い切れないのは『地球』で培った価値観のせいだろうか?
「<うん。無いと思っていた方が私達の精神に優しい気がする>」
「<そうだな>」
私とクロイツは同時に溜息をつくと先程の事をひっそりと心の中にしまうのだった。
その後はスピードを戻すと列の最後尾を粛々と付いていく。
先頭を光の上級神官の方が。
それに続きヴァイディーウス様とロアベーツィア様。
その後ろに何時もの三人の護衛騎士さん達。
続いてお兄様にラーズシュタイン家の護衛。
最後に少しだけ離れた所に居た私だ。
本来なら私が殿は有り得ないと思うんだけど、今回は意匠を見たいという事で少しだけお目こぼしをしてもらっている。
こういうのが積み重なると我が儘令嬢になるんじゃいなかなぁ? ま、既に噂が蔓延しているいし、いいけど。
どうせ今後殿下達と交流していけば勝手に増える噂だ。
デメリットと言えば貴族の女友達が出来ないくらいで……何それ悲しい。
気の置けない友人なんて贅沢は言わないから、せめて利害関係込みでいいから仲良くしてくれる人いませんかね?
リアが居れば問題ない気がするけど、学園にはリアは居ないし。
私って学園ではぼっち決定?
ああ、何だか涙が出そうです。
側仕えと良い友達と良い、私って寂しすぎませんか?
せめて学園ではそれなりに話せる取り巻き以外の友人が出来ますように。
――儚い願い? 余計なお世話です。
何となく悲しくなる未来はともかくとして、さっきから気になる事が。
「<途中会った人の中に私を見てビクつく人が居るんだけど、私ってそんなに見た目凶悪なの?>」
いや“キースダーリエ”は美少女なんだけど。
少しばかりきつめの見た目に成長しそうな気がしないでもないけど。
あれ? もしかしてうんざりしているのが全面に出ているせいで触ると危険タイプの貴族様に見られてる?
今からでも表情を引き締めようかと思っているとクロイツが溜息をついた。
「<いや、オマエじゃなくてオマエの持っている魔石に反応したんじゃね? 結構魔力漏れ出てるぞ、ソレ>」
言われて私は持っている箱に眼を落とす。
魔石は一つじゃなかった。
雑多とは言え、あの濃度の魔力が籠った魔石が数個。
それを何故子供に過ぎない私が運んでいるかというと、ずばり他の人じゃ持てないからだ。
箱には封印がされていない。
封印によって内に凝縮するのを防ぐためだ。
そうなると魔石に触れるだけで魔力酔い? のような状態に陥る人が現れたらしい。
多分属性を帯びた魔力、しかも雑多な魔力が混在しているせいじゃないかと言うのが魔術師達の見解である。
という事で、誰が運ぶ? となった時【愛し子】ならそれらの干渉がない事が分かったのだ。
今、現在【愛し子】と呼ばれるのは陛下と両殿下、そして私である。
勿論、他にも居るけど、直ぐに動けるとなると私達しかいない。
そうなると陛下は論外。
両殿下と私となると必然的に私という事に。
うん、こればっかりは仕方ないよね。
最後までお兄様が運ぶと主張して下さったけど、どうやら長時間持つと多少体調に影響するらしいのだ。
そんな危険物をお兄様に持たせるわけにはいかない! と私が分捕りました。
と、いう訳で私が運んでいます。
今の所全く問題ない所、これも神々の御加護なのかねぇ。
殿下達にご同行頂いているのは、万が一私がダメだった場合です。
王子様を予備扱いするな! と言われそうだけど、こればっかりは【愛し子】が少ないので仕方ないという事で押し通した……らしい。
さぞかし激しい攻防戦があったのでしょうけど、知らないし知りたくないです。
「<確かに色々な魔力が渦巻いている感じはするけど、気分が悪くなる程のもんなのかね?>」
「<さぁな。オレも別に何ともねーしなー>」
「<うーん。耐性的な意味ではクロイツも【愛し子】なのかもね>」
クロイツ……この場合“フェルシュルグ”の過去は知らないけど、耐性に関して言えば【愛し子】と同じぐらいあるのかもね?
そんな事を言うとクロイツは何とも嫌な顔をして黙ってしまった。
ん? 何か嫌な過去でも抉りました、私?
「<クロイツ?>」
「<あ、いや。あー……うん。そうだな。めんどくせーけど話さないわけにもいかねぇーか>」
何か凄く言いずらそうなクロイツに内心首を傾げる。
別に言いずらいなら無理に聞かないけど?
「<オマエならいいかもな。……聞いてくれるか? 周囲に気を使いまくって、誰も恨まず、んで誰に手を伸ばす事も出来ずに「寂しい」って思いだけを抱えて死んじまった馬鹿なガキの話を>」
切ない、そして何処か悲し気な声だけど遠くを視る目は何処までも優し気なクロイツに私は上手い返答が思いつかず小さく頷く事しか出来なかった。
「<じゃあこれが終わったら話すわ。……別に気ぃいれて聞く話じゃねーよ。だから心配すんな>」
そういう事はそういう顔でいう事じゃないと思うけどね、クロイツ?
今にも泣きそうな顔で、さ。
けど、言ってもクロイツは認めないだろう。
なら、私は言葉を額面通り受け取り返すだけだ。
「<そ。……じゃあさっさと終わらせて帰ろうか>」
私はクロイツを撫ぜると再び歩き出すのだった。
光の神殿・最奥の間の扉は相応に豪華な意匠が施されており、荘厳な印象を受けた。
そう言えば【光神の日】は最初から開いているから、こうやって扉をよくよく見るのは初めてな気がする。
うーん。
この扉も詳しく調べれば『ルーン文字』でも彫ってあるのかな?
パッと見た所分からないけど。
何て事を考えているうちに神官さんが扉を開けた。
と、言うよりも何やら詠唱すると自動で開くらしい。
ふむ、神殿の隅々まで魔法の影響が広がっているのかな?
案外神殿って研究者にとっては垂涎の研究材料なのでは?
あー、けどこの世界の人達は基本的に神に対して強い敬愛と畏怖を持っているから、神の住処である神殿に手を入れるのは戸惑うか。……それこそマッドサイエンティストでもない限り。
脳裏にシュティン先生が浮かんだが、多分先生でもそこまではしないだろう。……多分。
何とも言えない気分を味わっている中扉が無音で開いていく。
完全に開ききったのを確認すると神官はそこで頭を下げ「私は中に入る事を許されておりません」と言って下がってしまった。
え? この魔石何処に奉納すれば? と私は思ったけど、どうやら殿下達は事前に聞いていたらしく、特に文句を言う事も無く中に入ってしまった。
私はお兄様と顔を見合わせるとお互い苦笑して後に続く。
これは後で聞いた話だけど。
どうやら此処に運ぶまでに私がダウンすると思っていたらしい。
そうなると魔石を運ぶのは殿下達になるから、説明をするのも忘れていたんだって。
けれど実際は私は魔力に当てられる事無くピンピンしていたわけで。
結局説明されなかった私達は驚いて、説明し忘れた殿下達は苦笑しつつも中に入ったってわけ。
背中しか見えなかったし、苦笑していたのには気づかなかったんだけどね。
最奥の間は天井に嵌められたステンドグラスから陽が注がれ、祭壇を照らしている。
身が引き締まるような静謐でありながらも張り詰めた緊張感を感じさせる造りである。
中央に位置してある祭壇には様々なモノが奉納出来るように台が置いてある。
今まで気にした事は無かったけど、円形の机のような形で中央部分がへこんでいた。
まるでそこに魔石を嵌めれば良い、と言わんばかりの作りである。
「では、ここに魔石を置いてもらえますか?」
「はい」
私は机の前に立つと無造作に箱を開け魔石を掴む。
あまりに躊躇しない私に護衛の皆の方が動揺していた。
けど、何と言うか私にとってこの魔石は別に何も怖くないんだよね。
他の魔石と同じモノにしか思えない。
確かに触れると雑多な魔力である事も属性を帯びている事もよりよく分かるけど、それに害されると言う不安は一切感じない。
攻撃性を感じない? と言えばいいのかな?
だからか、こうやって割と粗雑な扱いが出来る。
これって【愛し子】だからなのか【巡り人】だからか、どっちなんだろうね?
周囲の驚きを他所に私は魔石を一つ中央の窪みに置いた。
途端、机が仄かに輝きだす。
その事には一瞬驚いたが、正直光るくらいなら最近よくある事である。
取り敢えず自分の仕事を終わらせようと残りの魔石も置いていく。
全てを置いた私は数歩下がりお兄様達の所へと戻ると苦笑して出迎えられてしまった。
「我が妹ながら、慣れすぎだね」
「光っているだけならば問題ありませんもの」
「気持ちはわかるな」
ロアベーツィア様も同意した事にヴァイディーウス様も苦笑なさっている。
私達、こういった現象には結構耐性ができ始めているようです。
あ、だから気にしないで下さいな、護衛の皆さん。
私達の感覚が可笑しいだけですので。
貴方方の反応が真っ当ですよ。
周囲に引かれながらも会話する私達を他所に仄かな光は束となり祭壇へと伸びていく。
祭壇には光の女神様の神像が置かれているが、手に持っている鏡? のようなモノに光が収束する。
その後光は帯となり神像の足元に流れていき何かを描いていく。
それに見覚えのある私達は慌てて入口まで下がった。
案の定光の筋は魔法陣を描き輝きだす。
けれど、そこからは水の神殿とは違う展開が起こった。
光は柱となったのだが、薄いベールのように何故か『ホログラム』で出来たような扉が現れたのだ。
何となく現実感が無く、触れる事が出来るのかも分からない扉の出現に全員が首を傾げる。
えーと。これって隠し部屋への入口なのかな? その割には実態って感じがしないけど?
突然現れた扉? に全員が戸惑っていると、突然空気が変わった。
<<魔力を奉納して下さって有難う御座います>>
体に掛かる、前に感じた事のある圧。
頭に響いた逆らい難い声に私は咄嗟にその場に跪いた。
隣を見るとお兄様と殿下方も体の指令に従い私と同じく跪いていた。
けれど、体感した事のある私達とは違い護衛の人達は威圧感は感じたとしても次の行動が思いつかず立ちつくていた。
直ぐに殿下方が小声で同じようにするように指示をだす。
本来ならばすぐに殿下達を護れない体勢を取る事に戸惑いを感じるだろう。
だが、只ならぬ威圧感と殿下達の有無を言わさない命にゆっくりとだが跪いた。
私は取り敢えずこれで大丈夫だろうと密かに息を吐く。
姿こそ見えないが体中を圧迫するような圧力。
柔らかいくせに一言で人を従わせてしまうような覇気を持った声。
何より強い魔力とは違う“力”。
私達は“これ”を知っている。
かつての水の神殿に言った時に感じたモノと同じ“何か”
<<わたくしは光の聖獣です。頭をお上げなって下さいな>>
やっぱり、光の聖獣様の御降臨である。
水の聖獣様よりも強い圧力に僅かに顔を顰めるが、直ぐに笑みを象るを顔を上げた。
しかし、力を感じるが、そこに聖獣様の御姿は無かった。
<<訳あって今は姿を現す事は出来ないの。ごめんなさい>>
私達の困惑を感じ取ったのか少しだけ困った声が響く。
目に映る光景は相変わらず光のベールと扉だった。
光の聖獣様は扉の向こう側にいるのだろうか?
<<今の貴方方は扉を開けることはできません>>
此方の頭でも覗いているのかと言うタイミングの答えに内心眉を顰める。
頭をかき乱すような感覚は無い。
声も最初の時以外は頭の中に響く事は無い。
だから問題は無いはずだけど。
案外私達が分かりやす過ぎるだけかもしれない、と内心苦笑する。
<<そしてわたくしが姿を現すことも今は出来ません>>
語り掛けてくるような柔らかさだと言うのに、言葉に籠る力は強い。
あまりの強さに護衛の方達は力に負けてしまい身動き一つ取れなくなってしまっている。
どうやら水の聖獣様は余程力を抑えて下さっていたらしい。
それとも光の聖獣様は抑えきれない程の力をお持ちなのだろうか?
<<水の方にお逢いしたのね? 良いことです。あの娘のことは聞きまして?>>
あの娘と言われて水無月灯さんの事が思い浮かぶ。
多分殿下達もだったのだろう。
視線が私へと流れて来た。
私はその視線を受けて一歩前に出ると会釈をした。
「光の聖獣様。あの娘とおっしゃるのが“水無月灯さん”の事ならばお話をお聞き致しました。聖獣様方にとって友であった、と」
<<ええ。ええ! あの娘はわたくし達にとって良き友人でありました。そうあのこにとっても……>>
あのこ?
ニュアンス的に水無月さんの事ではないのは分かるが誰の事かまでは判別出来ない。
けれど聞き返すにはあまりにも沈んだ声音に聞き返す事も出来なかった。
更に言うと力の威圧感に私もちょっときつい。
下がろうとした時、見えないはずの視線に見られた、ような気がした。
<<そう。あなたが……>>
瞬間“見定められた”と思った。
何故かは分からないが、そう感じたのだ。
<<わたくしは時が来るまでこの場を動くことも姿を現すこともできないのです。彼女との約束を果たすためにもわたくしはやらねばならないことがありますから>>
懐かしそうに呼ぶ「彼女」とはきっと水無月さんのことなのだろう。
少しだけ威圧感も緩んだ気がする。
小さく息を吐く。
<<ごめんなさい。少し無理をしたようです。一目会いたいと思っただけでしたが、無駄にはならなさそうですね>>
嬉しそうな声と共に光が私達に降り注いだ。
<<こたびの魔力のお礼に祝福を>>
私に降り注いだ光が腕輪に吸い込まれる。
少しだけ嫌な予感がしてひっそり【鑑定】をかけると効果一覧に【光の恩恵】と記されていた。
やっぱりこの腕輪って『キーアイテム』っぽいのですが!? どうして私に渡すの?!
喚きたいとのぐっと堪えて内心で舌打ちする。
実態はないはずなのに、視線が私達を向いているのが分かる。
姿が見えないだけで光の聖獣様は“ここ”に居るのだ。
<<彼女との遥か昔の約束。その約束に出てきし【運命の子】。そして娘を護りし【血族の子等】。時が来し時にこそわたくしは貴女方の前に姿を出しましょう。ですからその時まで決してその心を曇らせないで下さいね? 祝福とは呪いと紙一重。その心によって簡単に変わってしまうのですから>>
鈴がなるような笑い声が最奥の間に響き渡る。
言っている事は結構酷いけど。
笑い声がやむと、ほぉという、何処か付かれたような溜息が聞こえて来た。
同時に気配が少しだけ薄くなった気がする。
<<ここまでのようです。いつか会える日も楽しみにしています。――――お願い。あのこを……――>>
声が遠くになり気配も薄れていく。
最後の言葉は途切れて全部は聞こえなかった。
けれど、切実な、悲し気な、そして何処までも優しさに溢れた声音だった。
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