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王国とは全く違う帝国

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 帝国領に入ってから思っていた事ではあるけど、帝国の街並みは華やかで人々は陽気だった。
 王国はどちらかと言えば荘厳としていて人々も規律を重んじる印象を他者に与える。
 帝都はまだ分からないけど、王都に関していえば学園があるため、学術都市という側面を持ち合わせているせいか重苦しい印象を受ける事すらある。
 と、いうよりもはっきりってしまえば堅苦しい。
 翻って帝国は芸術と音楽を貴ぶ風潮からか、街並みも華やかな印象を受ける。
 海が近いからか人々も陽気で大らかな人柄のようにも見える。
 こちらもはっきりいってしまえばうるさい、とも言えるけど。

「(いや、人柄については私の勝手な印象だけど)」

 帝都に入った私は圧倒的な熱量と華やかに驚きながら街並みを眺めていた。
 位置付け的に王国よりも南にある帝国は気候自体が帝国よりも温暖傾向にある。
 季節は同じだというのに此処まで気温に差があると適応できなくてバテそうだ。

「<帝都に入ったら一層喧しくなったきぃするな>」
「<まぁ国の中心だからねぇ。……それにしてもここまで国の特色が違うとは思わなかったわ>」

 どこか高い格式を感じさせる王都の街並みと真逆ともいえる大らかで華やかな帝都の街並みに圧倒される。
 それは私だけでは無く殿下達やお兄様もだったらしく先程から三人とも驚きの表情のまま街並みを眺めていた。

「<此処まで華やかで騒がしいのが日常だと疲れそう>」
「<オマエってとことん帝国の気性と合わないんだなー>」

 クロイツの声にカラカイが混じっているのは、多分私の楽器演奏の悪癖の事があるからだろう。
 自分でも思った事はあるけれど、此処まではっきりいられると少々イラっとしなくともない。
 影に腕を突っ込んでクロイツを引き出してモフりたい気分だけど、流石に口数少ない大人しい令嬢の猫を被っている今、暴挙に出れるはずがない。

「(それも分かって、やってるだろうから更にイラっと来るんだけどねぇ)」

 何とかクロイツを慌てさせたい所だ。
 さて、なんて返してやろうかな?
 その時、ふと外で犬を盛大に構っている人が目に入った。
 私は内心ニヤっと笑うとクロイツに【念話】で話しかける。

「<……帝国の人達の愛情表現は激しいそうだよねぇ。子猫のクロイツなんか出てきたらもみくちゃにされるんじゃない?>」
「<誰が子猫だ!>」
「<怒らない、怒らない。小さい姿は子猫にしか見えないからねぇ。あ、そうだ。検証のためにも一度試してみる?>」

 カラカイを込めた声音でそういうと、しばしの沈黙のあと舌打ちが聞こえた。
 どうやらやり返された事に気づいたらしい。
 どうやらやり返す事が出来た事が分かり、私は密かに喉で笑う。
 私がやられっぱなしでいるわけないでしょう?

「<ま、帝国の騒がしさには確かに私には合わないと思うけどね。錬金術も王国の方が研究が進んでいるし>」
「<そこ、大事なんだな>」
「<それこそ当たり前でしょう? 私は錬金術師になりたいのであって、音楽家になりたいんじゃないんだから>」

 遊学中は錬金術、というか創造錬金は出来そうにないけど、付加錬金の方はどうにか練習できそうだと思っている。
 付加錬金に関しては魔力の枯渇にさえ気を付ければ、錬成しても最終的に固定させなきゃいいわけだからね。
 一人の時間さえあるならば出来ない事はないと思ってる。
 
「<まぁ一人の時間が出来たらまずあの魔道具が出せるか試してみるつもりではあるけど>」
「<あーあれか。けどよー、たとえ出せても長時間一人になれる時間なんぞ無いから意味ないんじゃね?>」
「<距離が開いてる場合でも出来るかどうか試したいのとなんかあった時の避難場所を確保したいだけだから。気分的なモノだよ>」
「<いや前者は兎も角後者はどうした? 賓客扱いのオマエ等が緊急避難するってどんな状況だよ>」

 完全に呆れた声で言われたけど、最悪は考えておいてもいいと思わない?
 まぁ確かに私とお兄様はともかく殿下達という王国の次代がお二人ともいらっしゃるわけだから、全員で逃げる状況なんてありえないけど。
 あるとすれば帝国内で突然クーデターでも起こった時ぐらいのはずだ。

「<クーデターとか起こりそうな程帝国が荒廃しているなら、私達の受け入れなんかしないだろうし、此処に至るまでの道中で異変に気づくだろうけどね>」
「<予想以上に物騒な事考えてたな、おい!>」
「<有り得ない最悪の事態って奴だって。それだけは無いから。緊急避難場所っていうのはついでだって、ついで。実際の所、此処まで距離が離れても魔道具が発動するか試したいだけだって>」
「<なら、物騒な事いうんじゃねーよ>」
「<有り得ないからこそ笑い話に出来るんだって>」

 そう、私だって本気でそんな物騒な事が起こるとは思ってない。
 何かで読んだ事がある。
 戦争やクーデターなど、人の命すらかけられた何かが起こる場合、悟られないように普通に生活していたとしても緊張感などが自然と滲み出てしまうらしい。
 特に戦争が起こるか起こらないかの瀬戸際の場合、人は刹那的な思考に陥りやすく、何時もよりにぎわうが何処か享楽的な部分がにじみ出て長期化する事で国は疲弊し荒廃していくという話だ。
 何も知らされる事がない一般人がそうなるのだ。
 ならば実際に起こるか起こらないかを明確に知る立場に騎士や貴族など、幾ら自然を装っていても滲み出るモノがあるだろう。

「(クーデターの場合は隠しきる場合も無きにしも非ずだろうけどね)」

 道案内兼監視? の帝国側の騎士様達からそういった気配は感じられなかった。
 これは私が鈍いからじゃないと思う。
 そういった事には私よりも聡いであろう殿下達もそういった警戒はしていなかったのだから確実だろう。
 だからこそ私はこうやって笑い話やたとえ話の一つとして簡単に口に出来るのだ。
 とはいえ、こんな物騒な事を明け透けに言えるのはクロイツぐらいにだけど。

「<それにしても、賑やかだねぇ>」
「<そりゃまた話題転換が急だな。オマエの場合話を逸らしてるのか、本気で言っているのか悩む所だけどな>」
「<今回は話を逸らしてるつもりはないけど?>」
「<今回は、かよ>」

 もはや通常運転ともいえるクロイツの突っ込みに私は密かに笑う。
 今の彼の言動こそがきっと彼の本質なのだろうと思えるから。

 フェルシュルグはこの世界を認めず、自身の死すら他人事……自身の求める世界に戻るための手段としか考えていないようだった。
 生きたいと思えないけど積極的に自死する気も無い、自身の言動が緩慢な自殺だと認めながらも、フェルシュルグは決してそれを止めようとは思っていなかった。
 そして彼はよりにもよって私の前で自殺した。
 私は一生“フェルシュルグ”を嫌い続けるだろう。
 
「(フェルシュルグもそれを望んでいたっぽいのが更にムカつくんだけどねぇ)」

 けれど、クロイツからはそういった自滅思考? は感じられない。
 私の中でフェルシュルグとクロイツは同一でありながら別人だ。
 
 クロイツとは最初の頃はお互い手探りで距離をはかっていた。
 敵対していたのだから当然だけど、何処まで素を見せれば良いのか悩まなかったわけじゃない。
 けど、今の私にとってクロイツは明け透けにモノを言う事が出来る相手になった。
 同一でありながら別人と認識しているクロイツだからこそフェルシュルグの事も言うし、だからと言ってフェルシュルグに対して抱いている感情をクロイツに感じる事は無い。
 自分でも全く以て不可思議だけど、私の『彼』に対する感情の数々は何処か落ち着く所に落ち着いているのだ。
 それは正式に使い魔としての契約をして盤石となった。
 あれ以降大きな変化はない。
 けど、確かに変わった事もあるのだ。

「<クロイツって意外と突っ込み気質で真面目だよねぇ>」
「<常識人といえ、常識人と>」
「<ええー。それは違うでしょう。常識人が言っちゃいけない事だって平気で言うくせに>」
「<そりゃお互い様だ。オマエだって『日本』での道徳観念と常識が根付いている癖に。結構平気でそれに反した事を言うだろうに>」
「<根付いたモノに関して言えば、それこそ転生者の性って奴でしょう?>」

 『日本』では成人していたのだから、余計根付いたそれらは決して私の中から消える事も上書きされる事も無い。
 多分、私以外の『転生者』や『転移者』だって同じだと思う。
 よっぽど幼い頃に『転移』でもしない限り私達が根付いたモノを上書きしきる事は出来ないはずだ。
 
「<だから私は自分を常識人だなんて思った事はないけど?>」
「<……まぁ常識人だったらこうして一緒にいねーか>」

 何処か諦めたような溜息が聞こえたけど、クロイツの言葉に私は内心笑みを深める。
 突っ込み気質で真面目で、だけど優しいだけじゃないクロイツだからこそ私はこうして共に居れる。
 人でなしである私と全く同じとは言わないけれど、そういった側面をクロイツも持っている。
 これが優しいだけで常識を盾に、道理を押し付けてくるような人間だったら私とは一生分かり合う事は出来なかった。
 クロイツがそういった輩でない事が嬉しい。
 そう、私はクロイツがクロイツである事が嬉しいのだ。
 フェルシュルグには決して感じなかった親愛の情をクロイツに抱いて私は内心笑う。

「<ま、類は友を呼ぶって奴だから諦めてこれからもよろしくね、クロイツ?>」
「<オマエがそーいう奴なのは分かってから諦めてやるよ。――普通なんて詰まらねーモンに落ち着くんじゃねーぞ、リーノ?>」

 密かにクロイツと笑いあっていると何故か馬車が止まる。
 まだ王城にはついてないのに? と思っていると扉から控えめなノックが聞こえた。
 殿下達も首を傾げる中、扉に一番近かったお兄様がカーテンを引き、相手を確認する。
 するとマクシノーエさんがニッコリ笑って立っていて、後ろに満面の笑みの帝国側の騎士様の姿が見えた。
 どうやら危険な状態ではないらしいと判断したヴァイディーウス様はお兄様に開ける許可を出す。
 それを受けて扉を開けたお兄様が僅かに身を引くとマクシノーエが半身だけ馬車に乗り込んできた。

「帝都に来たら是非最初に見て欲しい所があるらしいのです。どうしますか?」

 マクシノーエさんの言葉に私達は顔を見合わせる。
 けれど特に身の危険がある訳でもないし、知識を得るための遊学が名目である以上、その誘いを断る理由もない。
 私達は少し不思議に思いながらも頷くと馬車を降りた。  

 馬車を降りると熱に温められた風が頬を撫ぜる。
 今更だけど、馬車には温度調整機能でもついているのかもしれない、と思った。

「(王族が乗る馬車だし、それくらいありそう)」

 季節がはっきりして一年を通じて寒暖差がある王国と違い帝国は一年を通して温暖な気候らしい。
 イメージ的には『南国』あたりが近いかもしれない。
 時期を考えれば王国もそろそろ温かくなる時期だが、ここまで暑いとは感じない。
 もう少し薄着をしないと汗が止まらなくなるか熱中症にでもなりそうだ。
 そんな事をぼんやりと考えながらついてくままに少し歩くと、今度は少しひんやりとした風が頬を撫ぜる。
 不思議に思い少し先を見つめると、あるモノの存在に私は驚きに目を見開いた。

 広い公園の中央に位置する場所に大きな滝があったのだ。

 いや、近づいてみるとそれは滝ではなかったが、遠目に見れば見間違える程に大きなモノだった。
 そこには滝と見間違う程の水量を湛えた噴水のようなモノが鎮座していたのだ。
 円形の形をした噴水は外側を一周するだけで軽い運動になる程大きく、中心に円形の床を護る様に複数の滝が囲っていた。
 そして、その中心部に渡れるように道が出来ていた。
 中心部の何かを護るように高い位置から三方に水が流れる様は滝を彷彿とさせた。
 どうやらこれが私達の位置から滝のように見えたのだろう。
 中心部に何があるのかと、目を凝らして中心を見つめると朧気に人型の像のようなモノが見えた。
 滝の水が光を弾き煌いている。
 そんな三方の滝に護られるように囲まれた中心部に置かれた像とそれを囲む石壁はどこか清らかな、言ってしまえば神聖さすら感じられる気がした。

「……祠?」
「おや? お気づきになりましたか。私などは最初見た時は分かりませんでしたが」

 マクシノーエさんの驚いた声に私は苦笑を返す。
 別に確信があった訳では無いのだ。
 ただ最近は常時発動している【精霊眼】で水の精霊が中心の像を周囲を楽し気に舞い踊り、濃淡様々な青色の光を放っているのが見えたのだ。
 しかも水も清められているのか不純物が感じられず透き通っている。
 太陽光を水が弾き飛沫と共に煌ている。
 中心部の像と囲いの造り方がただのオブジェには見えなかったのだ。
 ただ観光名物として見るには神秘性を感じる像とそれを囲む石の囲いや、色々見えたモノを総合的に考えて「祠」のようだと思ったために口についただけ。
 偶然、口についたモノが正解だった程度の話だった。
 少なくとも私にとってはそうだったけれど、殿下達は滝の荘厳さに見とれていたのか、そもそも精霊が視えないからか、気づかなかったらしく、私とマクシノーエさんの言葉に何処か違う視点で見たあと頷いていた。
 
「言われてみれば、確かにそういったモノに見えるな」
「すごいですね。水が透き通って下まで見えます」

 噴水のようなモノに近づいて水をのぞき込む殿下達に帝国側の騎士様方が誇らし気に、そして微笑ましそうな視線を向けている。
 同時に一発で祠だと気付いたからだろうか?
 私には賞賛の視線が向かってきていた。
 どうやら考えていたよりも帝国側の騎士様方は素直な方々らしい。
 だからこそ案内役に抜擢されたのかもしれないが、監視役としてはあまり向かない気もする。

「(監視役と言うのは考えすぎかな?)」

 完全アウェイで何かやらかす程愚かではないと思われているならば良いのだけれど。
 私は内心そんな事を考えながら改めて噴水を見上げる。

 祠とは言え、観光名所としての側面もあるのだろう。
 滝のような水が注がれている頂点には意匠を凝らした飾りが彫り込まれているし、魔力も感じる。
 魔石か魔道具でも使って水を清浄にし循環でもさせているのかもしれない。
 中央に至る道も白い石で作られていて汚れ一つ見当たらない。
 
「(普段は中央まで行く人を制限しているのかもしれないなぁ)」

 常時人が行き来しているようには見えない。
 だが、それにしても中心にそびえる滝は視覚的にも涼しげで暑さが和らいだ感覚に陥る。
 帝都に相応しい華美さがありながらも祠のような威厳のようなモノも感じる。
 遊び心もあるのは音楽と芸術の国を自認する帝国らしいというべきか。
 見ていて楽し気な気分と清廉な気持ちになれるとは王国ではあまり見ない様式だと思った。

「<王国じゃぜってー見れねー建造物ではあるな>」
「<カラーに合わないもんねぇ。……まぁ現実的にも無理だしね>」

 季節がはっきりしてる王国では冬にあたる時期には雪も降る。
 祠として機能している以上その季節だけ水を止める訳にもいかないだろう。 
 だからと言って魔道具で冬の時期だけ水が凍らないようにするなんてどれだけの魔力を消費する事か。
 必要な魔力量を考えると頭痛を感じてしまう。
 こういった様式の建造物は一年中温かく雪など振らない帝国ならではの造りだと思った。

「<夢のねー発言だなー>」

 そういうクロイツも喉で笑い、呆れている様子は全く見られない。
 概ね私の考えている事と同じ思考で同じ結論に達したのだろう。
 その上で、こうしてカラカイ混じりに話しかけてきているだけで。

「<何? 此処で私が「まぁこんな素晴らしい物が王国で造れないなんて残念ですわ。こんなに美しいのに」とか言って欲しい訳?>」
「<いいや? そんな事オマエが言い出したら、演技か策を疑うな>」
「<よく分かっている事で……と言いたいけれど、それはそれで失礼な話ね>」

 確かにこんな状況だろうと私が本心から乙女心全開の言葉を思いつくわけがないんだけどさ。
 そこまで言い切られると流石に思う所があるのですが?
 と、思いつく限り乙女っぽく、それこそ外見相応の言葉を思い浮かべてはみたけど……。

「<……うん。人には向き不向きがあるよね>」
「<そこで自分が納得しちまうのも問題なんじゃねーの?>」
「<うるさいよ、クロイツ>」

 結局、私に乙女心を求める方が間違っているのである。
 【念話】でクロイツとじゃれてると帝国の騎士様が私達の横に立ち滝を誇らしげに見上げた。

「この祠はある一時期を除き一般の方は噴水の中に入る事は出来ません。そこの道の入口を私共が閉鎖する事は無いのですが、神々の御力が働いているのか、見えない壁のようなものが行く人を阻むのです」

 騎士様の説明に私達の視線が自然と中央の祠に続く道の入口に集まる。
 数段の階段と道、そして柵のようなモノが細かい意匠が施された状態で佇んでいる。
 だが、そこに何かを阻むようなモノは見受けられない。
 けれど騎士様の一人が手を伸ばすと、其処に壁があるかのように騎士様の手がそれ以上先へ進む事を阻んでいた。
 まるでパントマイムのようだと思ったけど、ここで騎士様が私達を騙しても何も何もならない。
 実際見えない壁がそこにはあるのだろう。
 僅かに驚く私達に帝国の騎士様は苦笑して私達四人を見回した。

「ただし一部の方々はどんな時でもこの道を通る事が出来ます」
「王族の方などですか?」

 お兄様の言葉に騎士様は首を横に振り、何故か私とヴァイディーウス様、そしてお兄様を見る。

「あの祠は水の女神を祀ってあるが故に水の加護が厚い方……水の貴色をお持ちの方と水の女神の親神であらせられる闇の創造神様の貴色をお持ちの方は何時でもこの道を通る事が出来るのです」

 ああ、成程。
 お兄様は水の貴色である青色の眸をお持ちだし、私とヴァイディーウス様は【闇の愛し子】だ。
 そういった理由ならクロイツも通れるかもしれない。
 つまり四人の中で【光の愛し子】であるロアベーツィア様だけ通れないって事か。

「<それはそれで珍しいパターンだな>」
「<うん。お兄様だけが通れない場所とかはあるかなぁと思ってたけど>」

 【神々に愛し子】はそういった場合優遇というか特権的なモノが与えられる事が多い。
 特に【闇】と【光】は双子の創造神として対等であり、どちらかのみという事はあまりない。
 だからこそ【光の愛し子】であるロアベーツィア様だけ通れないというパターンは珍しいと言える。

「そういった場所もあるのですね」

 ヴァイディーウス様も似たような事を考えたのか少し不思議そうに噴水を眺めていた。
 仲間はずれという形になってしまったロアベーツィア様だけど、どうやらその事に対して思う所はないらしく、ただ「そうか」と納得しているようだった。
 ここで人を羨む事無く素直に事実を受け入れる所はロアベーツィア様の美点なのだろなぁと思う。

「とはいえ、ある時期はそんな事関係無く道は開かれ、人々はその時期になるとこぞって祠に詣でる事が出来るのです。……今がその時期でない事が残念ですね。その時期はこの場所もまた違う顔を見せますので」

 そんな説明の後「入ってみますか?」と問われたけど、私を含めて三人ともそこまで興味は無いし、四人で入れないのなら、と入らない事を選んだ。
 と言うか入らなくても素晴らしさは分かるし、祠まで行くと下手すると濡れそうだという理由もある。
 まさか皇帝との謁見を濡れた姿でするわけにもいかないだろう。

 私達は心なしか残念そうな帝国の騎士様を促して馬車へと戻る。
 他国の人間だとは言え誰かが詣でる所を見たかったのだろうか?
 帝国の騎士様の言動を少し不思議に思いながら歩いている最中、ふと後ろを振り向くと相変わらず濃淡様々な青色の光を放ち精霊が楽し気に舞っていた。

「(あれだけの精霊が舞飛んでいるという事は本当に祠として機能しているって事かな?)」

 帝都の中心部に祠を立てるなんて初代皇帝は一体何を考えていたやら。

「(しかも創造神じゃなくて水の女神だしね)」

 けどまぁ帝国の歴史に詳しい訳でも無く、そこまで興味も沸かない私は、そんなささやかな疑問を溜息一つで霧散させると、これからの行かないといけない、失敗出来ない謁見に意識を傾けるのだった。


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