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ネスト
しおりを挟むゴブリンは、どこにでも出没する下等の亜人種と現地人からは考えれているが、文化圏に暮らす人間や亜人種達とは絶対に相容れない生態を持つ。
その代表的な例は繁殖行動にある。
ゴブリンに雌は居ない、ではなぜ数を増やせるのかの言えば、それは他の生物の子宮を借りて繁殖すると言う悍ましい生態を持ち、哺乳類の子宮であればゴブリンは子種を仕込む事が出来る。
宿主は腹を食い破られる様に子供を産み、生まれたゴブリンはその死骸を餌に成長する。
そして稀に、宿主である雌個体の影響を受け、変異したゴブリン以外の強力な人型の魔物を生む。
それが豚の様な鼻を持つ大型の魔物オークや、更に一回り大きく全身から猿の様な毛を生やしたオーガ、更にはサイクロプス等がそれだ。
ナオヤはヴィータに連絡した後、すぐに女性や子供たちが攫われた方角に当たりを付けた。
畑を踏み荒らした跡が南側の方へ残っている、すぐに後を追い走り出す。
いくつもの畝を突っ切り走りながらヴィータへ連絡する。
「ヴィータ、南へ移動する。探知機を入れたから追いかけて来てくれ」
「了解した。補足している」
さっきまでゴブリンが残っていた事を考えて、ナオヤはまだ遠くまで行っていないと思いその痕跡を徒歩で追いかけた。
痕跡を見失わない様に、なおかつ出来るだけ立ち止まらず走って。
かなりの距離を走った辺りで、額に汗を浮かべたナオヤは馬を使わなかった事を後悔し始めた、だが戻っても居られない。
痕跡は田園の南にある森へ続いている様だった。
「森に入るぞ、まだかヴィータ」
息を切らせて、焦りの色を見せたナオヤへの返事は、畝沿いに育てられた植物を押し倒し、飛び出す様に表れたEBの姿で答えた。
「待たせたな」
そう言って答える後ろから、ひょっこりとテスカの彼女が顔を出した。
「イーノイ? なんで… 魔学研は?」
「ナオヤさんは、また危険な所に一人で行く気だったんでしょ?」
「着いて来ると聞かなかったんだ」
「ヴィータ。危険だってわかって__」
「ナオヤ、たまには彼女を信用しろ」
被せる様にヴィータが言った。
「けど… 相手は」
「分かっている」
「ナオヤさんは全然わたしの事、知らないんだなぁ」
イーノイは何処か余裕気な表情でバギーから降りた。
彼女は魔学研支給の黒いローブを着ていて、その細い腰に手を遣り仁王立ちしている。
言われてみれば、ナオヤは彼女の能力をあまり知らない。
物理化学をヴィータにレクチャーされ、机に向かって悩んでいる姿は見た事がある。
だがそれに何の意味があるのかも、その難しい内容を見てナオヤは引いてしまっていた。
そして彼女が魔法術学研究所で何をしているのかも然り。
だがここに来てしまったものは仕方がない、そう考えを割り切りながら、荷物を出して装備していくナオヤ。
一度パンツ以外の全部を脱ぎ捨てる。
ナオヤのボクサーパンツ一丁の姿を見て、イーノイが目を丸くして両手を口元に当てている、それが恥ずかしいのかナオヤは後ろを向いて、特殊繊維で編み込まれた薄型のボディアーマーを着る。
全身タイツの様だ、その上から森林迷彩のBDUに着替え、いつもの重いプレートキャリアやパッド類を装着し、ヘルメットを被り、ゴーグルの電源を入れる。
アサルトバックパックはヴィータが背負い、その上からヴィータも森林迷彩のポンチョを被った。
久しぶりのフルセットの装着にグローブをはめた手を握っては開くナオヤ。
センシングされたゴーグル内に映るHUDは、GPSの情報を利用した位置情報と、ヴィータのセンサーが感知した情報が投影される。
イーノイとヴィータにフレンドリーマーカーのタグが付いた。
使い慣れたアサルトライフルはロングバレルに変えられ、バレルの下には40ミリの擲弾発射機がアドオンされている。
ナオヤが装備の点検をしている間に、連射式のショットガンと、そのマガジンポーチを首から下げたポンチョ姿の一種異様なアンドロイドのヴィータが、バギーを押して森に入っていき、深い茂みの中にそれを押し込んで、カモネットを掛け、枯草や枯木を乗せて隠蔽していた。
森の中を痕跡を辿りながら進む中、静かにナオヤは言った。
「相手はゴブリンの群れなんだけど、農園主の集落が襲われて、女性や子供が攫われた、状況は良くない」
「まだ生きている確率は?」
「正直わからない」
「時間が経っているなら、種を仕込まれている可能性もあるぞ」
「わかってる、だけど…」
農場の畑で痕跡を探すのは簡単だったが、森の中では解り難い、捜索のスピードは確実に落ち、ナオヤは段々と焦りを見せて来た。
「この装備はちょっとやりにくいな」
刃渡り40センチほどの着剣用ナイフを振るい、行く手を遮る草木を掻き分けながら、ナオヤが愚痴る。
「ナオヤさん、たぶんこっち」
イーノイが進む足元をよく見ると、僅かに苔を踏みつぶして引き摺った跡があった。
イーノイは森をよく知っている、なにせ小さい頃からこの環境の中、一人で生き抜いてきた鋭い感覚がある、それを頼りに跡を探し進んだ。
農場として開墾を諦められたその森は、地面の高低差が激しく、大木の根が至る所を這っており、朽ちた倒木や雑草で見晴らしが最悪だった。
そんな中進むと、木々の感覚が開き、少しだけ見晴らしがよくなった辺りでヴィータが何かを感知し、ハンドサインを出す。
そのまま3人は草むらに隠れる様に身を低くし、様子を見ていると、離れた場所から草を掻き分け走るような気配が近づいてきた。
ゴブリンだ、それも5匹。
追い立てられるように急いで、ひと固まりで走っている。
手にはこん棒や、刃こぼれの激しいマチェット、藁を集めるピッチフォークなど、人間から奪ったか、或いは盗んだであろう道具を武器に、走っていく。
3人は目配せし、ある程度の間隔をあけその集団を尾行した。
すると、大きな大木の根本に穿たれた、大きな洞穴にゴブリンたちは入っていく。
「あの中か」
「あれだな」
ナオヤが言いヴィータが同意しイーノイは首肯した。
「そっちへ行ったぞ!」
逃げるゴブリンの集団の後ろでマヘスの戦士が大声で叫ぶ。
「まかせなッ!」
草むらから姿を現した女のエルフェンが矢を3本番えた弓を放ち、側面から3匹同時に仕留める。
「逃がしはしない」
口元に笑みを湛えた人間の女が、魔力を帯びた小ぶりの枝状触媒を真横に振るうと魔磁場に沿って緑色の粒子が煌めく。
瞬時に水蒸気の奇跡を残した衝撃波の刃が、2匹のゴブリンの胴を引き裂く様に真っ二つにした。
「オウゥラッ!」
気合一閃、小盾を左腕に付けた剣士が掬い上げるようにゴブリンを真っ二つする。
追い込んだゴブリンの集団を仕留めたのは冒険者のパーティだ。
草原の少し離れた場所でも他の集団が、慣れた様子で一塊のゴブリン達を殲滅している。
「おかしい… やけに多い…」
マヘスの戦士がぼやくと、その集団は森の方を睨みつけた。
そこへゴブリンを包囲して追い込む作戦を立て、共闘していた他のグループが近寄ってきた。
彼らはそれぞれ別個にだが、エルダニア南部に広がる農園に出没するゴブリンの討伐依頼を受けた複数のグループ、合計20人程の冒険者の集団だ。
南から北方向へ広い田畑に潜むゴブリンを追い立て殲滅していく内に、自然と集まりそのうち連携を取り合い、最終的にこの森周辺に集まってきた。
皆その森の方向を見遣り、横一列の陣形で森へ入っていく。
・・・ブオォォォオォ!!・・・
「オークだ!」
集団の内の誰かが叫ぶ。
「畜生やっぱりか」
マヘスの戦士が仲間3人に目配せし、その場所へ急ぐと、他グループのリーダーの一人がその魔物と対峙し、左右に数名ずつ遠距離攻撃が出来る冒険者が取り囲んだ状態だった。
オークの身長は2メートル半ば程もあり、肩にかけ大きく隆起した背筋から太い首を経て、猪のような頭部を前屈みの姿勢で保ち、既にその体には無数の矢が刺さっているが、それを気にすることもなく、何も持たない両手をだらりと垂らし、鼻や口から飛沫を飛ばして肩を揺らして荒く呼吸している。
一方対峙しているのは、手足の先端と胸板に鉄製の鎧を装着し、鉄の盾と剣を構えた人間の剣士だ。
「一体に気を取られるなッ!」
誰かが注意を促すと、それを切っ掛けに戦闘が始まった。
まさに猪突猛進。
オークは一度短く咆哮を上げ、対峙した人間の剣士に突進する。
盾を構えたままの格好で、遮二無二掴みかかるオークに敢えて盾を掴ませ、闘牛士の様にひらりと躱す瞬間、死角から構えた剣で脇腹辺りにオークの勢いを利用して剣を突き立てる。
わき腹を裂かれたオークは盾を弾くが勢いそのままもんどりうって転げる。
が、すぐに立ち上がる。
「チッ… 浅いかッ!」
剣士は舌打ちするが起き上がったオークに周りから遠距離攻撃が殺到する。
無数の弓が突き刺さり、魔術師が発した衝撃波の刃が地面に生えている草花を蹴散らし、オーク皮膚を抉り弾ける。
1対多勢の戦いは、一人の剣士が引付役となり、それに合わせて遠距離からの波状攻撃でオークをすぐに血濡れの怪物へ変貌させる。
全身に傷を受けてなおオークは立ち上がり、なりふり構わず突進する、だが戦い慣れたこの集団の連携で、その後時間を掛けずに決着した。
「梃子摺らせやがる」
オークに弾かれた盾を拾い、死体を見下ろし剣士はぼやく。
「それに固い」
弓を放ったエルフェンと、枝状触媒を片手に魔術師の女が頷きあう。
「オークが出たってことは、こりゃいよいよメンドクセェ」
マヘスがその場にいた全員に聞こえるように言うと、あるグループが申し訳なさそうに発言した。
「悪いが、巣窟が有るんなら、俺らの手には負えねぇ…、俺たちゃここで降りる…」
人間だけで構成された4名のグループが離脱を告げるも、周囲の面子はやはりと言った具合にその4名を見ている。
だが、そんな中でもある戦士は納得のいかない様な顔で声を荒げた。
「まだ発見した訳じゃねーだろうがっ!! お前ら何のためにここ迄来やがったんだッ! ああん!?」
マヘスの戦士は迫力ある獅子の顔を怒らせ、牙をむいて怒鳴る、だが、それ以上彼らを責めることは出来ない。
何故なら彼らは自分たちの力量を十分に把握しているからであり、冒険者稼業という職業柄、失敗は己の命と直結する。
今までは数グループが連携をとりゴブリン討伐を進めてきたが、この巣窟攻略は行政府指定級の報酬を貰わないと割には合わない。
「わかったよ、山狩りはこのまま俺らも一緒にいく、だがネストが有ったらそこまでだ、都に戻ってギルドに報告して軍の支援を呼ぶ」
「それでいいぜ」
そして彼らはまた森の奥へを分け入って、案の定。とうとうそれを発見した。
「こんな人里の近くにいつの間に…」
巣窟の入口を前に彼らは其々のグループでどう対応するか話し合っていると。
「さっきも言った通り、悪いがここで俺たちは離脱だ、ギルド本部への報告は任せてくれ…。 そんな顔で見るなよ」
そう言い残し彼らはその場を去って行く。
エルダニア首都 ウル湖 北部湖畔
2番島、通称流星島。
F28番機上部ハッチがゆっくりと開く。
10枚の羽が細く纏まって束ねられ、中央には強力なモーターがカウルの中に納まって居るのが見える。
そのカウルの下には、カーゴが布とロープで決まった規則で何重にも縛られて、とりわけ目立つのが何か細い骨組みの様な、カーボンの繊維で綿密に織られた素材で出来た、5メートル以上にもなる支柱の束だ。
カウルの上部の10枚の羽は上下に5枚ずつ別れ、均等に広がると、ゆっくりと回り出した。
モーターには28番機からの電力を供給する細いコードの様な糸の様なものが繋がっているが、ノズルから搾り出る様に抽出されるそれは、蜘蛛の糸をヒントに造られた液体合成繊維で浮力を損なわない程に軽い素材だ。
ゆっくりとプロペラが回ると、28番機上部の埃がふわりと浮き上がり、反転し合い、回転力を相殺した浮力でモーターごと宙を舞う。
最大積載量400キログラム。
武器弾薬を入れたカーゴがしっかりと括りつけられている。
1番機から30番機には兵站システムが最初から備わっている、これは船の事を最近になって改めて把握したナオヤにも理解出来た。
31から50番はバイオケミカル設備が充実している事が、回収した偵察衛星の解析で判明した。
ナオヤはタンデムミッション機と呼ばれた31番機以降の任務を調べる事にしているのだが、それを北に落とされたとされる他のマザーシップが握ると秘かに考えている。
高出力モーターから発生する回転で既にカーゴの高度は5千メートルを超えていた。
遠く20キロメートル先にはヴィータが発する信号を頼りに上昇してゆく。
空は青から段々と暗い色になり、いつしか昼間なのに星が見えるほど上昇したカーゴは氷ついて霜が降りていた。
まあるい地平の上空には28番機から外された重力バラストの一部分が楕円軌道の近地点で地球に接近し、重力で加速する最中、地表観測を行うレンズを覗かせて通り過ぎてゆく。
音もなくカラビナが外されると、落下の風を受けるカーゴはくるくると回りながら落ちるが、紐の先に付いた落下傘で安定している。
落下中、細い支柱の束に巻かれていた紐が、ほろほろと解け、ついに仕掛けで押さえ付けられて居たかのように一回のアクションで主翼と尾翼が開く。
羽は風を受け、カーゴを守る様に覆うカウルを重心に滑空する。
カーゴを落としたプロペラは、徐々に徐々に、高度を下げている様だ。
GPSで精密に測量された位置情報と、カメラに仕込まれたレーダーで風を読み、時には羽を捨てパラシュートを広げ、F28から半径150キロメートル範囲の間の指定の場所、その5メートル以内に着地させる兵站補給システムユニット。
蜘蛛の糸は外れ、塵々に氷が砕け散る様に空気に解けてい行く。
10枚の羽は折りたためられ、モーターを重心に風を切り落下する先は広大なウル湖。
アラマズドの使者によって齎されたとされる精密なカラーの地図。
その地図の両端を、力一杯握り、細指を白紫色に染める女のダークエルフェン。
地図を丸めると、細く括れた腰で跨るグリフィンの胴に括られたハーネス革ポーチへ入れる。
太陽の紋章で緻密に意匠が刻まれた革のコートに鉄の当て板が要所で小さく入るが、どちらかと言えば軽い部類の装備に身を包んでいる。
ヴィータはバックパックをカーゴに仕舞い、ナオヤは前面を強化された液晶パネルが並び、細い覗き穴が付いたバリスティックシールドを取り出す。
高さ120センチメートルのシールド裏面には、その盾が精密機械であるかのようにモニターやボタン、装置などがが配置され、なおかつ背負えるようになっている。
メインウエポンは5,56ミリのライフル弾を毎分780発で発射可能な、装弾数35発、銃身下部には12ゲージのショットガンがアドオンされ、これを、脇の下から排莢される、構えが特徴的なアサルトライフルに持ち替える。
ナオヤの脇の下には、空薬莢が入るダンプポーチーが、体の動きの邪魔にならない様に、プレートキャリアに取り付けられていた。
サブウエポンは、空中、しかも任意の距離で破裂させることの出来る、特殊な起爆剤を内蔵した弾薬を毎秒3発打ち出す、センシングされた光学サイトと、銃身が一体化した強化プラスチックの隆線的な形のM25。
だが、左手にバリスティックシールド。右手の持つのはハンドガンだった。
ヴィータは相変わらず連射式のショットガンとマガジンを身に付けたハーネスに引っ掛け、荷物ラックの様になっている。
背中には背負子が取り付けられ弾薬箱や装備の数々、折り畳みの担架、敷物の様な布の巻物、数日分の飲み水、食べ物排泄物を入れて固める袋迄ある。
ナオヤは薄々気が付いていた。どうやらコロニーの人間は、戦争をしていた様だ。
一体誰と? 人間だ。人間同士で。
そうじゃないと、この武器の、兵器の充実した船の装備の数々は説明が付かない。
武装すると時より発露する人間への憎悪と殺意。
そして、人間を見ると身体が勝手に警戒するこの精神的な負担。
光学照準器を覗きながら、投影型迷彩シールドを片手に持った手首、それと一体型になったホルダーのスイッチ、シールド裏面の除き穴と一体になったモニター画面をみる。
覗き穴の横には、銃をかける窪みと、銃座がある。
スイッチを入れると、表面の液晶パネルには森が映し出され、3人の身体をそのシールドの部分だけ隠す。
イオンの臭いがするとイーノイは言う。
凧の様に翼を広げた羽を畳み、カーゴのふたを閉めるナオヤの後ろで、イーノイは膝の下まであるブーツの紐を丹念に縛り、耳をしっかりと守りつつも、動きの邪魔にならず、ナオヤ達とコミュニケーションが取れる周波数のヘッドセットが内蔵されたフードを目深に被り、小さな顎の下で脱げない様に結んでいる。
厚みがあるが軽く、衝撃を良く吸収し、熱に強い特殊な素材だ。
カーゴの横に拳位の大きさの丸い球体にチャックが付いている変った部位がある、ナオヤがそのチャックを開け、横のタンクのボタンを押すと、球体の中に、ガスが噴射され、膨らむ。
空気より軽いガスだ。
風船は大きく成ると、使わない兵器を入れたカーゴを空中へと吊り上げる、これもF28番機のすぐ近くへ帰るように戻って行く。
青空へ舞い上がる空と同じ色の風船を、ルキアと同じ色の白髪のダークエルフェン。
フェオレ=ウル=アルギオは目を細め眼を凝らす様に睨みつけた。
グリフィンに跨り上空3千メートル程の冷たい空気の中を滑空し、その風船の周りを旋回中身体を前傾に保ちながら呟く。
「あそこに居られるぞ…」
そういって真下に目を遣り周りに聞こえる様に、その鍛えられ良く絞まった細い腹筋に力を入れ、大声でがなる。
「王家は西に気をとられネストを見逃しておったッ!! 我が対応する方が早いッ!! 仙窟で遭遇戦になるぞ!!」
竜巻の様に旋回するグリフィンの背中で、長い槍と弓を持ったダークエルフの男女30騎が、それぞれの獲物を掲げ、フィオレの言葉に応えている。
そしてナオヤ達は入ってゆく、大きな虚へ。
イーノイは尻尾を上手く使い、両手を広げ、時より上半身をくねくねと大袈裟にくねらせ、だが安定した重心移動で降りていく。
ヴィータはタンクが付いた持ち手の筒先か、ら繊維状に硬化する液体合成繊維のレスキューロープを壁に発射して粘着させ、それに自身の体重をも任せ、誰よりも早く中へ進みゆく。
そしてナオヤは、途中で両腕の無い老婆の遺体を見つけ、毛布を掛け先を急ぐ、中へ、奥へ。
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