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エルフェン族
しおりを挟む「えっ!? うそ…、レジアのお姫様!?」
ルキアは両手を大きな胸の前で組み、顔を傾げて効果音がしそうなウインクを投げかけて来た。
再度たじろぐ今度は二人、イーノイとナオヤである。
「姫…」
そこへ、スッと一人のエルフェンの男が近寄り、ルキアの耳元で何やら囁いた。
「あいつらは誰の差し金か吐かせる必要があるわ、やさしく扱いなさい」
「ハッ…!」
「こぉんな可愛い子猫ちゃんをこのレジアで拉致するなんて大罪は。きっちり償ってもらわないとねぇ?」
「わたしは猫じゃありませんッ!!」
「イヤンッ! 可愛くてキュンキュンしちゃう!」
「…もうっ!」
呆気に取られたナオヤは、ヴィータと視線を交わす。
ヴィータは肩をすくめ両手を開いていた。
先程手放したクロスボウとコンバットナイフを拾いナオヤのもとへ持ってきたエルフェンの槍術兵から、恭しくそれを渡され、ありがとうと声をかける。
礼を言われた槍兵は、顔を紅潮させ周りの兵士が居る場所に戻ると、すぐに皆に囲まれていた。
「なぁなぁどんな絡繰りの弩だったよ!?」
「すんごい軽かった!! あとなんか凄かったぜ!」
「なんかじゃ解らないじゃない!」
「イギストの奴らが使ってるのと一緒か?」
ガヤガヤと沸きあがる兵士に対し、ルキアはわざとらしい咳払いを一つ鳴らして黙らせる。
「ごめんなさいね、田舎者の集まりなの」
「それで、古き盟約というのは?」
「そうね、立ち話もなんだから、使者様の流星のもとで話しましょう! さぁッ! お前たちも行くわよっ!」
強引ともいえる銀髪エルフェンの提案に二人は顔を見合わせる。
「大丈夫だと思うか?」
「いつか接触しなくてはならないと考えていたエルフェンが、向こうからやって来た。今のところ悪意は感じられない、話を聞く価値はありそうだな」
エルフェンとナオヤ達一行は、フロンティア号の傍まで移動する事に決めた。
イーノイを拉致しようとしていた男たちも、きつく縛り上げられ、頭に頭巾を被された格好で引っ立てるように連れて行かれる。
利き手の指を飛ばされたルパルは、拘束されながらも手には包帯を巻かれ、一応の処置は施されていた。
船に到着すると、エルフェン達はルキアの号令を皮切りに、手際よく野営の準備に取り掛かる。
ナオヤ達が見ている中、次々とテントを張り、船の周りをぐるりと囲む様に警戒網を敷いて行く。
「これは、いったい何の真似だ?」
「流星を守るためですわ。先ほどの二人の賊、奴らは大方イギストの密偵に違いないわ、美しいレジアに土足で踏み入るなんて失礼な国ねぇ? そう思わない? ねぇねぇ?」
ねっとりとした雰囲気で絡んでくるルキアの対応に困ってると、何故か横のイーノイは少し不機嫌そうだ。
「して、話の続きだが」
我関せずといった所でヴィータは話の続きを促した。
「せっかちなゴーレムなのねぇ、時間はたっぷりあるんだから、急がないのッ。フフフッ!」
ルキアは部下にテキパキと指示を出し、ひと段落すると竈に使っていた焚火跡の周りに横たわる倒木に腰を掛け。
「私のひぃひぃ… ん~… ずぅっと御先祖様、それはこのレジアという美しい国の建国に纏わるお話よ」
そう言ってルキアは語り始めた。
時を遡る事約4500年前。
現在のレジアは王国ではなく、まだ小さな集落だった時代の頃。
エルフェン族は広大な森の中でひっそりと暮らしていた。
世は混沌の戦国時代、今のレジア周辺は力の強い好戦的なオークや、文明とは程遠い凶暴な亜人が勢力を拡大させ、レジアの森を侵略していた。
エルフェン達は抵抗むなしく森を逃げる様に、寒さの厳しい北の地域へ追いやられていく、北へ北へと逃げるにつれ、アラマズドの光りは弱まり、天高く煌々と温もりを届けてくれていた太陽はその姿を低くし、遂には明けない夜がやってきた。
極夜だ。
寒さに強くないエルフェンは族は、このまま太陽神の恩恵を受けられず、絶滅の道を辿るかに思われた。
エルフェンの人々は赤い夜空に最後の祈りを捧げる。
すると、それに応えるかのように一筋の流星が舞い降りた。流星からは二人の使者と一体のゴーレムが降りてきた。
だが、その三人は怪我をし、傷ついていた。三人の内一人は手当の甲斐なく息を引き取った。
残りの二人はエルフェンの献身的な看護で一命を取り留めた。
その看護に二人は心を打たれ、更に交流を深めるようになる。
言葉の壁を越え、種族の壁を越え、弱っていた両者には何時しか硬い絆が芽生える。
流星の使者は、北の大地で凍えるエルフェンに数々知恵と、それに纏わる言葉や技術を授けた。
エルフェンは力を取り戻し、その後、流星の使者二人と共に戦い、侵略されたレジアの森を奪い返すことに成功した。
エルフェンは、美しく豊かな森の湖の畔に城を構え、国を興し、首都エルダニアを築き上げ、レジア王国を建国する。
その後、首都エルダニア周辺の肥沃な土地を欲した周辺からの侵略戦争を、流星よりもたらされた技術で次々と制し、遂にレジア王国はアメイジア全土を平定する事になる。
レジア王国は、自分達が力で抑圧された悲しみを二度と繰り返すまいと、多くの種族との融和を掲げ、人々に誓った。
和によってアメイジアを納めたのだ。
流星の使者は、争いの闇を払うために戦い、その力を使い果たし、命散らせて光りとなるその前に、こう言い残した。
『いつの日か、流星が再び落ち、そこに道を失い迷う者を見出した時、どうか力を貸してあげてほしい』と
それがレジア建国の父。エルフェンの王と、流星に乗って現れた太陽の使者との盟約として綿々と受け継がれてきた。
だがその後、幾千の月日が経ち、力を欲した人間が台頭し、人の王の裏切りによって融和の時代は潰え、アメイジアは再び国と国とが争う時代へと移り変わっていった。
「というお話が、王家で受け継がれている訳なの。それでパパがね? 昔の恩返しをしたいからぁ、どーしても連れてきてほしいって、頼まれて、私はやって来たって訳。だからさぁ、一緒に都へ行きましょう? ね? ね?」
ナオヤとヴィータが聞かされたのは、先日イーノイが語ってくれた内容と大筋で一緒だったが、そこには初めて聞く情報がが多かった。
そして二人はお互いを見て頷いた。
疑念は確信を得て、言葉となってナオヤの口から漏れ出した。
「他の母船かもしれない… 僕らの前に、この地に下りた仲間がいたんだ…」
「その可能性はかなり強い」
「でも三人って言ってたよな?」
「言っていなかったか。50機あるフロンティア号の、31番機から50番機はタンデムミッションと言って、つまり二つの目的を持って二人のクルーが乗っていたと記録がある。おそらくその内の一機だろう」
「二つの任務ってどんな任務なんだよ?」
「残念ながらそれは概要記録にしか情報がなく、詳細は船の記録にも無い」
「ねぇねぇどうしたのよぉ、そんな辛気臭い顔しちゃってぇ、あら! そっちのゴーレムちゃんは表情が無かったわねッうふふふ」
「ゴーレムではない。HR36。識別コードはヴィータだ」
ヴィータがルキアに訂正のツッコミを入れている余所で、ナオヤには気がかりがあった。
「だが、エルダニアと言ったか? そこへ行くとして、この船はどうする?」
「大丈夫よ。わたくし達エルフェンの特務隊がしっかり守るわッ! ここはレジア領よ? この山に一歩たりとも変な奴は近づけさせないって約束するわ! そうよね?」
「ハッ!!」
誰に聞いたわけでもない最後の問いに、周りのエルフェンが一斉に答える。
「どうする? ナオヤ」
「ちょっと興味があるな… 森の都」
「行っちゃうんですか…?」
黙って話を聞いていたイーノイが、心配気にナオヤに訊ねた。
「イーノイは、ここを離れられないのかい?」
「いえ…。そういう訳じゃないけど…」
「じゃあ一緒に行こうよ!」
「わたしも!?」
「勿論さ! 置いて行ける訳ないだろ」
「キャー!! やったわぁ! これでパパに褒めてもらえるぅー!」
両腕を掲げガッツポーズとったルキアは大層ご満悦な様子で、ナオヤの腕にしがみついて喜んだ。
ナオヤは腕を解こうと必死だったがテンションの上がりきったルキアの胆力に敵わず、その後、ルキアが傍らに控えていた壮年エルフェンの付き人に説教され、イーノイが何故かむくれるまで腕を放さなかった。
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