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1部 2章
イツミ川、バラバラで赤 2
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大人たちに怪しがられないように、オレたちは町の外へ出ることにした。
コソコソとはせずに、いつも通りというか、堂々と振る舞って。すれ違う大人たちがいれば、相手が誰であろうともちろん朝の挨拶をしながら、向かったのは北門。南門から出たほうが《イツミ川》への距離は近いのだが、近いということは、何か異変が起きているとするなら当然そこには大人たちの注意もたくさんあるだろうと判断してのことだ。
「厩舎、変、だったわよね」
「ああ。馬車がたくさん用意されてた」
「荷台に積む、木箱とか樽とかも、めちゃくちゃあった。あれって、中、何かしら」
「普通に考えたら、旅の道中での食料とか水、いろんな生活用品だろうな」
オレたちは今、南門を無事に抜け、一気に全力疾走し、すぐ傍にある林のこんもり茂った低木の陰にしゃがみ込んでいた。一旦潜んで、コソコソ動くために息を整えているのだ。
今しがた見たばかりの光景は、昨日までのものとはまるで異なっていた。
南門の傍では、大がかりな旅の準備のようなものが行われていたのだ。
厩舎では、馬に詳しい大人たちが厳しい表情で、馬の状態を見ていた。それは厩舎に勤める人にとっては日常の仕事と言えばそうだけれど、こんな朝早くからやっているところなんて見たことないし、馬の整備をしているとは思えないほどの緊張感を漂わせていた。
そんな厩舎のすぐ前の広い道には、荷台がたくさん置かれていた。馬に引かせ、馬車にするための荷台だ。中には幌付きの上位品まであった。
そしてその荷台の周りには、幾つもの木箱や樽が置かれていて。
明らかに遠出の準備をしていたのだ。
「誰が用意させてるんだろう」
「一人の人間が準備させてるんだとしたら、そんなのグレンさんしかいないでしょ」
「まあ、とんでもない金額だろうからな」
あれだけの積荷と相応の荷台、それらすべてを馬で引くのだとすれば、オレたちでは頭の中で計算することができないほどの費用がかかるはず。
莫大な財産を持っているだろうグレンさんくらいしかできない芸当だろう。
「グレンさんの、何か、商売ってことかしら」
ネルの言葉に、オレは「多分?」と曖昧にしか返せなかった。
「だって、商売じゃなかったとしたら、さ」
「あれだけの大人数が出てっちゃうなんて、普通じゃないわよね」
「…………」
「…………」
黙り込んでしまう、オレとネル。
多分だけど、ネルもオレと同じ感情に襲われたんだと思う。
きっと、怖くなってしまったんだ。
考えてしまって。
もしもあの荷台や馬が、グレンさんの……グレンさんでないにしても誰かの商売でないのだとしたら、誰かが町を出て行くためだとしたら、それはきっと一人や二人ではない。
ひと家族、どころでもない。
モエねぇだって、それなりに積荷もあったのに、三人家族で馬車一台で済んだのだ。
それを基準で考えるとすると、先ほど南門で見たものは、十家族でも全然賄える。
普通のことではない。
こんな、小さな町の規模では……。
「やっぱり、何か起きてるんだわ」
「かもな」
「は? かも?」
「……いや、オレもそう思う」
オレの中にも、~かもなんて濁せないくらいの確信は、もはや芽生えている。
「行こ」
「……ああ」
確信が芽生えている。
だからこそ、引き返すべきだ。
グレンさんは行くなと言った。
それなりのことが、この先の《イツミ川》で起きている可能性が極めて高いのだ。
でも、身を屈め林を奥へ向かうカノジョのお尻を、オレは追うしかなかった。
危ないだろうからこそ、ネルを一人では行かせられない。
それが当初の、行くと決めたときの、オレの動機だった。
けれど、今は……。
ネルを一人にはさせられない気持ちと競えるほどの、強い強い好奇心があった。
川で一体、何が起きているというのだろうか。
コソコソとはせずに、いつも通りというか、堂々と振る舞って。すれ違う大人たちがいれば、相手が誰であろうともちろん朝の挨拶をしながら、向かったのは北門。南門から出たほうが《イツミ川》への距離は近いのだが、近いということは、何か異変が起きているとするなら当然そこには大人たちの注意もたくさんあるだろうと判断してのことだ。
「厩舎、変、だったわよね」
「ああ。馬車がたくさん用意されてた」
「荷台に積む、木箱とか樽とかも、めちゃくちゃあった。あれって、中、何かしら」
「普通に考えたら、旅の道中での食料とか水、いろんな生活用品だろうな」
オレたちは今、南門を無事に抜け、一気に全力疾走し、すぐ傍にある林のこんもり茂った低木の陰にしゃがみ込んでいた。一旦潜んで、コソコソ動くために息を整えているのだ。
今しがた見たばかりの光景は、昨日までのものとはまるで異なっていた。
南門の傍では、大がかりな旅の準備のようなものが行われていたのだ。
厩舎では、馬に詳しい大人たちが厳しい表情で、馬の状態を見ていた。それは厩舎に勤める人にとっては日常の仕事と言えばそうだけれど、こんな朝早くからやっているところなんて見たことないし、馬の整備をしているとは思えないほどの緊張感を漂わせていた。
そんな厩舎のすぐ前の広い道には、荷台がたくさん置かれていた。馬に引かせ、馬車にするための荷台だ。中には幌付きの上位品まであった。
そしてその荷台の周りには、幾つもの木箱や樽が置かれていて。
明らかに遠出の準備をしていたのだ。
「誰が用意させてるんだろう」
「一人の人間が準備させてるんだとしたら、そんなのグレンさんしかいないでしょ」
「まあ、とんでもない金額だろうからな」
あれだけの積荷と相応の荷台、それらすべてを馬で引くのだとすれば、オレたちでは頭の中で計算することができないほどの費用がかかるはず。
莫大な財産を持っているだろうグレンさんくらいしかできない芸当だろう。
「グレンさんの、何か、商売ってことかしら」
ネルの言葉に、オレは「多分?」と曖昧にしか返せなかった。
「だって、商売じゃなかったとしたら、さ」
「あれだけの大人数が出てっちゃうなんて、普通じゃないわよね」
「…………」
「…………」
黙り込んでしまう、オレとネル。
多分だけど、ネルもオレと同じ感情に襲われたんだと思う。
きっと、怖くなってしまったんだ。
考えてしまって。
もしもあの荷台や馬が、グレンさんの……グレンさんでないにしても誰かの商売でないのだとしたら、誰かが町を出て行くためだとしたら、それはきっと一人や二人ではない。
ひと家族、どころでもない。
モエねぇだって、それなりに積荷もあったのに、三人家族で馬車一台で済んだのだ。
それを基準で考えるとすると、先ほど南門で見たものは、十家族でも全然賄える。
普通のことではない。
こんな、小さな町の規模では……。
「やっぱり、何か起きてるんだわ」
「かもな」
「は? かも?」
「……いや、オレもそう思う」
オレの中にも、~かもなんて濁せないくらいの確信は、もはや芽生えている。
「行こ」
「……ああ」
確信が芽生えている。
だからこそ、引き返すべきだ。
グレンさんは行くなと言った。
それなりのことが、この先の《イツミ川》で起きている可能性が極めて高いのだ。
でも、身を屈め林を奥へ向かうカノジョのお尻を、オレは追うしかなかった。
危ないだろうからこそ、ネルを一人では行かせられない。
それが当初の、行くと決めたときの、オレの動機だった。
けれど、今は……。
ネルを一人にはさせられない気持ちと競えるほどの、強い強い好奇心があった。
川で一体、何が起きているというのだろうか。
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