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第4章 終幕戦編

第96話 戦いが終わって

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「っ!」
「あ、起きた!」
「え、ここは………」

 あたりを見渡すと、一度来たことのある見覚えがある場所にいた。

 学園の保健室だった。

「あ………そ、そうだ!!!ギュルリア、ギュルリアは!?」
「クライト、落ち着いて。クライトが倒してくれたんだよ」
「え、あ、あれ?そうだったっけ………」

 あまり覚えていない。でも、クレジアントが言うならそうなんだろう。クレジアントは嘘を吐かない。記憶を辿ってみると、確かに僕が倒したかもしれない。ギュルリアの頸を、斬り落とした感覚がまだ腕に残っている。

「そうだ、皆は!?」
「ほら、そっち見てみて」
「ん………わっ、全員いる。良かったぁ………」

 全員無事だけれど、衣服とか剣柄とかはボロボロだ。本当に、ギュルリアとの戦闘があったんだと実感できる。よくよく考えてみると………ギュルリア相手に僕達が戦えたのって、かなり凄い事だ。

「く、クライト、何で泣いてるの?どこか痛いところある?」
「クライト、治癒魔法かける?」
「え、な、泣いてる?あ………ほんとだ」

 如何してか、涙が止まらない。理由が分からない。痛い所は無いし、だれか大切な人をこの戦いで亡くした訳でも無い。なんで………

「安心したんだよね。不安だったんだよね、ほら」
「え、あ」

 ユーリアが抱きしめてくれる。体温だけではなく、心も温かくなっていくようだ。確かに、僕は不安だったのかもしれない。皆が死なないでいてくれるか、自分自身も死なないでいられるか。あの戦いではずっと死が隣にあった。

 きっと、本当は怖かったんだ。心の奥底に押し込めていただけで。僕は、こういう所があるかもしれない………前も屋敷で慰めてもらったっけ。

 ユーリアがひとしきり抱きしめてくれた後、スタグリアンが話してくれる。

「クライト、本当にありがとう!!!いっつもクライトには助けられてばっかりだよ。俺、クライトが居なかったらもうこの世に居ないからな」
「ううん、それはお互い様だよ。スタグリアンもありがと!」
『ありがとう!!!』
「いやいや、だから皆が居たからこそだよ!僕一人じゃ何にも出来ずに倒されて終わってたし………」
「いや。そんなことは無いだろう?最初はギュルリアをも単独で倒していた」
「で、でも。結局復活され続けちゃうし………あ」

 そうだ。どうしても一つ、聞きたいことがあったんだった。

「そうだ、ニーナ先生。なんで、最後ギュルリアを倒せたんですか?色々手回ししてたって聞いたんですけど………」
「あぁ、それな。実はクレジアント、ユーリア、スタグリアン、マリスタンを探しに行ったときに事情を聞いたんだ。『ギュルリアは全ての魔人に血液を与えていて、其の供給を止めないと復活し続ける』ってな」
「はい、確かにそうでしたね」
「その言葉に偽の情報は無いなと思った。だって、私も周りから血液が吸収されてギュルリアが強くなっていくのを間近で見ていたからな。復活もしていたし、事実から見ても可能性が非常に高い。じゃあ、その『全ての魔人』をどうにかすればよい訳」
「そうですけど………」

 簡単に言うけれど、絶対に簡単じゃない。全ての魔人をどうにかしようだなんて、無理だ。

「そこで、私はある仮説を立てた。『ギュルリアはある程度魔人を近づかせないと、血液を吸収できないんじゃないか』ってな。理由はわざわざ大きな隙を作ってまで笛を使っていたからだな。まぁ希望的観測ではあったけれど………こうであってくれないと、私にはどうしようもなかった。私は一応、学園教師とSランク冒険者という二つの肩書きを持っている。そのコネクションで、ギリギリ生き残っていた教師と冒険者に働きかけてギュルリアの使う笛の範囲外まで魔人を狩っていた」
「な、なるほど………」
「す、凄い」
「ニーナ先生。流石です」

 ニーナ先生の凄い所は、凄い事をしても聞かれなきゃ答えなかった所だ。別に話す必要は無いと思っていたのだろう。そのお陰で僕の命が、この王国が助かったとしても。自分の功績を人に話そうとしていなかった。

「ニーナ先生。さっき、先生は自分の事を『中途半端の天才』と言ってましたよね?」
「そうだな、実際にそうだろう。皆がギュルリアと戦っている時、私は戦えないからといって逃げたんだ」
「でも、それが功を奏しましたよ。ニーナ先生は生徒を置いて、ただ逃げるような真似はしないです。実際に、コネクションを使って生徒では出来ないようなことを働きかけてくれたじゃないですか」
「そうだな。認める」
「そうですよ!それに俺に翼竜を預けてくれたのも、翼竜を使った作戦をクライトと共有してギュルリアの不意を突けて倒せたのも、先生のお陰です!」
「皆、やけに褒めてくれるな………な、なんか。ありがとうな」
「だから、先生。先生は『中途半端の天才』なんかじゃないです。僕はきっと『戦略の天才』だと思います」
「ちょ、ちょっと!もうやめてくれ!!!心臓が持たん………」

 空気が和む。

「そ、それよりも、皆本当に疲れただろう!!!今日は私の奢りで何か好きなものたべさせてやろう!!!どうせ、この戦を治めた一員として少しくらい報酬は貰えるだろうさ」
「ニーナ先生。お店、全部閉まってます」
「あ~………まじか」
「学園の学食は?」
「停止してる」
『………』

 皆が黙りこくってしまう。別に、打ち上げは今日じゃなくてもいいのに。

 あ、そうだ。

「キュール。遺物使える?皆を連れて帰れるかな?」
「うん。出来るよ!」
「あ、キュールちゃん。砕けた口調になってる!」
「う、うん。変、かな?」
「全然!寧ろそっちの方が私的には嬉しいよ!」
「はい、そこでいちゃつかないで~」
「ん?クライト、嫉妬?」
「え、いや、その………」

 答えにくい質問に思わずどもる。スタグリアン、そっちだってマリスタンとの事言ったら答えにくいだろうに………!

「クライト可愛いね」
「ねー!」
「ちょ、ちょっと!僕の事はいいから!!!それより、キュール。お願いできる?」
「わ、分かった!」

 恥ずかしくて思わず顔を逸らす。先生も居るんだから………いじられる身にもなって欲しい。スタグリアンとクレジアント、ユーリア………この恨み忘れない

 そうこうしているうちに、皆が転移の準備を済ませていた。準備と言っても手を繋いで待っているだけだから、すぐに準備が終わるのは当然のことだ。

「それじゃ、行こ!」

 眩い光に包まれる。そう言えば、先の戦いで眩い光からスタグリアン、マリスタン、クレジアント、ユーリアが出て来てギュルリアの攻撃を防いでくれたっけ。

 ………さっきの事は、水に流してあげよう。でも、今回だけね。

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