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異世界転生編 1章 強者への道

13話 旅立ち・・・エルシュタイト王国へ

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 国王から直々の嘆願で王立ソルシエール学院に急遽入学することになった俺たち3人は、入学するための準備に追われている。しかし、これは秘密裏に遂行され王国内でもごく一部の者にしか伝えられていない極秘事項にされている。
 本来は俺1人が特待生として招かれる予定だったが、素直にそれを受け入れるのは百依百順だと感じ、マリアとフィオを俺と同条件で入学可能なら了承すると申し立てた。もちろん、この2人の実力も伝えた上での話だ。
 俺が魔法を使えるようになってから、一緒に鍛錬してきたからな。マリアもフィオも特待生としての実力は十分に備わっている。
なので、3人は試験などなくフリーパスで入学だ。

「兄さん、住まいはどの様な場所か聞いているのかしら?」
「ああ、俺たち3人は学院の特待生専用家屋らしいぞ」
「そうですか。それなら安心だわ」
 そう聞いて安心したのか、微笑んでいる。
「あの・・・レン様、私も一緒で大丈夫なのでしょうか?」
 不安そうに、恐々と伺ってくる。
「もちろんだ、フィオ! むしろ居ないと困る。マリアもそう思っている」
 なんだか、照れ臭かったのでマリアを巻き添えにする。
「あら、私は兄さんと2人だけでも大丈夫よ」
 艶っぽい表情で答えるマリア。
 ふぅ・・・また俺をからかいにきているなこれ。
「じゃあ、誰が身の回りの世話をするんだ? お前がやるのか?」
「ええ、それくらい私にかかれば余裕ですわ。朝のお世話も、夜のお世話も私にお任せあ・れ」
 四つん這いで俺に近づき、ウインクするマリア。
・・・何のお世話をするんだか。家事もろくに出来ないくせに。
「ふわぁぁぁ・・・兄妹で、よ・・夜のお世話」
 顔を赤らめるフィオ。
「お前がお世話ねぇ・・・だが、断る!」
「なんですって!!」
「そして、フィオは変な想像しない!」
「はわわ・・・申し訳ございません、レン様」
 委縮したフィオを見て、焦った俺はすぐに弁解した。
「ああ、ごめん。別に怒ってないから大丈夫だよ」
 フィオに微笑みかけて頭を撫でる。
「あ・・・えへへ」
「んもう、そうやってすぐフィオを甘やかすのね」
「だって、フィオの悲しむ顔を見たくないからな」

 そう・・・出会った頃のフィオは、いつも脅え笑顔もなく悲しそうな表情ばかりしていた。そんな悲しげな表情を見ているのが苦しくなり、フィオを心から笑顔にさせたいという気持ちが強く押し出され、優しく接し長い年月をかけ心を解きほぐしていった。
 今では感情も豊かになりフェイグラム家で幸福な生活を送っている。ただ、たまに1人で物思いにふけていることがある。おそらく、ここに来る前に何かあったのだろうな。いつか、話を聞く機会が訪れたら親身になって相談に乗ろう。

 ちなみに、フィオはエルフ族だ。エルフと言えば金髪が定番だが、彼女は銀髪のサラサラロングヘアーで年齢より幼げな印象で可愛らしい顔立ち。おとなしく仕草や表情を見ていると、ついつい甘やかしたくなる。

「これで良しと。さて、準備も終わったし明日の出発に備えて今日はもう寝るか」
 とりあえず、身の回りで必要な小物だけ持参し、家具や重たい荷物は後日馬車で輸送してもらう手筈にしている。

「そうね、それじゃ兄さん、フィオお休みなさい」
「ああ、お休み」
「お休みなさいませ、マリア様」
 立ち上がり自室に向かったマリア。

「・・・・・・」

「ん? どうした、フィオ。俺の顔に何かついているか?」
 黙って俺を見つめているから、気になって聞いてみる。

「あの・・レン様、私学院で上手くやれるかどうか不安です」

「大丈夫だよ・・・フィオはこの5年間で俺の鍛錬についてこれるようになったし、魔法師として独り立ちできるくらいの実力はある。もっと自信を持っても良いと思うぞ」

 しかし、フィオは下を向き押し黙っている。何か、別な不安なことを危惧しているのだろうか。

「フィオが何を抱えているのか分からないけど・・・でも、もしフィオに何かあったとしたら俺が絶対に守ってみせる!」

 フィオの両肩を掴み俺の熱い思いを伝える。俺はもう二度と大切な人を失わせないと誓ったから・・・

「!!」

フィオは頭を上げ、顔が火照り少し驚いた表情で俺を見る・・・が、フィオの目から涙が滴り落ちていた。

「フィオ! どうして、泣いて・・・」

「え? あれ・・・私泣いている・・・・」

「ご、ごめん・・俺何か悲しくさせるようなこと言ったか?」

「いえ・・いえ・・・違います・・・嬉しくて。レン様に、言われたことが嬉しくて涙が出たんだと思います。」
そう言って、フィオは涙を拭いながら満面な笑みで答えた。

「・・・・・可愛い」

「え?」

「あっ・・・いや、なんでもない」
あまりの可愛さに、つい言葉が漏れてしまった。

「さあ、フィオもそろそろ寝ようか」
このまま一緒にいると、変な気分になりそうだ。

「そうですね。もう寝なきゃですね・・・それではレン様、お言葉に甘えてお先に失礼いたします。お休みなさいませ」
気を取り直して、いつものメイド仕様に戻る。

「ああ、お休み」

「・・・・・・ふう」
「俺も寝るか」


 自室前で立ち止まるフィオ。

 レン様に、私を絶対に守るって言われた・・・
 さっきの言葉を思い出す
 本当に嬉しかった
 私を大切にしていてくれると感じた
 でも・・・
 いいのかな・・・
 私にそんな資格があるのかな
 いつかはレン様に伝えなければいけない時が来る
 過去を・・・
 それを聞いて、それでも私を守ってくれるのかな?
 助けてくれるのかな?
 もし、助けてもらえたとしても
 レン様に重い十字架を背負わすことになるかもしれない
 そんなのは嫌
 だから言えない・・・
 学院では気をつけなきゃ、お母さまにも念を押されている
 でも、もう10年以上の時が経ってるもの・・・
 私が誰かなんて簡単には気づかれないはず
 でも不安・・・

 レンがいた場所を見つめ、不安な思いを拭い切れない気持ちを押し殺し、自室に入るフィオだった。


――――翌朝

「レン、マリア・・気を付けて行ってくるのだぞ」
「はい」
「ええ、しっかりと兄さまの手綱は握っておきますわ」
 お前は何しに行くんだ・・・はぁ、ほんとブレないな
「ん~コホン・・・フィオ、大変だろうが2人の面倒をよろしく頼む」
 マリアを無視してフィオに話す父上。まあ、当然だな。
「はい。ご主人様、謹んで責務を全う致します」
 フィオは姿勢を正しお辞儀する。
「ああフィオ、今日からお前の主人はレンにする」
「え!?」
「なんだって!」
 俺たちは驚き、思わず見つめあう。
「ジュナと相談し、その方が良いと判断してな。そう決めたのだよ」
「フィオ、これからは主人としてレン様にお仕えするのですよ」
「は、はい、お母さま。承りました」
「あ、あのレン・・いえご主人様、今以上にお仕えさせていただきますので、何卒よろしくお願いいたします」
「あ、ああ・・・こちらこそ、よろしく頼む・・・でも、そのご主人様は勘弁してくれ。今まで通りレンで良いし、畏まらなくてもいいよ」
「・・・はい、レン様がそうおっしゃるのなら」
「うふふ~レン、マリア、フィオちゃんも居なくなるのは寂しいけど、頑張るのよ~」
「はい。母上もお体には気を付けて」
「じゃあ、お母さま行ってくるわね」
「奥方様、今日まで本当にお世話になりました」
「たまには手紙とか、休暇に入ったら帰ってくるのよ~」

「では行ってまいります」
 軽く会釈をし、俺たちは馬車に乗り込み旅立った。

 王国までは馬車で3日はかかる。道中、街を経由しながら王国を目指す。

 そういえば、俺がこの世界に来てまだ自分の街以外は行ったことがない。
どんな街並みが見られるか楽しみだな・・・

 それから俺たちは『クラエスタ』『ラナヴァイト』の街を経由し王国に向かった。2つの街は活気あふれ、俺の街では見たこともない農産物や装飾品などが販売されていた。宿の食事も寝室も満足がいくものだった。

 クラエスタを出て山道を通過していたら、あるある盗賊どもが襲ってきたが、取るに足らなかったので割愛する。
その盗賊を締め上げ、ラナヴァイトのギルドに放り投げてきたら報奨金を頂いた。

「坊ちゃん、もうすぐ到着しますぜ」

「ようやくか・・・ほんと遠いな」
電車や車なら、すぐ着く距離なんだけどな。現世の文明が少し恋しくなる。今あの世界はどうなっているのかな・・・

「兄さんなら、転移魔法とか可能なんじゃない?」

「転移魔法?」

「ゲートを作り移動したい場所にも同様のゲートを作り、その空間を繋げて瞬時に移動する魔法。て、言えば分かるかな」

 しかし、これは無属性になるのかな。単純にイメージしただけで次元うんぬんをどうにかできるなら苦労はしない。次元について詳しくないし、この世界で次元に関する書物があるかどうかも分からない。

「どうだろうな・・・単純にイメージしてできるような気はしないなあ。王国に何か転移魔法に関する書物があればいいけどね」

「そう・・・でも、兄さんならきっとできるわ!」
「私も、レン様なら可能だと思います!」

 なんで2人とも根拠もないのにそんな自信満々な顔して言うの? 俺をなんでもできる完全無欠の超人とでも思っているのだろうか・・・でも、空間アイテムBOXが作成できるなら転移魔法も可能かもしれない。そういや、神様が使っていたな。

「まぁ、落ち着いたら考えてみるよ」

「見えてきましたぜ」

 3人で他愛もない話をしているうちに王国に近づいたようだ。俺は、前を向き王国を見る。

「これが王国・・・・・・」

 俺は、この光景をなんて言葉にしたらいいんだろう・・・
 見たこともない、美しく雄大な眺望に魂まで震えていた。
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