お掃除をしていたら幸せになった、片付け下手なOLさんのおはなし

石河 翠

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お掃除をしていたら幸せになった、片付け下手なOLさんのおはなし(3)

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 佳苗さんがチャーハンを食べていると、インターホンが鳴りました。そこにいたのは、会社の後輩くんです。子犬のようで可愛らしいと、に人気があります。

 画面越しに「お土産を持ってきました!」とアピールする姿を見て、佳苗さんは仕方なく彼を家の中に入れてやりました。

「ちょっと、急に来られても困るんだけれど」
「先輩、いつも散らかってるから家に来るなって言ってますけど、家の中めっちゃきれいじゃないっすか」
「たまたま、大掃除しただけ」
「俺とのデートすっぽかして?」
「デートじゃなくって、忘年会の買い出しね。ごめんなさい、お掃除妖精さんに鍵をとられたの」

 佳苗さんは、肩をすくめました。後輩くんは、目を丸くしています。

「お掃除妖精さん? それって『小人の靴屋』みたいに、夜寝ている間に掃除してくれてる的な?」
「そうじゃなくって、夜寝ている間に大事なものを隠されて、仕方なく家中の掃除をしながら捜索する感じね。最終的に家は片付くし、探し物も見つかるんだけれど」
「なにそれ、めっちゃ厳しいじゃないですか」
「そうなの、うちのお掃除妖精さんって、わりとスパルタなの」

 佳苗さんは、今までのことを思い出して口角を上げました。

 もともと佳苗さんはお掃除が苦手なのです。

 佳苗さんのお父さんとお母さんは、佳苗さんが高校生の時に離婚してしまいました。そして少しばかりのお金を残して、ふたりともいなくなってしまいました。

 それ以来佳苗さんはずっとひとりで暮らしてきました。家の中が散らかっていたところで、誰も困らなかったのです。

 気がつくと部屋中にものがあふれ出しています。そしていよいよもって家の中に空きスペースがなくなると、佳苗さんの大事なものが見つからなくなるのです。

 なくなるものは毎回違います。

 お財布のときもありました。
 携帯電話のときもありました。
 会社の社員証のときもありました。

 家中の片付けを終わらせると、散々探した場所からその失くしものは見つかりました。最初からここにありましたよと言わんばかりの素知らぬ顔で。

 お財布は、カバンの中で見つかりました。
 携帯電話は、玄関の下駄箱に立てかけられていました。
 社員証は、スーツを掛けたハンガーに一緒にかけられていました。

 どうやらお掃除妖精は、家が散らかっていることが許せないらしいのです。日頃の鬱憤がたまっているのでしょうか。一箇所きれいにしたところで、探し物は見つかりません。食器棚の中、衣替え用の洋服タンスの中まで全部ひっくり返し、整理してしまうまで許してもらえません。

 佳苗さんは何かがなくなるたびに、お掃除妖精さんに、いい加減にお掃除をしなさいと叱られているのだと思っています。お掃除妖精さんは、佳苗さんにとって家族のような存在なのでした。
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