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どんな事があろうと俺等は俺等らしく生きていくだけさ(2)
しおりを挟む俺が冒険者になった理由は言っちまえばありふれた理由ってやつだ。
村は別に餓死者が出る程貧しいわけでもなく、だからと言って他所に援助出来る程裕福でもない。
自分の村の中で完結して生きていける極々普通の村だった。
そんな中、ある家の長男として産まれた俺は本来なら一生村を出る事無く生きて死ぬ。
親の手伝いをして、継ぐ物があるわけじゃないが、家を継いで、嫁さんを貰って、子供ができて、その子供に家を引き継いで死んでいく。
そんな普通の一生って奴を送るはずだった。
けど俺は生まれた頃からそんな「普通」の人生を送れない事が決まっていた。
それは、理由は分からないが、俺は貴色を持って生まれたからだ。
俺は親の色を持って生まれなかった。
と、言ってもそれが原因で親の夫婦仲が悪くなったわけじゃない。
【愛し子】や【恵み子】とまではいかないが此処まではっきり貴色を持って生まれる場合も度々存在する。
別に親の色を受け継がないでも母親が他所の子を産んだとはならない。
ま、それを隠れ蓑にして本当に浮気してるやつもいるだろうけどな。
ともかく、俺に関しては村には俺と同じ色を持っている奴が存在しないし、俺自身親父そっくりの顔をしてたもんだから、そこら辺は何の問題も無かった。
ただ此処まではっきり貴色を持っている場合、精霊との親和性は高いからか、良くも悪くも平凡な村の中じゃ浮いちまう。
俺も村の中に居場所があると胸を張る程村に愛着を抱いていなかった。
序でに俺の場合、純粋な腕力もそこら辺の子供よりも強いもんだから余計に浮いちまってたしな。
孤立してたわけじゃない。
蔑ろにされていたわけじゃない。
ただ、純粋に「あ、此処は俺の居場所ではない」と心の何処かで考えていただけだ。
そんな俺は自然と村の外に出る事に憧れた。
たまに来る外からの人間。
特に旅商人を護衛している冒険者って奴に俺は強い憧れを抱いたし、目標にもしていた。
親もそんな俺の憧れを知っていたんだろう。
15歳になった時、俺は村を出て冒険者になると親に切り出した。
幾ら反対されても、たとえ勘当されても俺の決意は変わらない、とはっきり親に言った。
が、親はあっさり俺が村を出る事を承諾した。
あまりの呆気なさに俺の方が戸惑ったくらいだ。
そんな俺に親父もお袋も「あんたがこの村を窮屈に思ってたのは知ってたよ。何時か村を出ていくのも分かってたさ。ただ此処があんたの産まれ故郷である事は変わりない。元気かどうかくらい知らせに帰ってきな」と言って笑った。
変な話だが、俺はこの時初めてこの村が「俺の産まれ故郷」なんだと実感した。
出ていく時になってから気づくなんて馬鹿だなぁ俺、と思いつつ俺は見送られて村を出た。
産まれ故郷だと思えたとしても、俺の冒険者に対する憧れは無くならなかったし、やっぱり村の事を窮屈だと思ってたからな。
その後近くの街のギルドで冒険者登録して冒険者になった俺は暫くの間は一人でやっていた。
最初の頃は驚きの連続だった。
世界は広いなぁなんて思う事もざらだった。
それでもやっぱり冒険者って奴は俺の性にあってたんだろう。
何時の間にか俺は一人でもそこそこやっていける冒険者になっていた。
そんな俺も上を目指すためには必要なものがあった。
それは魔法の習得だ。
俺は【火属性】と【水属性】の貴色を持っている。
けど、相反する属性を持っているが故に魔法の習得には困難がついて纏った。
本来ならどちらかに特化する事で片方は切り捨てるらしい。
が、上位ランクになるためにはどっちも極める事が必要だと俺の勘は言っていた。
俺は自分の勘には自信があったからこそ、どちらかを切り捨てるっていう選択肢は最初から存在しなかった。
でも、そうなると教えてくれる奴がいないとどうにもならない。
独学じゃどっちも中途半端になっちまう。
なら誰かに師事を受ければいい?
そんな簡単な話じゃなかったんだよなぁ。
普通の魔術師じゃ俺の望みを叶えるのは難しいと断れまくったし。
さて、どうしようかと思った時にとある魔術師が教えてくれたのが森の奥にいる隠居したばあさんの存在だった。
昔は凄い魔術師だったらしいが、今は隠居して森の奥に住んでいという話に困っていた俺は飛びついた。
ってか俺としては望み通りの魔法を極める方法を知っている奴なら誰でも良かったんだがな。
偶々聞いたのがそのばあさんってだっただけで。
けど、俺はその事に今も感謝している。
俺はそこで生涯の相棒だと言い切れる奴と会えたんだからな。
ばあさんのいるって話の森は厄介な所だった。
それなりに準備もしてたってのに何日も彷徨って「本当にこんな所にいるのかよ?」と疑ったくらいだ。
魔物がそんなに強くなかったのが幸運と言えば幸運だった。
けどまぁ、何とかばあさんの所にたどり着いた。
将来、相棒であるビルーケリッシュと初めて会ったのは、俺がばあさんの家を見つけて庭に入ろうとした時だった。
ビルーケリッシュは当時ばあさんに世話になっているお返しに家事全般を請け負ってたらしい。
俺がばあさんの家にたどり着いた時は薬草園の手入れをしていたのか外にいたもんだから、ボロボロの俺と立ち上がったビルーケリッシュの目が偶然あったんだ。
けど、実はそん時俺とビルーケリッシュとは一言も言葉を交わしちゃいない。
……行き成りビルーケリッシュの奴が俺に魔法ぶっぱなしたからな。
いやまぁ今なら理由も知っているから良いんだが、当時は当然「何しやがる!」って怒り心頭ってわけだ。
その後言葉を一言も交わす事無く、俺等はばあさんの家の前でやり合う羽目になった。
結局俺等が戦うのをやめた……ってか止まったのはばあさんの一喝と共に降り注いだ水によってだった。
あれはある意味、頭を冷やせって事だったのかもな。
ただ、流石に何日も彷徨った挙句の戦闘だったからか、俺はばあさんの魔法に気絶しちまった。
直前、ビルーケリッシュが慌てた様子で俺に駆け寄って来たのは夢だったのかね?
未だに聞いてもはぐらかされるから真相は分からん。
ともかく、次に目を覚ましたのはばあさんの家の中でだった。
ちょい薬草くさいベットに寝かされていた俺は目を覚ますと妙に頭の中がすっきりしていた。
いやぁ、倒れた理由には何日も緊張して寝不足だってのもあったらしいんだわ。
御蔭で目を覚ました時は妙にすっきりしていたし、頭も冷えていた。
俺の看病していたのはビルーケリッシュだった。
ビルーケリッシュは行き成り目を覚ました俺を見て驚いていたが、それ以上に何でか俺を“恐れて”いた。
「申し訳ありません」なんて馬鹿丁寧に謝罪されたのにも面食らったが、謝罪した途端俺から視線を外す様に伏せちまって、それ以降一言も話しやしない。
もう、なんてぇか全身で俺を怖がっていた。
そんなビルーケリッシュに俺が思ったのは何故か「罪悪感」じゃなく「怒り」だった。
けどよ、今考えるとそれも仕方ないと思うんだよなぁ。
あん時、俺はそれなりの冒険者だったんだぞ?
そんな俺と対等に戦って見せたくせに、今更俺に怯えるビルーケリッシュの態度が俺は気に食わなかった。
きっと自分を下げている様に見せる姿が妙に気に障ったんだ。
よくよく考えると、あん時から既に俺はビルーケリッシュが気に入ってたのかもな。
とは言え、あの時はそんな事気づいてなかったからな。
俺はビルーケリッシュの胸倉を掴むと「お前な。謝るくらいならこっちをみやがれ」と怒鳴っちまったんだよなぁ。
まさかビルーケリッシュの奴もいきなり俺がそんな事すると思わなかったらしく――ってかアイツの送って来た人生を考えるとそんな事を自分した奴は俺が最初なんじゃねぇかな?
アイツは驚いて呆然としていた。
ま、俺はその目に恐れがない事で満足して、手を外すと「お前強かったな。ここのばあさんの弟子かなんかなのか?」と笑って聞いたもんだから、アイツは完全に思考停止しちまったらしい。
当たり前と言えば、当たり前だよなぁ。
俺が同じ状況でも同じ対応になるわな。
呆然としていたビルーケリッシュは後ろからばあさんに声をかけられて我に返ったみたいだったが、俺をまじまじと見たかと思うと苦笑いを浮かべて「全く違うんですね。――貴方こそとても強かったです。そして僕は此処の家にお世話になっている身ではありますが弟子ではありませんよ」と言ってもう一度深々と頭を下げた。
その後ビルーケリッシュはもう一度謝罪をすると奥に引っ込んでいった。
なんでも飯を作るためだったらしい。
俺としてはそのまんまいると思ったから首を傾げたんだけどな。
後で聞いた話だが、ばあさん曰く「あの子が初対面であそこまで表情を露わにするのは初めてみたよ。アンタは変わってるねぇ」らしい。
褒めてねぇよな、それ?
ま、今となればあのばあさんに褒められるとそれはそれで恐ろしいからいいんだけどよ。
と、いう事で、俺とケリーことビルーケリッシュはこうして初めて会った訳だ。
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