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交流の始まりは訓練場にて?

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 先生方から忠告を受けた。
 私の悪癖を知っているからこその忠告なんだと思う。
 確かにのめり込みタイプで周囲の警戒が疎かになるのは私の悪い癖ではあるんだけど、まさか明確に悪癖と先生方に認識されてるとは思わなかったんだよねぇ。
 悟られないように注意……しているつもりだったけど、考えてみればバレるよなぁとも思った。
 だってさ錬金術にしろ護身のための戦闘訓練にしろ集中しない訳にはいかないし。
 特に座学の時集中し過ぎて先生の話がすっぽ抜ける事だってあった訳で。
 そう考えれば、まぁ知っていても仕方ないし、悪癖と認識されても仕方ないよねぇ、って話かもしれない。
 直したいとは思ってるけど、簡単に治るなら悪癖とは呼ばないよね、って事なんですけどね。

 正直問題は其処じゃない、と思う。
 本当に私の悪癖だけが忠告の理由なら良かったんだけどね。

 今の所そう考えるしかない訳だけど、その時の先生方の雰囲気とかからそれだけじゃないんだろうなぁと考えたり。

 だからと言って出来る事は無いから、取り敢えず忠告通り周囲をそれとなく警戒しつつ殿下達の交流は始まった。

 そんなに期間をおかず私とお兄様が城に呼ばれ、両殿下と交流して自宅に帰る。
 
 うん、何となく突っ込みどころがあると言えばあるよね。
 お兄様が一緒な事は全く問題はない。
 むしろこのまま最後までお兄様と一緒がいいなぁと思うくらいだ。
 お兄様の参加に関しては向こうも私が婚約者候補と想定しての交流じゃないと対外的にアピールしたいんじゃないかな? と思ってる。
 年頃と家格が釣り合っているっていうかーなーりー疑われる立ち位置ですもんね、私って。
 お兄様がいても邪推する人間はするだろうけど、一応予防線を張ったんじゃないかな。
 兄殿下が居るのもそうかもしれない。
 ただ兄殿下ぐらいの年の差なら婚約者候補と私が疑われる事も充分にあり得るんだけどね。

 お兄様が一緒のはずなのに私が両殿下を天秤にかけている、なんて噂が流れたらどうなるんだろう?
 いや、私の年では流石に有り得ないと思うんだけど……貴族だしなぁ。

 どっちの殿下が言い出した事かは分からないけど――十中八九兄殿下だと思うけど――上手くいけばいいんですけどね。

 とまぁそんな色々な思惑の元私達は四人での交流を続けていた。


 交流と言ってはみたけど、より正確に言えば訓練場で弟殿下が訓練している間、私とお兄様、そして兄殿下が見学しつつ色々な会話をしながら過ごした後に城の応接間? みたいな所で四方山話をして残りの時間を過ごす。
 そんな時間の過ごし方がパターンになってます。
 私にとっても騎士の方々の訓練は見ているだけでも勉強になるし問題ないと言えば無いんですけどね。

 ただ殿下、婚約者候補の方にも同じ事したら残念のレッテル張られて対象外にされますよ?
 訓練に夢中の弟殿下も、話す内容が軍略に偏っている兄殿下も、ね。
 
 これも私は対象外だと言う一種のパフォーマンスなら分かるんですけど、兄殿下はともかく弟殿下は素な気がします。
 
「(まだまだ外で体を動かす事の方が楽しいお年頃? ってやつかな?)」

 呆れる程色気が無いのはむしろお願いします! って感じではあるけど、此処まで異性扱いされていないのは、それはそれで今後の私の他の人との交流に差しさわりがあるような?
 それでも訓練の見学も兄殿下との軍略その他のお話も面白いからなんとも言えないものである。

 もしや私自身にも色気が全くない事も原因の一つか?

 これ以上考えると同じ穴の狢、というか色々自分の身にも降りかかってくるからやめよう。

「(そう言えば、それなりの回数、王城に来たけど令嬢サマとは一度も会ってないなぁ)」

 あれだけ弟殿下に盲目で猪突猛進の気がありそうな人だったし、私が交流していると分かれば乱入してくる事ぐらいあるかもしれないと思ってたんだけど。
 訓練場に場違いだったお嬢サマ達も殆どあわないし。
 まぁこっちに関しては何回か、やっぱり場違いな程着飾ってきて見学していっていたけど……両殿下にも騎士達にも見向きもされてなかったけど。

「……殿下が好きなら良い機会と考えて押しかけてきそうなんですけどね」

 特に誰かにあてた言葉じゃなかったけど、ばっちり聞かれていたらしい。
 兄殿下が私の疑問を正確に把握して苦笑しつつ答えをくれた。

「彼女は血を見るとめまいがすると言って一回しか来なかったよ。むしろロアがこうやって訓練する事すら野蛮だと引き留める始末だ」

 令嬢サマの事を語る兄殿下の目は冷めていて「あぁ嫌いなんだ」と一発で分かる雰囲気だった。

「武の才能が一切ないのならば、無理にさせるつもりは毛頭ないけれどね。ロアには才能があり、それを伸ばす努力を惜しむ事も無い。あの子から武術を取り上げようとするなんてね。しかも自分の価値観だけでそう判断するなんてロアだって受け入れる事なんて出来るはずがない」

 王家の判断に対して自分の考え、価値観を押し付けるなんて不敬処じゃないしなぁ。
 むしろ将来王族に嫁く者としての資質に欠けていると判断される可能性の方が高い。
 実際兄殿下は良く思っていない。
 多分弟殿下が本気で令嬢サマを望み、令嬢サマ本人が相当努力しない限り嫁ぐのは難しいと思う。
 このまま何事も無ければ弟殿下の伴侶は王妃様って事だしね。

「よく、訓練場に押し掛けてた挙句殿下を連れていく、なんて事が起こりませんね」

 あのパーティーでの言動を考えると、それくらいしかねないと思うんだけど。
 と素直な気持ちで云うと、兄殿下は更に冷たく笑った。
 ……私に対してじゃないと分かっていても怖いのですが。

「なかったと思うかい?」

 あったんですね。
 そしてそれが原因で出禁になったんですね。
 だから此処で令嬢サマに会う事はない訳ですか。
 
 令嬢サマ、貴女自分の首を絞めるのが趣味なんですか?

 同情するつもりのない明らかに敵となりそうな相手なんだけど、流石に其処まで将来の願いと反対の言動をとられると同情すら感じてくるんですが。
 私の同情など火に油を注ぐ事になりそうですが。

 強烈なお人柄だし会わなくて良いのなら会いたくはないですけどね。

「ちなみに此方に見学にいらっしゃる方々などは?」
「ロアの認識が歪む原因はどう思われても仕方ないよね?」
「(あ、はい。対象外なんですね)」

 兄殿下サマ、貴方から黒いモノが出ている気がするのですが?
 幾ら闇属性でもお腹真っ黒属性ではないんですから少し自重しませんか?
 「闇=腹黒」を確定されると困るんですよ。
 私も【闇の愛し子】として腹黒が確定してしまうじゃありませんか。
 別に腹黒じゃないですよ、私。
 
「<隠れちゃいねーな、確かに>」
「<オープンで黒いって事? 失礼な>」

 別に其処まで黒い訳でもないと思うんだけど?
 ただ割り切りが異常に良いだけで。
 ……別に自分は真っ白です、とも思ってはいないけどね。
 むしろ真っ白な人がいたら、苦手だし絶対近づかないと思う。……産まれたばかりの純真無垢さはその時だからこそ受け入れられている訳で、成長しても真っ白な人間はむしろ人として不自然だと思うんだよね、私。
 純粋な部分を持ち合わせて成長した人まで嫌ったりおかしいとか言うつもりは流石にないんだけどさ、苦手と感じるだろうとは思う。
 
「(物語の聖女様とかモロそのタイプだから『前』から苦手なんだよねぇ)」

 正直キャラとして物語に必要なのは分かってるけど好きになれなかったなぁ。
 『ゲーム』のヒロインもある意味そっちのタイプだしね。

 まぁ私の好みはともかくとして、兄殿下は策を弄する王族らしい方となるんだろうけど。
 黒い発言が所々に出されると素が垣間見えているようで心臓に悪いです。
 順調に仲良くなっているように思われたらどうしよう?
 出来れば私が領地に戻ったら途絶える程度の薄い関係がいいんだけど。

 今の王都は私にとってあまり長居しちゃいけない所みたいだから。
 とくに王城は私を害する意志を持つ人間が確実に存在するのだから。
 出来れば何事も無く領地に帰りたいモノである。
 だとしても近いうちに拠点を領地から王都に移さないといけない日が来るんだろうけど。
 今からその時が憂鬱だわ。

 などと思考が逸れた事に気づかれていないだろうに、兄殿下はニッコリと微笑んだ……黒いものを周囲に醸し出しながら。

「訓練場を使っている人間の総意でもあるけどね」

 追い打ちをかけてませんか、殿下?
 いや、トドメかな、この場合。
 お嬢サマ方ご愁傷様。
 大半は弟殿下狙いだろうけど。
 ま、殿下と対峙していた騎士をあれだけ罵倒したら、どんなお綺麗な顔していても対象外だろうけど。
 どうやら放たれた言葉を報告している存在もいるみたいだし、弟殿下には筒抜けだと思う。
 騎士達に対して親近感? 仲間意識? を持っている弟殿下が騎士に対しての理不尽な罵倒を聞いて良い気がする訳がない。
 色々盲目になってる時点で対象外って事になるんだろうね。
 自業自得としか言いようが無いけど。

「どっちもどっちという事かもしれませんわね」

 血が怖いと装う――素かもしれないけど――令嬢サマも場に合わない格好で周囲を罵倒するお嬢サマ達も、最終的にいきつく所は同じだと思う。
 つまり「対象外」ってレッテルが張られる。
 同世代の女子が減るのは歓迎しないけれど、アホが残っても困る。
 貴族がアホばっかりだとその内国が傾きそうだし。
 お父様が宰相である内……継いだお兄様が宰相である内はそんな馬鹿みたいな理由で国が傾かないで欲しいモノである。
 マトモなお嬢様方が沢山隠れている事を願うばかりである。
 
「弟の性格を知っていての言動だからね。私達は覚悟の上と判断しているよ」

 弟殿下が無自覚であると分かった上でのこの所業。
 兄殿下様、貴方、本当に侮れない方ですね。
 これで私のように『知識』がある訳じゃないんだから、恐ろしいのだ。
 お兄様といい、兄殿下といい、この世界は神童と呼ばれる子供が多いのかねぇ。
 いや、そうあらねばならない、のかな?
 子供らしくいられる立場にはいないって事なのかもしれない。
 ……その割には賢すぎる子供とアホな子供の差が激しい気がするけど。

 中間に会った事の無い私にしてみればこの世界は極端になる事が多いのかな? とか思っちゃいそうである。
 いや、そんな馬鹿な話有り得ないと分かってるんだけどね。

 まぁ令嬢サマにしてもお嬢サマ方にしても自業自得。
 私の大切な人達に迷惑が掛からないなら何の問題もない訳で、上手くいけばこのまま関わる事も無く、残りの王都滞在の時間を過ごせそうである。
 拠点を王都に移した後の事はその時考える事にした。
 その頃には情勢も変わっているだろうしね。

 ま、いう事があるとすれば――自業自得、ご愁傷様である。


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