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捕虜
しおりを挟む今も船を下ろすために大勢の兵が、岩をどかし、木を切り倒し、斜面を均す作業をしている事が騒音として伝わってくる。
ナオヤがヴィータと話す会話を黙って聞きながら、ルキアは彼の行動を観察する。
会話の内容は、あまり理解出来ない。
斜面の木々に、手に持った小さな糸のような装置が付いた筒をいくつも取り付け、ジッと面体の中の何かを見ると、すぐに次へ小走りで向かう。
ここから出る煙は、山からゆるく吹き下ろす風に乗り、今も大勢で作業して居る兵たちの元に充満するようにヴィータに計算させていた。
そのポイントに赤外線レーザーを当て、ヴィータはナオヤを誘導していた。
赤外線レーザーはこの澄んだ空気では裸眼のルキアにも感知できていない。
全て配置を完了させ、ナオヤとルキアがフロンティア号近くに群がるテント群のすぐ近くの位置に取り付いた。
船の周りは松明が灯され、フロンティア号の船体をその光で浮かび上がらせていた。
船の横では、持ち上げる事を諦めたのか、着陸装置の周りに穴を掘っている二体の巨人族ギガンテスの姿がある。
今度は梃子の原理を使って持ち上げようと無駄な努力を試みている。
その巨人族ギガンテス後ろには監視するように更に二人、サーモセンサーで見ると異常に磁器と熱を帯びている鞭で、撓る時には音波も発生させているソレを持った魔法使い風の男がこのギガンテスを使役していると思われた。
全体的に疎らに点在し百名以上の兵が点々と配置されている。
ここの場所は彼ら帝国側にとっての最終区画でもあった。
この流星が、あと少し持ち上がり、その足に様なものがあの丸太にさえ乗れば、あとは自重で楽に動かせるという計画だった。
帝国きっての逸者が考えたのだから間違うはずもない。
ギガンテスが弱ってしまったのか、等と何処か他人任せでその解決法よりも、先に言い訳を考えたくなる様な区画がここだった。
いい加減無駄に捗る大伐採の成果を、この流星と呼ばれる物体で試してみたいと余裕を出し、慢心していた。
周囲にはレジアのエルフェン達が残したテントがそのまま残っている。
鹵獲して使ってるのだ、熱赤外線を通して見える五張りのテントの中には、それぞれ4~8名程のシルエットがくっきりと色分けされ映っている。
一つだけ形の違うテントがある。
敵の将校か何かのだろうか、入口には番兵が両脇に配置されており、そこだけは異質だった。
熱赤外線を通して見るテント内に太った一人としてマーキングされて居た敵影があるが、それが二人の重なった影に分裂した。
どういう事だと訝しんだナオヤはアサルトライフルの光学照準装置を覗き込む。
一人の影が、細身のモデル体型の女性を組み敷いた様にねじ伏せ、その上から腰を激しく振っている。
しかも同時に殴り付けながらという器用なことをしていたのをみたナオヤから思わず声が漏れた。
「あ~あ~… ヴィータ、これ捕虜が居るぞ」
動きながら重なるように抱き着いたかと思うと起き上がり乱暴に上半身を動かし、無抵抗なもう一人は頭部を集中的に痛めつけられている。
人形のように動かなくなってもなお激しく腰を打ち付けるように乱暴に振り、全身でその歪んだ快感を表現する。
上の影が起き上り、下になってる人影の頭部を乱暴に掴み、覗き込んでいるのがシルエットでありありと描写される。
彼らの事を思い出した。ルキアに連れられ森に現れた彼らの中には、女のエルフェンも数名居た。
というか半数近くが女性だった。
彼らは船を眺め、その威風を称賛し、目を輝かせてこの船を守る事が出来て光栄だと話していた。
家族に自慢出来ると話している者も居た。
誇り高く美しいレジアのエルフェン達だ、長寿命でその経験を蓄積し続け、生き続ける美しい種族だ。
・・・彼らは僕の数倍の時間、この世界を生きて来たんだよな・・・
組み敷かれて殴りつけられてた影は、ぐったりと動かなくなり、マーキングされた印が消えた。
「くそが…」
そう呟くとナオヤはアサルトライフルの銃口をテントへ向け、狙いを定める。
「堪えろ、ナオヤ…」
状況が理解できてないのはルキアだけかもしれない。
二人の声を無線で聞いている彼女は、可視光でテントを見ている。中は見えていない。
テントの中で拳を振るっていた影は起き上り、ズボンを穿いてテントから顔を出す。何かを言いつけられた番兵が一人、中に入って動かなくなった人影の脇を持ち、引きずるようにテントから出て来た時。
ルキアもここで状況をその亡骸で理解した。
静かだが明らかに雰囲気が変わった。
「おい、他の捕虜…」
そう言うと口で説明するより早い速度で赤外線レーザーの光がテントを指し示し。
「そこから見て一番右の、一人外に立っているテントだ、その中に後ろ手に縛られた影が一つ。周りに監視する影が二つ。ここだけだ」
そう話してる間に、中から裸のエルフェンの女兵士を引き摺り出した番兵は、もう一人の番兵と二人で、エルフェンの足と腕を持ち、草むらへ運び、振り子のようにしてエルフェンの死体を無造作に放り投げる。
「ルキア、彼女は何歳だった?」
「64歳よ、同じ学校に通ったわ、 アーシェ…」
声の最後は震えていた。
「そうか」
「よし… 1から5まで、同時に発煙装置作動させろ」
「了解… 発煙確認。予想通り流れている」
捕虜が居ると思われるテントまで物陰伝いに一気に回り込む。
物陰伝いだが難なく移動することが出来るほど、現場の緊張は緩んでいる事が直ぐに分かった。
そんな雰囲気を作れるのは特別にしつらえたテントの人物だろう事も察した。
「Pテントに突入する、マーカー1を僕が」
「2番補足済み」
「ファイア」
素早く中に入る。
後頭部を吹き飛ばされ、周りに脳漿を撒き散らした兵が二人、倒れている。
そのテントの真ん中の支柱に縛り付けられていたエルフェンの弓兵を発見した。
横目に外に立っている兵の首元に2発発射すると、膝を折ったように崩れるが、ナオヤのナイフが背中を突き刺し、外目には立ったままの様に見える。
彼女は監視の兵の頭が、次々に吹き飛び倒れる姿を目の当たりにし、恐怖に失禁しかけていた。
そこに現れたナオヤとルキアを見つけ泣き顔を一変させる。
「今ほどく」
ルキアは短く会話し、他の捕虜の状況を聞きだす。
「他には?」
「わ… 私だけです… る… ルキア様ぁぁ…」
「今は泣いてる暇がない」
素早く縄を解くルキア、ナオヤは時計を確認しながらテントの明かりを消し、小さく言った。
「始まるよ… 驚かないで」
その時、同時にレールガンライフルの空気を切り裂く轟音が響き、テントの外を一瞬明るく照らした。
ヴィータが陽動を始めた。
テントにナイフを立て、裂いた隙間から外を確認する。
一体のギガンテスの、しゃがんだ体勢で掘っていた巨大な腕が、その光で簡単に吹き飛ばされ、轟音と土煙、そしてギガンテス大絶叫が同時に発生した。
船に弾を当てないためにわざと腕を狙ったのだ。
レールガンは構造的に精密射撃には向かない。
飛翔体がプラズマ化する時にバレル内に一緒に装填されているトレーサーに押し出され弾丸の飛翔体が加速される。
その時トレーサーは完全にプラズマ化され蒸発する。
この時プラズマとなったトレーサーの残効がバレルから決まった角度で放射され、電子の衝撃波になる。
その効果角度も考慮しながら、ヴィータは最適な射角で標的を選別し順に撃破する固定砲台と化した。
弾丸のプラズマ発光は空気との摩擦によって発光している。
腕を抑え、後ろに数歩たたらを踏み尻餅をついたギガンテスの頭部目掛け、2発目のプラズマ光が、光りの矢の如く伸びる。
宇宙開発と同時に太陽系の危機という防ぎようのない宇宙規模の災害で、強引に幕を開けた宇宙時代。
自国とその他一部の同盟列強国は、自分達だけを選び、自分達だけを救い出す目的で手を組んだ。
残された他国の協力は必要なかった、むしろ、その協力の見返り分の座席を求められ、邪魔ですらあった。
そうして人間はどこへでも進出し、浸食し、争う事を止めようとしなかった。
その列強の連合軍が開発した対物アンチマテリアルライフル。
この強烈な弾丸は、既に一世紀前の艦砲クラス威力を持ち、巨人族ギガンテスの大人の一抱え以上ある頭部を風船のように破裂させ、尚も貫通した弾丸が地面に着弾し大きく砂煙を上げクレーターを形成する。
プラズマの影響でナオヤの武器の光学照準器にもノイズが走ると同時に、巻き上げられた土や砂の土砂降りが、今身を潜めているPテントに降り注ぐ。
「あれ…? ちょ… ちょまって… レールガンやばくね? 何その威力…」
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