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10.ざしきわらしと「僕」のおはなし
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あのお兄ちゃん、やっぱり面白いよね。あたしたちは、アイスキャンディーをぺろぺろしながら、お兄ちゃんをお見送りする。
えへへ、おやつもらえてラッキーだったね。みんなのは、なに味だった? あたしのは、オレンジ。あ、ぶどうもおいしそう。ひとくちちょうだい。あたしたちは、アイスキャンディーをちょっとずつ食べさせあいっこしながら、おしゃべりする。
次は、アイスクリームが食べたいねえ。チョコモナカもおいしそうだし、ソフトクリームもいいなあ。お兄ちゃん、次はいつコンビニに行くのかな。ぴょんぴょんととんでみても、コンビニは遠くて、ここからじゃちっとも見えない。
お外に行きたいなあ。でも、子どもだけで遊びに行くのは危ないもんね。やっぱりおみやげを買ってきてもらえるように、いい子でお留守番していよう。あたしたちは、こくりとみんなうなずいた。新しくきた女の子も、こくんと少しおくれてうなずく。久しぶりの迷子ちゃん。あたしがここに来てから初めての、新しいお友だち。
このアパートだけ、迷子が多いってお兄ちゃんは言うけれど、そんなに迷子ばっかり来るわけない。そもそもこのアパートは、目立たないもん。ふつうのひとからは、見つからない。そういう風にできてるんだよ。それなのにたくさん迷子がやってくるのは、お兄ちゃんがここにいるから。
お兄ちゃんはね、きらきらしていて、とっても目立つの。そうだね、田舎においてある自動はん売機とか電話ボックスって見たことある? まわりは真っ暗なのに、そこだけびっくりするくらいまぶしいから、たくさん虫が集まってきちゃうんだよ。あれとおんなじ。もっと力が強いひとだと、海の近くの灯台みたいになるんだと思うけど。
雪女のお姉ちゃんが、悪い虫が来ないようにがんばっているのもよくわかるなあ。小バエやガくらいならいいけど、うっかりクモとかカマキリとかが来ちゃったらこわいもんねえ。お兄ちゃんったらぼーっとしてるから、うっかりそのまま食べられちゃったりなんかして。あ、新しく入ってきた女の子がびっくりしてる。
ごめんごめん。だいじょうぶだよ。このアパートの中にいたら、平気だよ。悪いものは、あたしたちの部屋までは入って来ないから。でもお外に行くときは、気をつけてね。あなたはまだ、ひとりで出ていっちゃだめだよ。お外に行きたくなっても、がまんがまん。出かけてもだいじょうぶになったら、ちゃんと管理人さんが教えてくれるからね。
さあて、アイスキャンディーも食べおわったし、なにして遊ぼうか。かけっこ、おにごっこ、かくれんぼ。はないちもんめもいいけれど、ここはやっぱり、かごめかごめにしとく? 定番ってやつだよね。あなたもほら、早く!
あたしが声をかけると、新しい女の子はもじもじと下をむいちゃった。え、みんなの名前がわからない? だいじょうぶだよ。だって、もうみんな同じだもの。あたしたちのこと、ちゃーんと、わかるでしょう? 新しいお友だちを囲んで、あたしたちは、かごめかごめを始める。
かごめ かごめ
かごの なかの とりは
新しく来た女の子は、お兄ちゃんのおかげですっかりキレイになっていた。真っ赤だった顔や体ももとにもどって、つるつるのすべすべ。これなら、もう安心だね。ん、急にしょんぼりして、どうしたの? ああ、おうちに帰ったらお塩をまかれて、びっくりしたの? あわてて走ってきたから、迷子になっちゃったのね。かわいそう。真夏の車のなかはオーブンの中といっしょ。こんな風にしたのは、自分たちなのにね。だいじょうぶ、もうだいじょうぶ。ここには、あたしたちをイジメるひとはいないから。
いつ いつ でやる
よあけの ばんに
あたしたちはみんな、遊ぶのが大好き。楽しいことが大好き。優しいお友だちが大好き。親切なおとなも大好き。あたしたちは、いつの間にか増えたり減ったり。河の向こうに行く子もいれば、すてきな誰かを見つけてついていく子もいる。あなただって選べばいい。ここにずっといてもいい。お外に出られるようになったら、お外に出たっていい。大切なひとを守るために、もう1度、がんばってみるのもいい。あたしたちには、選ぶ自由と権利があるもの。
つると かめが すべった
アパートの外でにこにこしながら、あたしたちを見ている女のひとがいる。横にいる男のひとも優しそう。ほわほわと、やわらかそうな光があふれていた。ああ、あのひとたちだ。あたしたちには、ちゃんとわかる。うん、あのひとたちとなら、幸せになれるって。さあ、あの人たちについていくのは、だあれ?
うしろの しょうめん だあれ
昔は、あたしたちは古くて、大きな家についていたんだって。でもね、今はちょっとちがうの。ステキなひとを選んで、あたしたちはついていくの。だって、優しいひとがいるおうちなら、子どもがいてもいなくても、楽しく遊んでくれそうでしょう?
うふふふ、それはあなた!
せいかい、それはあたし!
「あたし」が、ひとり、ひょこひょこと走り出した。ざしきわらしはみんなでひとり。悲しかったことも、うれしかったことも、みんなとけて、混じりあっているから。うん、いいよ。あなたが行きたいなら、ついていけばいいと思う。今度こそ、幸せにになれるといいね。
ばいばい、あたし。
ばいばい、あなた。
あたしたちは、外に向かって走り出すあたしたちのひとりにむかってみんなで手をふった。
男の子しかいないおうちなのに、妹さんかわいいねって言われたりすること、あるでしょ。子どもがいないおうちなのに、お嬢さんは優しいですねって言われたりすること、あるでしょ。
それはね、たぶんあたしたち。でも、びっくりしないでね。あたしたちは、ただみんなのことが大好きなだけなんだから。いつか、あたしの番も来るかしら。あたしは、ちょっとだけさびしい気持ちで、新しい女の子の手をぎゅっとにぎった。
えへへ、おやつもらえてラッキーだったね。みんなのは、なに味だった? あたしのは、オレンジ。あ、ぶどうもおいしそう。ひとくちちょうだい。あたしたちは、アイスキャンディーをちょっとずつ食べさせあいっこしながら、おしゃべりする。
次は、アイスクリームが食べたいねえ。チョコモナカもおいしそうだし、ソフトクリームもいいなあ。お兄ちゃん、次はいつコンビニに行くのかな。ぴょんぴょんととんでみても、コンビニは遠くて、ここからじゃちっとも見えない。
お外に行きたいなあ。でも、子どもだけで遊びに行くのは危ないもんね。やっぱりおみやげを買ってきてもらえるように、いい子でお留守番していよう。あたしたちは、こくりとみんなうなずいた。新しくきた女の子も、こくんと少しおくれてうなずく。久しぶりの迷子ちゃん。あたしがここに来てから初めての、新しいお友だち。
このアパートだけ、迷子が多いってお兄ちゃんは言うけれど、そんなに迷子ばっかり来るわけない。そもそもこのアパートは、目立たないもん。ふつうのひとからは、見つからない。そういう風にできてるんだよ。それなのにたくさん迷子がやってくるのは、お兄ちゃんがここにいるから。
お兄ちゃんはね、きらきらしていて、とっても目立つの。そうだね、田舎においてある自動はん売機とか電話ボックスって見たことある? まわりは真っ暗なのに、そこだけびっくりするくらいまぶしいから、たくさん虫が集まってきちゃうんだよ。あれとおんなじ。もっと力が強いひとだと、海の近くの灯台みたいになるんだと思うけど。
雪女のお姉ちゃんが、悪い虫が来ないようにがんばっているのもよくわかるなあ。小バエやガくらいならいいけど、うっかりクモとかカマキリとかが来ちゃったらこわいもんねえ。お兄ちゃんったらぼーっとしてるから、うっかりそのまま食べられちゃったりなんかして。あ、新しく入ってきた女の子がびっくりしてる。
ごめんごめん。だいじょうぶだよ。このアパートの中にいたら、平気だよ。悪いものは、あたしたちの部屋までは入って来ないから。でもお外に行くときは、気をつけてね。あなたはまだ、ひとりで出ていっちゃだめだよ。お外に行きたくなっても、がまんがまん。出かけてもだいじょうぶになったら、ちゃんと管理人さんが教えてくれるからね。
さあて、アイスキャンディーも食べおわったし、なにして遊ぼうか。かけっこ、おにごっこ、かくれんぼ。はないちもんめもいいけれど、ここはやっぱり、かごめかごめにしとく? 定番ってやつだよね。あなたもほら、早く!
あたしが声をかけると、新しい女の子はもじもじと下をむいちゃった。え、みんなの名前がわからない? だいじょうぶだよ。だって、もうみんな同じだもの。あたしたちのこと、ちゃーんと、わかるでしょう? 新しいお友だちを囲んで、あたしたちは、かごめかごめを始める。
かごめ かごめ
かごの なかの とりは
新しく来た女の子は、お兄ちゃんのおかげですっかりキレイになっていた。真っ赤だった顔や体ももとにもどって、つるつるのすべすべ。これなら、もう安心だね。ん、急にしょんぼりして、どうしたの? ああ、おうちに帰ったらお塩をまかれて、びっくりしたの? あわてて走ってきたから、迷子になっちゃったのね。かわいそう。真夏の車のなかはオーブンの中といっしょ。こんな風にしたのは、自分たちなのにね。だいじょうぶ、もうだいじょうぶ。ここには、あたしたちをイジメるひとはいないから。
いつ いつ でやる
よあけの ばんに
あたしたちはみんな、遊ぶのが大好き。楽しいことが大好き。優しいお友だちが大好き。親切なおとなも大好き。あたしたちは、いつの間にか増えたり減ったり。河の向こうに行く子もいれば、すてきな誰かを見つけてついていく子もいる。あなただって選べばいい。ここにずっといてもいい。お外に出られるようになったら、お外に出たっていい。大切なひとを守るために、もう1度、がんばってみるのもいい。あたしたちには、選ぶ自由と権利があるもの。
つると かめが すべった
アパートの外でにこにこしながら、あたしたちを見ている女のひとがいる。横にいる男のひとも優しそう。ほわほわと、やわらかそうな光があふれていた。ああ、あのひとたちだ。あたしたちには、ちゃんとわかる。うん、あのひとたちとなら、幸せになれるって。さあ、あの人たちについていくのは、だあれ?
うしろの しょうめん だあれ
昔は、あたしたちは古くて、大きな家についていたんだって。でもね、今はちょっとちがうの。ステキなひとを選んで、あたしたちはついていくの。だって、優しいひとがいるおうちなら、子どもがいてもいなくても、楽しく遊んでくれそうでしょう?
うふふふ、それはあなた!
せいかい、それはあたし!
「あたし」が、ひとり、ひょこひょこと走り出した。ざしきわらしはみんなでひとり。悲しかったことも、うれしかったことも、みんなとけて、混じりあっているから。うん、いいよ。あなたが行きたいなら、ついていけばいいと思う。今度こそ、幸せにになれるといいね。
ばいばい、あたし。
ばいばい、あなた。
あたしたちは、外に向かって走り出すあたしたちのひとりにむかってみんなで手をふった。
男の子しかいないおうちなのに、妹さんかわいいねって言われたりすること、あるでしょ。子どもがいないおうちなのに、お嬢さんは優しいですねって言われたりすること、あるでしょ。
それはね、たぶんあたしたち。でも、びっくりしないでね。あたしたちは、ただみんなのことが大好きなだけなんだから。いつか、あたしの番も来るかしら。あたしは、ちょっとだけさびしい気持ちで、新しい女の子の手をぎゅっとにぎった。
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