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こんな問題はごめんだったのに
しおりを挟む確かに私はアズィンケイン達の変化を厄介事だと思ってましたよ?
残念ながら? 懐に入ってませんので積極的に踏み込む気はありませんし?
だからと言って放っておく事も出来ませんからね。
後、切欠が無いかなぁとも思ってましたけれどね?
だからと言って、こんな突拍子もない事をしでかすとは思わないでしょう?!
「<私達みたいな異端じゃあるまいし>」
「<いや、まぁ確かにオレ等は異端なんだけどな?>」
「<まさかこの世界で生まれ育ち、なおかつ近衛騎士まで勤め上げていた男性がこんな事をするなんて思いもしないでしょう? 私間違ってます?>」
「<あーうん。取り敢えず落ち着けや>」
幾ら書置き一つであの元騎士が消えたからって言ってもな?
クロイツの宥める言葉に私は盛大に溜息を吐く事で答えるのだった。
現在ラーズシュタイン本邸の応接室。
いるのは私の他にお兄様と、何かお話があったらしい両殿下。
そして何時もの護衛の三人組とラーズシュタインに仕える騎士団の部隊長さんです。
面子がおかしい?
確かにこの場合部隊長さんの存在が異質ですよね、分かります。
最初から部屋にいた私でさえ、この面子が部屋にいる事に違和感をかんじてますからね。
問題の始まりはお兄様にご用事があったのか先触れをだして訪れた殿下達を持て成していると、突然部隊長さんが「火急の事態により失礼致します!」と部屋に入って来た事だった。
勿論殿下達が居らっしゃる事も知っていての行動なのだから、余程の緊急事態なのだと思いましたとも。
それでも多少「無礼になったらどうしようかな?」と過りましたけどね。
そこら辺はまぁ殿下達が鷹揚な方達なので大丈夫でした。
とはいえ、それが許されたとしてもこれ以上は問題があると、私達は殿下達に断りを入れると部屋の外に出てお話を聞くつもりでしたが、殿下達に「ここで構わない」と言わまして。
しかも、部隊長もどんな判断をしたのか殿下達が話を聞く事を拒絶しなかったので、少し不思議に思いつつも何事かと聞いたのだ。
そこで聞かされたのがアズィンケインの出奔である。
咄嗟に「これってラーズシュタイン家の醜聞にならないのだろうか?」だったのは、正常な判断だったのかどうか。
ともかく、問題はこうして前触れも無くやってきたのである。
……いや、本当にアズィンケインは何をやってるのかな?
頭痛を感じつつも書置きを読むとそこには今までの御恩を返す前に辞める事への謝罪と、これから自分は罪を犯す事になる事(一体何をしでかすつもりなのやら)そのためにラーズシュタイン家に迷惑が掛からない様に辞める、という事が書いてあった。
「もう少し賢い方だと思っていたのですけれど」
ああ、頭痛が痛い。……じゃなくて頭が痛い。
確かに確かに、何時辞めても良いとは言いましたけれどね?
あと、私を襲撃するならば返り討ちにしますとも宣言していましたけれど。
まさか、こんな紙切れ一枚で辞める事が出来ると思っていたとは。
これは流石に私でもあり得ないと思うんですけれど。
「……まさか、こんな辞め方が許されていますの?」
「いえ! そのような事は決して御座いません!」
部隊長さんが頭を下げ言った悲鳴のような言葉が部屋に木霊する。
そりゃそうですよね。
そんな部活をやめるよりも気軽に私兵を辞められてはラーズシュタイン家がどれだけ緩いのだと言う話になるものね。
確かに私達雇い主側が「辞めなさい」と一言命令すれば次の日には追い出される可能性はあると思う。
そればっかりはこの世界の当たり前だから仕方ない。
少し違和感というか、思う所がないわけではないけれど、こればっかりは一応身分制度の無い『わたし』によるモノだからどうしようもない。
自分で昇華させなければいけないモノだ。
とは言え、それを雇われている側にやられてしまうと何と言えば良いモノか。
こうなると悩み昇華させなければいけない『わたしの気持ち』も何処かに吹き飛んでしまいそうである。
「<あーもう>」
「<デンカ達もあきれてるしなー>」
「<当たり前でしょう! お兄様も頭を抱えているじゃないですか!>」
何なんですかね?
アズィンケインって実は私達以上に世間知らずだったんですかね?
後、何とも物騒な事が書かれているのも気になるのですが?
何ですかね?
罪を犯すだろうって。
え? 犯罪予告文?
「事前に犯罪を予告をして去っていく犯人とは一体?」
「えぇと。止めて欲しい、とかかな?」
「そう、なんでしょうかね? アズィンケインを最後に見たのは何時かしら?」
「昨夜部屋に戻ってから見た者はいないかと」
「範囲が広すぎますわね」
それだと止め欲しいのか欲しくないのかイマイチ分からない行動としか言いようが無いのですが?
もう何度目か分からない溜息が口から零れる。
物語ならば。
そう、物語ならば、誰かを止めるために自分一人が罪を被るとか、泥をかぶるのは自分一人で十分とか言う理由で一人何処かに行くなんて展開があるかもしれない。
そんな事をするキャラクターはきっとこうやって書置き一つでいなくなる事もあるだろうし、書置きを読んだ仲間は「水臭い」だの「何で?」だと言って慌てて追いかけるのだと思う。
けど、実際やられても困る。
あんな行動は物語だからこそ成立するのだし、信頼関係が結ばれた関係だからこそ話は盛り上がるのだ。
そもそもアズィンケインが消えた理由がそんな物語みたいなものかどうかも分からないんだけどねぇ。ただ、もしそういった理由で消えたのなら……。
「<アズィンケインは英雄願望でもあったって事なのかな?>」
「<あー。罪の清算を付けに行く敵方とかがやりそうな事ではあるな>」
「<え? あーそっちかぁ。私は権力とか、此方が迂闊に出だしできない程の強大な敵に対して一人で立ち向かっていく主人公的なイメージだったんだけど>」
「<立場的にそっちは無理じゃね?>」
そうかな?
貴族の家に仕える騎士とか、主人公としてはありそうだけど?
ともかく、物語ならば一途で清廉な騎士として賞賛される可能性があるけどさ。
私達とアズィンケインじゃそうなるのは無理だと思うんだよねぇ。
いや、流石にそんな事考えて、あんな書置き残した訳じゃないとおもうけど。
「それにしても、罪を犯すって何をするつもりなんでしょうね?」
「理由もなく罪を犯すほど性根が曲がっているようには思いませんでしたけれど」
「そう、ですね。少々思い込みが激しい性質だとは思いましたけれど、進んで何か罪を犯すような性格ではなかったと思います」
私のように目的のためならば何でもする、という性格でも無い。
むしろ、そういった事を諫めるような性格だ。
だからこそ、私も書置きを見た時、咄嗟に物語の主人公のようだと感じた訳だし。
と、こんな所でいない人物の総評をしていても仕方ないか。
取り敢えず、今後どう動くかを考えないと。
アズィンケインに関しては一切手がかりが無い。
と、なると……挙動のおかしかったもう一人に聞くしかないんだけどね?
関係あるか、ないかは分からないけど、ね。
お誂え向きに「罪を犯すだろう」なんて言っている訳だしね?
「罪、ね。……こんな事態になってから問いかける無礼をお許し頂けますか? ――ノギアギーツ様?」
私の周囲で少し前から挙動が変化人物は二人。
アズィンケインとノギアギーツさんだ。
彼は少し前からアズィンケインを監視していた。
今回のアズィンケインの出奔には関係無いかもしれない。
ただ少しだけでも情報が欲しい。
監視対象に対して私達よりも何か情報を持っている事を期待しての問いかけだった。
私の問いかけに全員の視線がノギアギーツさんに集まる。
彼は少し驚いた様子だったけれど、直ぐに苦笑を零した。
「その御様子ですと、気づかれていたようですね、キースダーリエ様」
「今回の事に関係しているかは分かりませんが、随分分かりやすい視線でしたから」
「これでも密かに見ていたつもりでしたが」
ノギアギーツさんが肩を竦めた。
「僕があの男を監視していたのは、彼がある人物と接触している所を偶然見かけたからです」
ノギアギーツさんは特に抵抗する事無く、口を開いた。
どうやら口外無用とは言われていなかったらしい。
「その事を陛下に報告した所、彼を監視するように命を賜りました。ただし、あくまで重要参考人程度ですので、任務中ラーズシュタイン家に行った際、少しだけ気にかけるように……程度の命でしたが」
「それで私達にも言わなかったという事かい?」
「はい。殿下達は勿論の事、ラーズシュタイン家の者達にも出来るだけ悟られないように、と。どうやらキースダーリエ様には見抜かれていたようですが」
そこでノギアギーツさんが再び苦笑を零す。
どうも彼の中で私が飛びぬけて敏い人物に思われているようで、こっちも内心苦笑してします。
別に私が特に敏い訳ではない。
ただ、私自身がアズィンケインの言動を不思議に思い見ていたがために、同じように観察している視線に気づいただけ。
「<それに、ノギアギーツさんって意外と目に出るみたいだし。何と言うか好奇心が強い性質、なんじゃないかなぁ>」
「<研究者気質って事か? うえぇ。勘弁してくれ。その手のやつは苦手なんだよ>」
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ロアベーツィア様の質問にノギアギーツさんは目を伏せると深くため息をつき顔を上げた。
「ナルーディアスです」
ノギアギーツさんの言葉に今度は視線が私に集中する。
だが、私は出された名前に覚えなく首を傾げる。
「えぇとナルーディアス、ナルーディアス…………あぁ。確か、アズィンケインの元隊長でしたわね」
私の言葉に何故か緊迫した空間が一気に霧散してしまった。
あれ?
違ったっけ?
今度は逆に首を傾げると全員に苦笑されてしまった。
解せぬ。
「ダーリエ。違わない。違わないけどね? できれば名前ぐらいは覚えていてほしかったかな?」
「オマエな。それで良く、あの元騎士野郎がいれば忘れないとか言えたな?」
「名前など覚えていなくとも問題無いではありませんか。ワタクシにしては顔も覚えておりますし、かの方の功績も覚えておりますわ」
「それ、あの野郎に聞いたことだけじゃねーか」
「それで十分では?」
え?
何、この空気。
えぇと……ごめんなさい?
「成程。一度記憶の隅に追いやられた者の末路とはこういう事なのですね。……彼は貴方と接する内に考えが少し変わったのではないかと思います。ですから変わらず貴方を敵視するナルーディアスの考えに追従出来ず、言い合いになっていたのではないかと」
「思考が変化した、ですか。中々頑固そうでしたけれど。……ん? あの、もしかして、アズィンケインは元隊長の所へ行ったという事ですか?」
まさかねぇ?
だって元隊長に追従出来なかったなら私やお兄様に。
それが無理でも殿下達の護衛の方達に報告すれば済むはずですよね?
だって、元隊長は「王都追放処分」を受けているはずなのですから。
「<えー。まさかねぇ?>」
「<いや。そうなんじゃね?>」
クロイツに言われても信じたくない私は全員の顔を見た後ノギアギーツさんに視線を戻す。
けれど、誰もが頭が痛いと言う顔をしながらも否定してくれなかった。
それこそノギアギーツさんも、だ。
「つまり。アズィンケインは元隊長の件に関して自分の手でケリをつけるために出奔した、と」
「……どうやら彼は思い込んだら一直線な人間のようだね」
お兄様の苦笑交じりの言葉に私も深くため息をつくしかなかった。
確かに場合によっては人を殺める事になる。
罪と言えば罪だ。
けれど、相手は言うならば犯罪者だ。
しかも王都追放処分を受けたのに王都にいるというおまけ付き。
追従して仲間になるならば確かに大罪となる可能性はあるが、逆の場合どうだろうか?
対した罪にならないのではないかと思うのだけれど。むしろ書置き一つで出奔した方が問題なのでは?
現在も盲目な状態であろうアズィンケインに頭が痛い。
「この場合、放っておいた方がいいのかしら? ああ、でも。一応捜索するべきですわね。彼はまだラーズシュタイン家の者ですし」
「そうなるかな。流石に書置き一つ辞めることは許されないからね。報告の義務を怠ったわけでもあるし」
「ああ。それも御座いましたね。処分を受けた者と接触していながら報告してませんものね。……あの、ノギアギーツ様? 他に何か問題が?」
私とお兄様とで取り敢えず今後をどうするかを話し合っているとノギアギーツさんが何とも言い難いをしているのが見えた。
もしかして私とお兄様が家の采配をしている事に驚いたのかな?
けれど、私達の年不相応な側面は知っていたと思っていのですけれど。
不思議そうに見ているとノギアギーツさんは何とも言えないまま口を開いた。
「実は命を受けた最大の理由なのですが……例の男は今「闇の安寧を護る会」に身を寄せている事が判明したからなのです」
「「……はい?」」
間抜けな声を上げた私達を咎める人はいなかった。
というよりも、皆似たような声上げていたし。
……じゃなくて!
「アズィンケインはそれを承知で決着を付けに行った、と?」
「そうなりますね」
「…………そうですか」
そうですか。
私達がこうして本邸にいる理由も知っていて、それでこの行動ですか。
「あいつ、馬鹿だったんだなー」
クロイツの心底呆れた声が部屋に虚しく響いた。
正義感が強い事は別に悪い事じゃない。
思い込みが強いのも悪癖とは言えども絶対に矯正しないといけないモノでもないかもしれない。
け れ ど
これはあんまりにも勝手が過ぎる。
「隊長さん」
「はっ!」
色々感情を押し殺した声で私は隊長に声をかける。
此処で感情のままアズィンケインを罵っても何も改善はしない。
せめて、最悪の状態にならないようにしないといけない。
お父様は王城にてお仕事中でありお母様は領地にいらっしゃる。
だからこそ私達はある程度自分の意志での采配を任されている。
勿論、年を考えて家の者に相談する事が前提だが。
とは言え、こればっかりは時間勝負だ。
後でお叱りは受けようと覚悟すると隊長に指示を飛ばす。
「王宮に使いを出して下さい。お父様にアズィンケインが姿を消した事と先程までの推測を。……お兄様もそれでよろしいですか?」
「そうだね。……後、家の者達には全てが終わるまでこのことは内密に、と。後は……現在どこまで調べがついているかは分からないけれど、すぐに捕縛の準備をしてほしいとも伝えてくれるかな」
「それならば私達が先行することも伝えて下さい。二人は行くのでしょう?」
ヴァイディーウス様が私とお兄様を見てそういった。
確かに私は動くつもりだ。
アズィンケインを助けるためじゃない。
むしろ彼に引導を渡しに行くと言った方が正解かもしれない。
最悪、その場で切り捨てるかもしれないが、出来るだけ戻ってくるようには言うつもりではある。
……せめて最低限の礼儀を叩きこんでからじゃないと外に出す事もできないし。
ラーズシュタイン家――ひいてはお父様達の迷惑にならないようにしなければいけない。
まさか此処まで問題児だったとは。こんなことなら私付きにしておくべきだったかな。
そうすれば私の裁量でアズィンケインを問い詰める事も出来たのに。
ああ、今はそんな事を言っている場合じゃないか。
「ワタクシは彼を雇う際、口添えした責任が御座いますから。こうなってしまっては、もはやアズィンケインだけの問題ではありませんし」
「僕も現在ラーズシュタインの人間としての責務があります」
「ならば手数は多い方がいいだろう。俺たち自身は無理でも護衛としてついてきている彼等をつきそわせることはできる」
「ですが、殿下達は標的に」
「それならば貴女方もです。――申し訳ありませんが私達も現場に行くことも伝えてください」
こうなってしまっては殿下達は何が何でもついてくるだろう。
私は困ってしまいお兄様に視線を送る。
お兄様も断る方法が無いか考えているようだけど、思いつかないらしく困った顔をしていた。
しかも殿下達は自分達は教団本部に行く事を決めてしまい、騎士団には診療所の方に行くように言ってしまった。
隊長も流石に殿下達の命令には従うしかない。
私達の顔を見た後、何とも言えない顔をし、けれど何も言わず一礼すると部屋を出ていった。
「<ここまで行くとコイツ等ひかねーな>」
「<だよねぇ。……仕方ない、かな>」
せめて教団の入口でとどまってくれるように頼むしかないかなぁ。
後、護衛の方々、皆さん殿下達を止めてくれませんかねぇ?
何で全員行く気満々なんですか?
「<仕方ない、か>」
これも全部アズィンケインのせいにしておきますか。
そう、何で殿下達がラーズシュタイン家に来ている時に事を起こしたんのですか!?
その他諸々も含めて一発殴りますのでお覚悟を。
私は心の中で拳を握ると盛大にため息をつくのだった。
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