上 下
35 / 107
第2章 戦技祭編

幕間3ノ1 ユーリアの奮闘 前

しおりを挟む
【ユーリアside】

 私の予想は当たっていた。クライト君は団体戦を見事な手腕で上級性や上のクラスの人達に勝って、その上に魔人も一撃で倒した。本当に強くて優しくて手腕に長けていると、そう思った。

 私がクライト君からお金を貰うのが本当の愛じゃないって思われそうで怖いっていう理由で逃げた事もあったけど、それは私の思い込みだった。我ながら恥ずかしいなと思う、クライト君との関係にひびが入るのがまだ怖いなんて。クライト君は優しいから、私の事をそんな目で見ることは絶対に無いって分かっているのに。

 でも、私は薄々うすうす感じていた。私だけがクライト君を独り占め。というか、クライト君の彼女が私だけなのは良くないって。本当は私だけを愛して欲しい、その気持ちはあるけれどクライト君は将来絶対に爵位しゃくいを貰う。男爵、ううん。陞爵しょうしゃくして子爵ししゃくとかまで行っちゃうかもしれない。その時に、もしその時まで私がクライト君と付き合うことができたとして。妻が私一人だけになるのはクライト君にとって、きっと良くない事。

「そろそろ、潮時かな」

 キュールちゃんはいい子だし、クライト君の彼女になっても良いと思う。いや、キュールちゃん位しかクライト君の事をちゃんと考えてる子は居ないはず。クライト君は強くて顔立ちも整ってるから、結構な確率で学園の女子から目をつけられている。でも、それは本当にクライト君を想っているわけでは無くて純粋に見た目に惹かれただけ。そういう子程すぐにクライト君から離れるし、使い捨てたりもする。

 今はスタグリアン君の試合をさっきの試合で勝ったマリスタンちゃんと一緒に観戦してたけど、どうやらスタグリアン君の方も勝ったみたいだし。すごく清々しい顔してて、私もなんだか嬉しくなってくる。スタグリアン君とは入学から結構話すから。

「スタグリアン君勝ったね~!」
「そうだな、あの顔。良い笑顔してるな」
「そうだね!確か因縁の相手?だっけ、もうスタグリアン君心残り無いんじゃない?」
「そうかもしれないな!よし、私はそろそろ試合だから下に行ってくるよ」
「そうなの?私はキュールちゃん探しに行ってくるから、試合頑張ってね!」
「分かった、いい結果が報告できるように頑張るよ!それじゃあ」

 マリスタンちゃんと別れてもう一つの決闘場に向かう。キュールちゃんはあっちでクライト君の試合を見に行っているはず。

「よし、キュールちゃん探しに行こ」

 すると、戻ってきたスタグリアン君と合流した。ひたいには汗が見えるけれどそれは脂汗でも冷や汗でもなく、気持ちの良い勝利の汗。私を見つけるとピースサインをしてきた。

「やったーーー!!!勝ったーーーーー!!!!!」
「スタグリアン君おめでとう!因縁の相手だったんでしょ?」
「うん。でも、クライトに教えてもらった技とか剣術で何とか勝てたよ!ほんと、クライトには感謝してもしきれないなぁ」
「そうなの!?あの途中で使ってた大技は?」
「あれもクライトから着想を得たんだ。クライトが言うにはなんでも『まずは強い人の技を全て真似まねしてみるのが手っ取り早い』って言ってたからさ」

 やっぱりクライト君は凄い。スタグリアン君も勿論凄まじい努力をしたと思うけど、入学のギルバードに負けた時からここまで半年で成長させたのは紛れもなくクライト君にしか出来ないと思う。少なくとも、私じゃ絶対に無理だから。

「それで、どこ行くの?」
「あ、そうだ。キュールちゃんを探しに行くの」
「そうなんだ。ちょっと疲れたからマリスタンの試合が終わったら合流するよ」
「分かった!またね、それとおめでとう!!!」
「ありがとー!それじゃまた後で!」

 スタグリアン君とも別れて再びキュールちゃんを探しに行く。直ぐに見つかると良いけど………

☆★☆★☆

 第一決闘場に着くとそこではクライト君と、えっと…………クレジアント君?だっけ、確かそんな名前の人とでまさかの互角の勝負をしてた。

「凄い………」

 私でも、連続行使は中々出来るか厳しい魔法と凄まじい速度で交わされる剣の応酬をしていた。見ている人たちの盛り上がり方も過去一だと思う。そして、ただ唖然としてる観客の人たちも過去一かもしれない。

「そ、そうだ。キュールちゃん探さなきゃ………!」

 あまりにクライト君と多分………クレジアント君の戦闘が鮮やかで激しくて、一瞬見惚みとれていた。ずっと足を止めてる訳にもいかないから走ってキュールちゃんを探す。幸いにも、結構すぐに見つかった。

「あ、ゆ、ユーリア」
「キュールちゃん居た!この試合凄いね!」
「す、凄いですよね………ちょっと、怖いです」
「怖い?何が怖いの?」
「え、えっと、単純に戦闘の激しさって意味でもそうですし、な、何より怖いのは、その、クライト君が勝てるかで………あの二人さっきからずっとあの規模の攻防してるんです………どっちが勝ってもおかしくないから、それで………」

 なるほど、そういう心配か。でも、キュールちゃんはクライト君の事を本気で想ってるってことが分かった。それならやっぱり、クライト君の彼女はキュールちゃんが彼女になって欲しい。

「キュールちゃんはどっちが勝ってほしい?」
「え、そ、それはクライトが勝ってほしいですけど………」
「だったらさ、いっぱい応援してあげなよ!応援の人の声は戦ってる人の力になるから!それに、キュールちゃんはクライト君の事好きなんでしょ?」
「え、えっ!あっ、ちょっと!そうですけど、は、恥ずかしいですよぉ………」
「大丈夫、ここには私達しかいないから!それで、好きなんだったら応援する方は決まってるよね!もちろん心配する気持ちは分かるけど、信じようよ!」

 薄ぺっらい言葉だとは思う。でも、そういう言葉の方が元気とか勇気づけるのには最適だったりするから。薄っぺらくてもいい、クライト君が勝ってくれたらそんな薄っぺらい言葉にも意味がある。

「わ、わかりました!クライトを信じます!」
「そう来なくちゃ!ほら、クライト君頑張ってる………あ、見て!」

 私達がクライト君の戦いに再び目を開けた時、クライト君の対戦相手であるクレジアント君は膝をついていた。何でかは分からない、でもあの感じ毒状態なのかも。クライト君がちょくちょく当たる攻撃に混ぜて、毒を仕掛けたのかな?

「お、お相手さんが、膝をつきました!」
「ほら、クライト君が勝つんだから!でも、それにしてもクレジアント君も凄いよね。クライト君と同じくらい強い人なんて、先生以外で初めて見たかも!」
「そ、そうですよね。私もびっくりです………」

 クライト君が剣でクレジアント君を気絶させて勝利した。会場が壊れんばかりに観客の皆が沸き上がっている。クライト君はそのばにへたり込んで息を整えているようだった。

「クライト君の所に行こう!」
「わ、わかりました!」

 私とキュールちゃんは下へ続く階段へ向かい、降り始めた。その瞬間、

「な、なんだあれはぁぁぁあ!!!???」

 階段の頭上に設置されていたスピーカーから大声を張り上げたスティーブンさんの声が聞こえる。なんだろう?クライト君が何か技とか、使ったのかな?でも………なんで今?

「まるで、まるで空間が裂けているように見える!!!!! いや、裂けているのかもしれない!!! クライト選手とクレジアント選手!!!!! 大丈夫でしょうか!!! え、ちょっと!!! 逃げてください!!!!!」

「え、クライト君!?」
「な、何があったんですか!?」

 突然、スティーブンさんがさっき対戦していた二人の安否を心配し始める。何だか嫌な予感がする。

「ク、クライト選手ーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!! 誰か!!! 誰か助けられる人はいませんか!!!!! って、まだあの裂け目から魔人達が出てきている!!!!! み、皆さん!!! 十二分じゅうにぶんに戦える者はフィールドへ!!!!! 戦えない市民の皆さんは『今すぐに』避難してください!!!!! 繰り返します!!! 十二分に戦える者は………」

 その予想は的中した。魔人達がクライト君に何かしているみたい………許せない

「ゆ、ユーリア、ど、どうしますか!?」
「キュールちゃん、スタグリアン君達を探してきて!私はフィールドに行って魔人達と戦ってくるから!」
「え、でもユーリア、魔人達と戦えるの!?」
「分からない!でも、助けない訳にはいかない!!!それじゃあよろしくね!」
「あっ、ユーリア!」

 キュールちゃんには悪いけど、今はクライト君の彼女とかそういうのではない。

 クライト君の元へ走る。間に合ってとは思っても、間に合うのかなんて考えない。ただ、ひたすらにクライト君を助けるために、今だけは可愛さを捨てて全力で走る。

「クライト君………!!!!!」

 私がフィールドに着いた時、すでに地面に倒れていた。





 でも生きていた。クライト君は気絶していても、確かに息をしていた。今、たった一人で魔人達と相対あいたいしている人が居たから。



 それは、クレジアント君だった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

世界最強の勇者は伯爵家の三男に転生し、落ちこぼれと疎まれるが、無自覚に無双する

平山和人
ファンタジー
世界最強の勇者と称えられる勇者アベルは、新たな人生を歩むべく今の人生を捨て、伯爵家の三男に転生する。 しかしアベルは忌み子と疎まれており、優秀な双子の兄たちと比べられ、学校や屋敷の人たちからは落ちこぼれと蔑まれる散々な日々を送っていた。 だが、彼らは知らなかったアベルが最強の勇者であり、自分たちとは遥かにレベルが違うから真の実力がわからないことに。 そんなことも知らずにアベルは自覚なく最強の力を振るい、世界中を驚かせるのであった。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

俺、貞操逆転世界へイケメン転生

やまいし
ファンタジー
俺はモテなかった…。 勉強や運動は人並み以上に出来るのに…。じゃあ何故かって?――――顔が悪かったからだ。 ――そんなのどうしようも無いだろう。そう思ってた。 ――しかし俺は、男女比1:30の貞操が逆転した世界にイケメンとなって転生した。 これは、そんな俺が今度こそモテるために頑張る。そんな話。 ######## この作品は「小説家になろう様 カクヨム様」にも掲載しています。

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

処理中です...