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恐慌
しおりを挟むカンカンカンカンと警鐘が激しく打ち鳴らされる。
立ち込める土煙の中、目をつぶり必死に鐘を鳴らすだけが役目の兵士は、一瞬見えない速度で飛んできた何かで頭を小突かれたかのように震うと、そのまま土煙の中に消え入るように倒れた。
外の様子は周りのテントから、尻に火でもついたかの如く一気に兵が飛び出している状況だ。
ナオヤはテントに身をひそめ、そこからもう一体の巨人族ギガンテスの後ろに居る魔法使い風の男を狙った。
周囲の騒音と消音器の効果でライフルの僅かな発砲音は完全にかき消されている。
背中に二発の弾丸を受けた巨人を使役する魔法使い風の男は前のめりに倒れ、動かなくなった。隣で短い時間狼狽えたもう一人もすぐにナオヤの銃弾で倒れる。
「ヴィータ。6番から10番発煙開始」
「了解… 発煙確認」
隣の仲間に何が起こったのかと、もう一体のギガンテスが起き上がり、最初に光が降り注いで来たであろう方向を探し見る。
三発目のプラズマ化し青い光を眩く放つ弾丸が、その返事とばかりにもう一体の巨人族ギガンテスの胸から上部を消し飛ばし、轟音と衝撃波を撒き散らせる。
ナオヤはジッとPテントと呼んでいた、そのただの布で出来た天蓋に、潜む様に息を殺して待っていた、レールガンライフルは5発発射すると、発射時にプラズマになり蒸発したトレーサーにバレル内部を焼かれて消耗してしまう、なので、バレル部分を丸ごと交換する、これがこの銃のリロード作業だ。
ルキアの親衛隊がつかっていた他のテントに4発目がヒットする。
中の4~5人の兵もろとも狙っての弾丸が着弾したテントは、最初からそんな物など無かったかのようにそのまま地面を抉り激しい土煙とクレーターを形成してゆく。
バレルの消耗を考えるときっちり5発撃つ、ヴィータと打ち合わせしなくてもまるで決まっているかの様だ。
船の周りは混乱の坩堝だ。
5回目の光の矢の着弾とその衝撃の巻き添えから逃げる途中、ある兵士は急に身体が動かなくなり、足がもつれて倒れた。
横の兵士は倒れた兵士を見ると、いつの間にか甲冑に小さな無数の穴をあけ、そこから血を流し、その仲間は既に死んでいた。
魔法則の原理くらいは魔法を知っている熟練の兵でも、こんな魔法は聞いた事が無い。
空爆の様なレールガンライフル射撃が止んだ。
周辺は土煙が充満している、兵たちは茫然自失。
ただ急に静かになった辺りを埃に汚れた顔で見回しているだけだ、するとその土煙の中に薄っすらと光の線が見えるではないか。
その光が照らし指し示す光は、間違いなくさっき眩い光の矢が放たれた山の中腹からだ。
獲物を探すかように、光は土煙の噴煙の中を、ゆっくりと、ゆっくりと存在を知らしめ畏怖させるかの如く移動する。
周囲の兵士は息をのんだ。
ヴィータは20ミリ弾を打ち出すマークスマンライフルに武器を変えた様だ。
陽動は思った以上に成果を上げたと判断し、土煙の中へわざと目立つようにレーザーポインターの軌跡を落とし、見せ付けているのだ。
その間にもテント内から次々と、音もなく打ち出されるナオヤの銃弾で甲冑が弾ける音がすると、何処かでバタバタと連続で兵士が倒れる。
どよめきが起こる。
その恐怖心の感染力は強く、すぐに周囲に伝播し、どよめきは助けを求める叫び声に変化し……。
パニックを起こす。
こちらのテント側に走って逃げてくる兵を狙い、僅かに開けた隙間から額を正確に撃ち抜きここを撤収する事にする。
「ルキア、テントの後ろを破いて外へ!」
「わかったわ! さあ! こっちよ!」
「はいっ!」
剣でテントを裂き、裏から外に出る。
出るときに燻ぶっていた松明の火種を使い、火を付けた。
覚めない悪夢に襲われたているテントの外は、右往左往する兵が土埃に霞んで見える、緩慢な動きは戦意無しと判断し放置。
ヴィータが打ち出すマークスマンライフルの弾丸で身体の一部が甲冑の部位ごと、弾けるように消し飛ぶ兵。それを真横で見て、更に混乱して走り出す仲間。
それでも一人、大声を上げて剣を振りかざし、激を飛ばす者が居た。
「何をしている! 逃げるんじゃない! 下の兵はどうした! 何故上がってこない!」
「それが… 変な霧が出ていて! その霧に入ると目が痛くなって息が出来なくなっちまうんです!」
「顔に布を巻けボケェ!! そんな事より戦えるものは何人いるか報告しろ!!」
「こりゃきっとアラマズドの鉄槌だなんだ! お… 俺達は神を怒らせたに違いねッ! うああああぁぁぁ!」
テント裏から外に出て今度は草むらに身をひそめ、兵が集結しつつある場所にグレネードを放る。
この混乱の最中でも指揮を執る上官の元に集まり、隊列を形成しつつ指示を待っているよく訓練されたイギスト帝国の正規兵だ。
その足元にころころとフラググレネードが転がる。
一人の兵がそれに気が付いて、視線を投げた瞬間、短い破裂音が響いた。
一番近くに立っていたイギスト兵の膝から下が、後ろへ吹き飛びそのまま力なく崩れる。
隣の兵もその隣で整列していた兵士とそれに指示を飛ばしていた男も、爆発の瞬間飛び散った破片が甲冑を突き破り身体中から血を流して倒れる。
脅威化する気配や動きを見せるものがゴーグル内にマーキングされ、ざっと確かめるとまた夜空が光り、爆音が轟く、と同時にゴーグル内の映像にノイズが走り、ホワイトアウトしてしまった。
レールガンの閃光をセンサーで見過ぎた。
その弾道はグリットBのラインの方向へ飛び、遠くで着弾音の衝撃波と樹木が倒れる鈍く乾いた音が聞こえてきた。
下の兵がそろろそろ上がって来たという事だ。
ナオヤはゴーグルをあげ、見える場所にある松明の根元を撃ち倒して明りを奪う。
そろそろ仕上げの時、時計に目をやると少し時間をロスしていた。
「11番から15番発煙」
「了解……発煙確認。これが最後だ」
「よし」
「ルキア、走るぞ!」
「まって!」
そう言ってルキアは粉塵と混乱に乗じて逃げ惑う兵の中へ走っていく。狙いはすぐに分かった。
捕虜を暴行し、強姦して殺した指揮官。カスピラーニをそこに発見した。
カスピラーニはまた始まったレールガンライフルが頭の上を通り過ぎ、救援か応援の兵達が鈴なりになってやって来るであろう場所へ着弾する閃光を目で追う。
そしてたまたま近くに居て同じ光景を眺めている恐慌状態の兵を呼び止めて命令しようとしている。
「おい… げふ ゲホ… おい。そこのお前!救援はまだか… おい!」
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