どうやら悪役令嬢のようですが、興味が無いので錬金術師を目指します(旧:公爵令嬢ですが錬金術師を兼業します)

水神瑠架

文字の大きさ
179 / 322

何時の日か陽だまりの下貴女と笑いあう日がくればと私は思うのです(2)

しおりを挟む



 王国から王子方と共にラーズシュタイン家の子供二人が遊学にやってくると聞いた時、我が耳を疑いました。
 『ゲーム』ではそのような事が起こったという描写は御座いません。
 勿論『ゲーム』では描写が無いからと言って絶対有り得ないという事ではありませんが、王国が『ゲーム』と全く違う場所ではない限り、そのような事が起こるとは思ってもいなかったのです。
 過去の愚かな私ならば「私のため」だと思い違いをしていたでしょう。
 ですが現実である事を認識している私はただ不思議でしかありませんでした。
 『ゲーム』ではお二人の王子はお互いに対して確執を持ち、最後まで仲が修復する事はありませんでした。
 第一王子は継承権を放棄せざるを得ない事件が起き、第二王子は王妃によって付けられた婚約者候補に振り回され、真っ当な愛情を注がれる事なく性格がねじ曲がったのだと『攻略本』にかかれていました。
 その後出た『小説』により詳細な事も書かれていましたが、元凶である王妃と、王妃の駒とされていた悪役令嬢によって王子達は人生を滅茶苦茶にされてしまったのです。
 王国では未だに王妃と悪役令嬢により国王もおいそれと継承権を持つ王子達を外に出す事なの出来ないと、そう私は考えていました。
 とはいえ、それはまだ事件が起こっておらず、王子方に確執が生まれていない状態なのだ、と思う事も出来ます。
 あの悲しき出来事が起こった明確な時期は書かれてしませんでしたし。
 ――少しだけ考えない考えなかったと言えば嘘になります。
 『記憶』を持つ私ならば王子達の間に生まれる確執の原因を取り除く事が出来るかもしれない、と。
 ですが、所詮私は帝国の人間なのです。
 他国の人間である私がそれを成し遂げる事など「本当に出来るのか?」と自分に問いかけても「成功する可能性は低いだろう」と思えてしまい、結局手だしする事に怯え手だしをする事は出来ませんでした。
 そもそも起こるかも分からない事を相手に不審に思われる事無くお伝えする方法など私には思いつかなかったという事も御座いますが。
 そして我が事ながら薄情だと思いながらも、なによりこれから起こるかもしれない他国の悲劇よりも現実にこれからやってくる方を警戒しなければならないと、そう思ってしまったのです。

 『キースダーリエ=ディック=ラーズシュタイン』

 たった一人に執着し、その方の駒となっている事も薄々気づきながらも次々と罪を犯し、最後には狂愛ともいえる思いと共に果てた令嬢。
 『彼女』の生き様を『本』で読み、その事を思い出した私は『キースダーリエ』と姉上を重ねずには居られませんでした。
 そんな彼女が帝国に来るなんて。
 現実では何が起こるか分からないとはいえ、本当に驚きました。
 彼女が遊学に来ると分かり私は兄上にも頼みキースダーリエの情報を集めました。
 時間が無く、噂しか拾えませんでしたが、それだけでもキースダーリエという少女が好き勝手している事だけは分かりました。
 ……今考えれば愚かな事です。
 噂とは誇張されるモノ。
 裏付けをとってこそ生きた情報となると言うのに、私は噂を鵜呑みにしてしまったのですから。
 そのツケを自ら払う事になってもそれは自業自得というモノです。
 ですが巻き込んでしまった兄上には幾ら謝っても謝りきれない程の失態を背負わせてしまいました。
 私は何処までも愚かであり、そのために巻き込まれた方々には謝罪をしても許されない事をしています。
 幾ら皇族に産まれようとも私の愚かさは矯正されなかったようです。
 
「(本当に死んでも馬鹿は治らないモノなのですね)」

 こんな事で証明された事実に内心自嘲するしかありません。
 最初から警戒していた私をキースダーリエ様が信用しないのも仕方のない事です。
 そもそも王子達の仲が悪いわけではないという事から分かる様にキースダーリエ様とて『ゲーム』と違っていてもおかしくはないと言うのに。
 その事に気づいたのは彼女から「錬金術を嫌っていない」という言葉を聞いたから。
 つまり私は彼女の態度や対応を一切見る事無く、本人の口から決定的な言葉を聞かされるまで自分が正しいと信じ切っていたのです。
 むしろキースダーリエ様の殊勝な対応は此方を騙すための演技とまで思っておりました。
 ――実際、本来の姿では無かったとはいえ、それは此方に悪意を持ってなした事ではなく、私達の態度がさせた対応だったのです。
 様々な情報から嘘と真実をより分け、悪意を囁いてくる人間を見極めなければいけない皇族として、私のした事は最低です。
 子供だからと言って許される範囲をとうに超えているはずです。
 それでも私がこうして皇族で居られるのは【水の恵み子】である事と王国が私達に処罰を求めなかったからなのでしょう。
 正確に言えば、キースダーリエ様が王国と帝国の関係に亀裂が入る事を望まなかったからこその今なのです。
 公爵家の人間として友好国を失うような事はしたくはない、とキースダーリエ様はおっしゃったらしいです。
 父上である皇帝陛下は何よりもキースダーリエ様の慈悲に感謝せよとおっしゃいました。
 幾ら私が身分的には上だろうと、いえ、だからこそ皇族として恥じない立ち振る舞いを私達は望まれます。
 公爵家の、しかも相手は他国の人間。
 そんな相手にあのような対応をした事は今後私達が一生をかけて背負っていかなければいけない汚点となりました。
 
「(死しても一生後悔を背負い生きていくなど『私』らしいと言えるかもしれませんね)」

 『前』の時もまた『私』は一生背負う後悔の念を抱いていました。
 あの時『私』は自分可愛さに尊敬していた方を突き放し、その結果として私の尊敬していた方は一生心に残る傷を負いました。
 全てを『私』のせいとするのは傲慢かもしれません。
 ですが少なくともあの時『私』にはまだ出来る事がありました。
 その事に見ない振りをしていたがために『私』は一生弱虫の自分に嫌悪しながら生き続けたのです。

「(そんな生も長くは続きませんでしたが)」

 若くして殺された『私』とこれから長い期間を後悔を背負い償い、自らの咎を雪ぐために生きていく「私」。
 一体何方の方が辛い一生なのでしょうか?
 答えなどでるはずも御座いませんが、少しでも皇族として恥じぬ生き方をせねばいけないとだけは思うのです。
 
 皇族に産まれましたが私は帝位には興味が御座いません。
 ですから今後帝位につく事がないと言われる事自体はむしろ兄上の邪魔をせずに済んだ事に安堵しているくらいです。
 ですがエッシェルトール兄上も巻き込んでしまった事には今でも後悔しか御座いません。
 ご本人は「これで周囲が帝位に付けということなく、研究にぼっとうできるからもんだいないよ」とおっしゃっていましたが、私のせいで負わなくともよいモノを背負ってしまったのです。
 その事が兄上の進む道をどれだけ阻む事か。
 それが分かっていてもこうやって再び巻き込んでしまった自分の身勝手さに嫌悪が募ります。
 分かっているのです。
 本来はこのような私的なお茶会にキースダーリエ様を呼ぶ事すら良くはない行為なのだと。
 海の中にある神殿の事について、という表向きの理由があったとしてもキースダーリエ様と兄であるアールホルン様をお呼びする行為は褒められたモノではございません。
 しかも私はあの夜半ば強引にお誘いしたのですから。




 
 姉上の騎士であるカトルツィヘルとキースダーリエ様が対峙なさっている所を見た時は血の気がひきました。
 既に姉上の命によってキースダーリエ様は一度御命を狙われています。
 その命令を今度はカトルツィヘルが遂行しようとしているのではないかと考えたのです。
 実際は何やら話をしていただけのようですが、それよりも私はキースダーリエ様の姿に何よりも衝撃を受けたのです。
 カトルツィヘルを真っすぐ見据え対峙するキースダーリエ様は月明りに照らされた銀髪が月光を反射し輝き紺色の眸は強い覚悟を秘めて煌いていました。
 私の脳裏にはあの美しく、そして気高い姿が今でも焼き付いています。
 一体私はキースダーリエ様の何を見ていたのだろうか? と幾度となく自分に問いかけてしまう程に。
 更に驚く事実を私は知る事になるのです。
 半ば無理矢理カトルツィヘルから引き離し、そして彼女を部屋に送った私は、その道中の会話によりようやく気付いたのです。
 キースダーリエ様が私の『同類』なのだと。
 その時の驚きと来たら!

「(その後普通に対応できていたか、今でも自信が御座いません)」

 その結果が理由をこじつけてのお茶会の招待です。
 ただでさえ底辺の私に対しての信用ももはやマイナスになっている事でしょう。
 ですが、私は知りたいのです。

 この世界に『私と同じ存在』がいるのかどうかを。
 
 そして居るのならば「理解者」はいるのかどうかも。
 私にとってエッシェルトール兄上のような存在がいるのかどうか。

「(だってこの胸に宿る空虚感は決して一人では埋める事はできないのですから)」

 だから私はキースダーリエ様に「全てを理解している方と共にいらしてください」と言いました。
 きっとキースダーリエ様はアールホルン様といらっしゃる事でしょう。
 
 用意されたテーブルを見て今の自分はとても落ち着きが無い事に気づかされます。
 そわそわと初恋の君を待つような自分に呆れるばかりです。
 それほどまでに私はキースダーリエ様がいらっしゃるのを心待ちにしているのです。――その心に抱く思いは初恋のように甘くも優しくもありませんが。
 
「(多分私はどんな理由を付けようとも、ただ会いたいのでしょう。私と『同じ』人間に)」

 胸を埋める事の無い空虚感を分かち合う、そして『地球』は存在していると肯定してくれる方に。
 そう考えると自身の身勝手さに内心苦いモノが広がります。
 ですが、結局私はその誘惑に勝てませんでした。

「(ああ。私はどこまでも自分本位の存在でしかないのですね)」

 心を占めるソワソワした期待感と自分に対する苦い思いに私は小さく深呼吸をしました。
 もう後戻りをする事は出来ません。
 ならば私は少しでもキースダーリエ様達が不快感を感じる事無く、そして少しでも利があるように取り計らうだけです。
 ――友人になりたいないなど、もはや私が言える事ではないのです。
 そのような事、口に出す事すら許されません。
 
 キースダーリエ様お願いです。
 この一時。
 この一時だけ許して下さい。
 これから私は贖罪のために生きる事になるでしょう。
 二度とこのような機会を得る事も出来ないでしょう。
 
 キースダーリエ様とこうしてお茶会をする機会も二度とこないでしょう。
 だから私は心の中でどれだけ謝り、そして自己嫌悪に陥ったとしても取りやめにする事はありません。

 私は今、自分勝手な心に嫌悪し、そしてキースダーリエ様に心の中で幾度も謝罪しながら、お越しなるなるのを待っています。

 そうやって私は自分の自分勝手さに呆れながらもキースダーリエ様がお越しなるまで目まぐるしく様々な事を考えていたのです。
 ――そんな私を隣にいらした兄上が苦笑しながらも見ていた事にも気づかずに。

しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

憧れの悪役令嬢にちょびっとだけにた3歳児に転生したので、なるべく平和に生きようとおもいます!

山見月あいまゆ
ファンタジー
ベッドから大きな音を立てて落っこちたのは、この国のお姫様、セレナイト。 そこで思い出す!! 自分は、病気で死んでしまったはず… え?何で生きてるの!! 鏡を見ると。あ!おねいちゃんがはまってた、なんちゃらかんちゃらゲームの悪役令嬢!にちょびっとだけ似てる…ほんのちょびっとだけ。 だからと言って、私が悪役令嬢なわけではないとわかる。 なぜなら、悪役令嬢の小さい頃もゲームにうつってたけど、こんな顔じゃなかった! ちょっと似てるけどね。 けど。やった!憧れの悪役令嬢に似てるってうれしい! ん?待てよ。この体、セレナイトは、お兄ちゃんがいる。 名前は、サファイル。 ゲームの中で王子様だった人! ならここはなんちゃらかんちゃらゲームの世界。 何のゲームか忘れた! そのゲームの中で私は…特に何もしない! モブの中のモブ! 王族がモブ… とりあえず、憧れの悪役令嬢は最後、追放されちゃうからそれを回避! みんな平和が一番! 自分の平和は周りによって左右されるもんね。 よぉし。平和のために頑張るぞぉー! ※平和のために頑張る話です。

スラム街の幼女、魔導書を拾う。

海夏世もみじ
ファンタジー
 スラム街でたくましく生きている六歳の幼女エシラはある日、貴族のゴミ捨て場で一冊の本を拾う。その本は一人たりとも契約できた者はいない伝説の魔導書だったが、彼女はなぜか契約できてしまう。  それからというもの、様々なトラブルに巻き込まれいくうちにみるみる強くなり、スラム街から世界へと羽ばたいて行く。  これは、その魔導書で人々の忘れ物を取り戻してゆき、決して忘れない、忘れられない〝忘れじの魔女〟として生きるための物語。

誤解は解きません。悪女で結構です。

砂礫レキ
恋愛
オルソン家の伯爵令嬢エリカ。彼女は亡き母がメイドだった為に異母姉ローズとその母によって長年虐げられていた。 二人から男好きの悪女の噂を流布され、それを真に受けた結婚相手に乱暴に扱われそうになる。 その瞬間エリカは前世の記憶を思い出した。そして今の自分が「一輪の花は氷を溶かす」という漫画のドアマットヒロインに転生していることに気付く。 漫画の内容は氷の公爵ケビン・アベニウスが政略結婚相手のエリカを悪女と思い込み冷遇するが、優しさに徐々に惹かれていくという長編ストーリーだ。 しかし記憶を取り戻した彼女は呟く。「そんな噂を鵜呑みにするアホ男なんてどうでもいいわ」 夫からの愛を求めない新生エリカは悪女と呼ばれようと自分らしく生きることを決意するのだった。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

処理中です...